中国株の銘柄選び

香港市場の主要銘柄:AIAグループ(2) AIGから独立して香港市場に上場、ロゴに描かれている山は?

世界7位の規模を誇る香港市場。香港市場には中国を代表するIT企業など、数多くの魅力的な銘柄が上場しています。これまでテンセント(00700)、アリババ集団(09988)、中国建設銀行(00939)、チャイナ・モバイル(00941)、美団(03690)、HSBC(00005)の6銘柄を紹介してきました。今回は前回に続き時価総額7位のAIAグループ(01299)を紹介します。 



創業者から2代目のグリーンバーグ氏にバトンタッチ


1950年代から1960年代にかけて創業者スター氏のもとで事業は急拡大し、その勢いのまま1960年代後半には後継者として指名されたモーリス・R・グリーンバーグ氏が事業を引き継ぎます。事業地域も拡大していきます。1957年にブルネイ、1972年に豪州、1981年にニュージーランド、1982年にマカオ、1984年にインドネシア、1987年に韓国、1990年に台湾、2000年にベトナム、2001年にインドへと次々と進出。


AIAの親会社であるAIG(アメリカン・インターナショナル・グループ)は、グリーンバーグ氏のもとで1984年にニューヨーク証券取引所に上場を果たします。 


写真は創業者のスター氏(写真右)とグリーンバーグ氏(写真左) 出所:スター保険会社


中国事業は1992年に再開、約40年ぶりに創業に地に戻る


中国事業については、中華人民共和国の建国を受けて撤退を余儀なくされていましたが、鄧小平氏が主導した改革開放政策で流れが変わります。


1992年には中国当局が上海支社の設立を許可。約40年ぶりに創業の地である上海に戻り、中国事業を再開します。しかも、100%外資の生命保険会社として、初めて中国当局から事業ライセンスを取得します。中国政府から大きな信頼を受けていたことがわかります。


 

写真は中国への「里帰り(回老家)」を知らせる新聞広告 出所:AIGホームページ


リーマン・ショックを経てAIGから独立、香港市場に上場


2000年代に入ってAIAを含めたグループ事業は拡大を続け、2007年には親会社であるAIGは世界最大規模の保険会社に成長。AIGの資産総額は約1兆米ドルに達し、事業地域は130カ国・地域に拡大します。


しかし、2008年のリーマン・ショックで事業は大きな転機を迎えます。AIGはクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)と呼ばれるデリバティブ取引を積極的に手掛けていたことが仇(あだ)となり、2008年9月に資金繰りが急速に悪化。格付け会社による信用格付けの引き下げが相次ぎます。ついには連邦準備理事会(FRB)が救済に入り、米政府の管理下に置かれます。


AIGは一時的な救済で破たんを免れますが、米政府から借りた公的資金を返済しなければなりません。2009年、AIGは公的資金返済のための再編計画を発表し、AIAを切り離すことになったのです。


AIAはアジア・太平洋地域を統括する会社として独立します。そして、2010年10月には香港市場への上場を果たします。調達額は約1590億HKドル(約2兆7000億円)に上り、香港市場で当時過去最大のIPO(新規株式公開)として注目を集めました。翌年の2011年6月には香港市場の代表的指数であるハンセン指数の構成銘柄にも選ばれます。


写真は香港証券取引所での上場の様子 出所:AIAホームページ


香港上場時にAIGはAIAの株式約33%を保有していましたが、AIGは米政府への公的資金返済のために段階的にAIA株を売却。2012年12月に全株式の売却を完了し、AIGとAIAの資本関係は完全になくなります。現在は9.8%を保有するバンク・オブ・ニューヨーク・メロンが筆頭株主となっています。

 


上場後も買収を通じてアジアで地盤固め、東亜銀行と戦略提携


香港市場への上場後も事業エリアの開拓は続きます。2012年にスリランカへの進出を果たしたのを皮切りに、2013年にミャンマー、2015年にはカンボジアへと進出。この時点で事業エリアはアジア・太平洋の18カ国・地域に拡大します。


 


また、2021年には中国郵政集団から中郵人寿保険の株式約25%を取得したほか、香港の地場銀行である東亜銀行(00023)の生保事業を買収します。東亜銀行とは15年間にわたる独占的戦略提携も締結。東亜銀行が持つ香港や中国での支店網を通じて保険商品を販売していくことで合意しました。アジアでの地盤固めが着々と進められています。


ちなみにAIAのロゴに描かれている山はヒマラヤ山脈のエレベスト(チョモランマ)です。1948年以降のロゴには必ずエベレストが描かれています。「(世界最高峰の山である)エベレストように永遠に」という意味と、「勇敢にチャレンジして頂上へ挑んでいこう」という意味が込められているそうです。AIAはすでに創業から100年を超える老舗企業ですが、チャレンジ精神は失われていません。AIAの山頂を目指すチャレンジはまだまだ続きそうです。


AIAのロゴの変遷 出所:AIA中国


この連載の一覧
二季報を使った銘柄選び(10) ランキングを使って銘柄を探す、「高配当利回り」はお宝銘柄の宝庫?10%を超える高配当銘柄がザクザク
二季報を使った銘柄選び(9) ランキングを使って銘柄を探す、「低PBR」だけで割安株を探してはいけない
二季報を使った銘柄選び(8) ランキングを使って銘柄を探す、「低PER」は投資指標の基本中の基本
二季報を使った銘柄選び(7) ランキングを使って銘柄を探す、経営効率の高い銘柄を探すなら「高ROE」
二季報を使った銘柄選び(6) ランキングを使って銘柄を探す、「時価総額」で企業規模の大きな会社を見つける
二季報を使った銘柄選び(5) 「業界マップ」を使って銘柄を見つける
二季報を使った銘柄選び(4) 証券会社の「注目銘柄ランキング」を参考にする
二季報を使った銘柄選び(3) 「業界天気予報」を使って業種を手掛かりに絞り込む
二季報を使った銘柄選び(2) 「中国株二季報」を目的に合わせて効率よく使いこなそう!
二季報を使った銘柄選び(1) 中国株の銘柄選びに欠かせない「中国株二季報」とは?
香港市場の主要銘柄:香港鉄路(5) 香港版Suicaのオクトパス、世界に先駆けてFeliCaを採用
香港市場の主要銘柄:香港鉄路(4) 香港鉄路はなにで儲けてる?鉄道会社だけど利益の柱は別にある
香港市場の主要銘柄:香港鉄路(3) 海外売上比率5割超、香港の鉄道会社だけど海外で稼ぐ
香港市場の主要銘柄:香港鉄路(2) 九広鉄路吸収で香港の鉄道独占事業者に、ディズニー線も運行
香港市場の主要銘柄:香港鉄路(1) 公共輸送シェア約5割!香港市民の移動を支える鉄道銘柄
香港市場の主要銘柄:農夫山泉(5) 広告重視の経営、どうする後継者問題?
香港市場の主要銘柄:農夫山泉(4) 勝者無き戦い、「京華時報」との大バトル
香港市場の主要銘柄:農夫山泉(3) 新参者のとった驚きの戦略とは!?訴訟に敗れて市場を奪う
香港市場の主要銘柄:農夫山泉(2) 娃哈哈との最初の確執、亀とスッポンで成功後に飲料水業界に参入
香港市場の主要銘柄:農夫山泉(1) 社名はダサそうだけど実はスゴい、ボトル入り飲料水の中国最大手
意外と身近にある中国株、街中で探してみた(4) ロクシタン、南仏プロバンス発祥の自然派コスメブランド
意外と身近にある中国株、ドンキの店内で探してみた(8) バドワイザーAPAC、世界最大のビール会社のアジア部門
香港市場の主要銘柄:ハンセン銀行(4) 23年に創立90周年、デジタル分野でも挑戦を続ける
香港市場の主要銘柄:ハンセン銀行(3) 史上最大の1965年危機、ライバルの傘下に下る
香港市場の主要銘柄:ハンセン銀行(2) 戦後の香港で再出発、香港の「超人」李嘉誠氏らを支援
香港市場の主要銘柄:ハンセン銀行(1) 「永遠の成長」を目指す香港の華人系銀行大手
香港市場の主要銘柄:中電控股(3) 戦後復興と海外展開、SOCに守られた香港事業と不安定な豪州事業
香港市場の主要銘柄:中電控股(2) カドゥーリー家の夢と挫折、第二次大戦中は日本軍が接収
香港市場の主要銘柄:中電控股(1) 100年以上の歴史を誇る香港最大の電力会社、イラク系ユダヤ人が支配
意外と身近にある中国株、街中で探してみた(3) 1910年創業の旅行かばんの王者「サムソナイト」、社名の由来となった「サムソン」とは?
意外と身近にある中国株、街中で探してみた(2) ペニンシュラホテル、「東洋の貴婦人」と呼ばれた歴史と伝統の高級ホテル
意外と身近にある中国株、街中で探してみた(1) シャングリラ・アジア、東京駅に隣接する「理想郷」
中国株ビギナーがまず選ぶのはこれ!ハンセン指数は基本中の基本
意外と身近にある中国株、ショピングモールで探してみた(1) ポップマートのロボショップ、沼にハマる人続出の「盲盒」とは?
意外と身近にある中国株、ドンキの店内で探してみた(7) お湯要らず!「海底撈」のインスタント火鍋
意外と身近にある中国株、ドンキの店内で探してみた(6) 1840年創業の超老舗企業が生み出す「鎮江香酢」
意外と身近にある中国株、ドンキの店内で探してみた(5) 不思議な味の中華ジャンクフード「辣条(ラーティアオ)」
意外と身近にある中国株、ドンキの店内で探してみた(4) 周恩来が愛した大白兎のミルクキャンディー
意外と身近にある中国株、ドンキの店内で探してみた(3) 旺旺のミルクキャンディー、独特の企業文化と「黒皮精神」
意外と身近にある中国株、ドンキの店内で探してみた(2) 洽洽食品のヒマワリの種と康師傅のカップ麺
意外と身近にある中国株、ドンキの店内で探してみた(1) 小米のスマートバンド、TCLのテレビ、ANKERのスマホアクセサリー
香港市場の主要銘柄:ネットイース(3) どん底から奇跡の大復活、ゲームを事業の柱に成長
香港市場の主要銘柄:ネットイース(2) ポータルサイト化へ戦略転換、ナスダックに上場
香港市場の主要銘柄:ネットイース(1) 中国のオンランゲーム大手、より簡単なネット接続を目指す
意外と身近にある中国株、街中の飲食店を探してみた(3) お米を使ったライスヌードル「米線」の「譚仔三哥」
香港市場の主要銘柄:CNOOC 中国最大のオフショア石油開発会社
意外と身近にある中国株、街中の飲食店を探してみた(2) 羊のしゃぶしゃぶ料理の「小肥羊」
意外と身近にある中国株、街中の飲食店を探してみた(1) 火鍋のトップブランド「海底撈」、抜群のエンタメ性が人気の秘密
香港市場の主要銘柄:JDドットコム(3) 自前主義でライバルと差別化、顧客に喜びを届ける
香港市場の主要銘柄:JDドットコム(2) 創業記念日に上場、618に強い思い入れ
香港市場の主要銘柄:JDドットコム(1) 中国のネット通販大手、分かれ道となった20年前のSARS
香港市場の主要銘柄:AIAグループ(2) AIGから独立して香港市場に上場、ロゴに描かれている山は?
香港市場の主要銘柄:AIAグループ(1) アジア最大級の生命保険会社、1919年創業の保険代理店がルーツ
香港市場の主要銘柄:HSBC(2) 民間銀行だけど紙幣を発行、紙幣に描かれたライオンの正体は?
香港市場の主要銘柄:HSBC(1) 1865年に香港で創業、アヘンで成長した黒歴史も
意外と身近にある中国株、家電量販店で探してみた(3) 白物家電編
中国株の銘柄選び:意外と身近にある中国株、家電量販店で探してみた(2) テレビ編
中国株の銘柄選び:意外と身近にある中国株、家電量販店で探してみた(1) スマホ、PC編
香港市場の主要銘柄:美団(3) 「アリババ系」から「テンセント系」へと転身、そして・・・
香港市場の主要銘柄:美団(2) アリババ集団との蜜月と決別、転機となった15年のある出来事
香港市場の主要銘柄:美団(1) ATMXの一角で時価総額5位、清華大卒の王興氏が北京で立ち上げ
香港市場の主要銘柄:チャイナ・モバイル 携帯契約数は世界1位、NTTドコモの11倍
香港市場の主要銘柄:中国建設銀行 4大国有商業銀行で時価総額最大、インフラ建設分野に強み
香港市場の主要銘柄:アリババ集団(3) アリババは102年続く企業になれるのか?
香港市場の主要銘柄:アリババ集団(2) イーベイとの争いを制して中国での覇権を握る
香港市場の主要銘柄:アリババ集団(1) 落ちこぼれジャック・マーの逆襲
香港市場の主要銘柄:テンセント、目指すは「最も尊敬されるインターネット企業」

中国株情報部 部長兼編集長

池ヶ谷 典志

立命館大学卒業後、1997年に北京の首都経済貿易大学に留学。 北京では中国国有の大手新聞社などに勤務し、中国の政治、経済、社会記事などを幅広く執筆。 帰国後の2004年にT&Cトランスリンク(現DZHフィナンシャルリサーチ)入社。 現地での豊富な経験や人脈を生かして積極的に中国企業や政府機関などへの取材を行ない、中国企業の調査・分析を行なっている。

池ヶ谷 典志の別の記事を読む

人気ランキング

人気ランキングを見る

連載

連載を見る

話題のタグ

公式SNSでも最新情報をお届けしております