中国株の銘柄選び

香港市場の主要銘柄:ネットイース(2) ポータルサイト化へ戦略転換、ナスダックに上場

世界7位の規模を誇る香港市場。香港市場には中国を代表するIT企業など、数多くの魅力的な銘柄が上場しています。これまでテンセント(00700)、アリババ集団(09988)、中国建設銀行(00939)、チャイナ・モバイル(00941)、美団(03690)、HSBC(00005)、AIAグループ(01299)、JDドットコム(09618)、CNOOC(00883)の9銘柄を紹介してきました。 今回も前回に続き時価総額10位のネットイース(網易:09999)を紹介します。



個人向けホームページ作成にスペースを開放


1997年に創業したネットイース(網易:09999)ですが、設立当初、BBS(電子掲示板)を中心に事業を展開します。BBSへの書き込みや閲覧を通じて、利用者にできる限り長い時間、インターネット空間に滞在してもらおうと考えたのです。ただ、BBSだけではサーバーの容量にかなりの空きが出てしまいます。ネットイースは当時、18GBのサーバー容量を持っていましたが、そのうち実際に利用していたのはわずかな部分です。余らせていても仕方がないため、個人向けホームページ作成用に1人当たり20MBのスペースを無料開放します。ホームページ作成にあたりアクセス集計やメッセージ機能もパッケージで整えます。


ただ、当時は個人でホームページを作成しているインターネットユーザーは中国にほとんどいません。そこで、丁磊氏は、数万元の資金を投じ、「北京在線」など当時人気のあったサイトに集中的に広告を掲載。また、自らネットサーフィンで個人ホームページを探し、素晴らしいホームページがあれば、一件ごとに直接Eメールを出してネットイースの無料スペースを利用するよう促していったのです。


じつに地道な作業ですが、次第にこうした地道な作業が実を結び、ネットイースで個人ホームページを作成するユーザーが増えていきます。オープンソースの基本ソフト(OS)である「Linux」を利用してきた丁磊氏にとって、「サービスは無料」というのが基本的な考え方として染み付いていたのです。


Hotmail導入断念でWebメールを独自開発


1997年11月、丁磊氏は海外で利用されている無料のWebメールサービスに着目し、中国で展開しようと考えます。そこで、当時成功していたHotmailのシステムを導入しようと交渉を持ちかけます。


導入費用としてざっくり10万米ドルほど借り入れれば十分と考えて交渉に臨みますが、ライセンス料として280万米ドル(約3億6600万円)、さらに設定費として1時間当たり2000米ドルという金額を要求されます。創業間もない会社にとって、とてもそんな資金は用意できません。丁磊氏は予想もしなかった高額な金額提示を受けて軌道修正を迫られます。


丁磊氏は仕方なく、他社からシステムを購入することを諦め、自分たちでWebメールを作ることを決断します。そして、開発チームを結成してHotmailを徹底的に研究します。1カ月後、試行錯誤の結果、中国で初めてとなる中国語のWebメールシステムが完成します。


Webメールシステム 出所:月光博客「関于網易的回憶」


当初は販売に苦戦しますが、マイクロソフトがHotmailを買収するとのニュースが伝わると、中国でもWebメールの注目度が一気に高まります。そして国内で唯一中国語のWebメールシステムを持つ同社に問い合わせが殺到。国内の著名サイトに20万元(約380万円)でシステムをセット販売します。Hotmailから提示された金額の100分の1ほどの値段ですが、このWebメールシステムの販売で約500万元に上る利益がもたらされます。システムをHotmailから導入していたら、決して得られることのなかった成功体験でした。


ポータルサイト戦略に転換、2000年にナスダック上場


Webメールシステムの販売でひとまず成功を収めたネットイースでしたが、丁磊氏はその後の収益化モデルについてどうすべきか、方向性が見つからずに悩んでいました。


そんなとき、視察先である米国のポータルサイト経営者から、インターネット広告だけで毎月25万米ドルの売り上げがあるという話を聞きます。それまでソフトウエア開発を事業の中心と考えていた丁磊氏にとって、インターネット広告だけで事業が成り立つことに大きな衝撃を受けます。ポータルサイトの大きな可能性に気づくと、これまでの方向性を大きく転換。帰国するとすぐに、ポータルサイト化に向けて動き出します。


自社サイトをポータルサイトとして改修し、広告業務を開始します。すると1カ月もしないうちにサイト閲覧者数が増え始め、4カ月後には広告収入が10万米ドルに達します。無料の個人ホームページやBBS、無料のWebメールといった、これまでの蓄積があったからこそ実現できたビジネスモデルの転換でした。


1998年ごろのホームページ 出所:IPC FUN


1998年7月には、中国インターネット情報センター(CNNIC)が公表した中国語サイトの人気投票ランキングで1位を獲得。新浪(SINA)、搜狐(SOHU)とともに「中国三大ポータルサイト」の地位を確立し、2000年6月には米ナスダック証券取引所への上場を果たします。


ナスダックに上場したときの丁磊氏 出所:新浪科技


次回もネットイースの続きです。お楽しみに。


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中国株情報部 部長兼編集長

池ヶ谷 典志

立命館大学卒業後、1997年に北京の首都経済貿易大学に留学。 北京では中国国有の大手新聞社などに勤務し、中国の政治、経済、社会記事などを幅広く執筆。 帰国後の2004年にT&Cトランスリンク(現DZHフィナンシャルリサーチ)入社。 現地での豊富な経験や人脈を生かして積極的に中国企業や政府機関などへの取材を行ない、中国企業の調査・分析を行なっている。

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