中国株の銘柄選び

香港市場の主要銘柄:美団(3) 「アリババ系」から「テンセント系」へと転身、そして・・・

世界7位の規模を誇る香港市場。香港市場には中国を代表するIT企業など、数多くの魅力的な銘柄が上場しています。これまでテンセント(00700)、アリババ集団(09988)、中国建設銀行(00939)、チャイナ・モバイル(00941)の4銘柄を紹介してきました。今回は時価総額5位の美団(03690)の続きです。



▼参考

香港市場の主要銘柄:美団(1) ATMXの一角で時価総額5位、清華大卒の王興氏が北京で立ち上げ

香港市場の主要銘柄:美団(2) アリババ集団との蜜月と決別、転機となった15年のある出来事


 

アリババ集団が資本撤退、アリババ集団との全面対決へ


2015年10月の美団と大衆点評の合併後、怒り心頭のアリババ集団は美団の株式のほとんどを売却し、提携を解消します。完全に敵対関係となったアリババ集団は、美団と競合して閉鎖していた「口碑網(Koubei.com)」を、この合併と前後して復活させたほか、テンセントや大衆点評が出資していたフードデリバリーサービス(ネット出前)の「餓了麼(ウーラマ)」の株式の約3割を取得。その後、2018年には完全子会社化して陣営に取り込み、対決姿勢を鮮明にします。


一方、美団はテンセントの資本を受け入れ、テンセント陣営に入ります。テンセントはアリババ集団と違って、エコシステム内の企業に対してほとんど口を出さず、逆に微信(Wechat)を通じてトラフィックを支援してくれます。経営の独立性を維持したい美団にとっては、テンセントの支援を受けながら事業を拡大できる願ってもない環境といえます。


「アリババ系」から「テンセント系」へと立ち位置を変えた美団は、取引先に対してアリババ集団の決算システム「支付宝(アリペイ)」の使用を全面的に禁止します。2018年のアリババ集団による餓了麼の完全買収に際しては、餓了麼に対してアリババ集団が提示した70億米ドルよりも高い90億米ドルの買収金額を提示。美団側にどこまで本気で買収する意思があったか不明ですが、美団の関与でアリババ集団は当初の価格よりも25億米ドルも高い95億米ドルで買収する羽目になります。アリババ集団にとっては大きな痛手となりました。


 


テンセントの支援を受けて事業をさらに拡大


美団はアリババ集団との激しい争いのなか、テンセントの支援を受けて事業をさらに拡大していきます。2017年には生鮮スーパー業務を開始したほか、タクシーの配車サービスを開始。2018年には当時中国で大流行していたシェア自転車の摩拝単車(モバイク:現美団単車)を買収して傘下に収めます。

 

引用:光大証券研究所


テンセントの支援で新たに始めたサービスは、ほぼすべてがアリババ集団のサービスとバッティングし、激しい争いを繰り広げます。必ずしも成功したサービスばかりではありませんが、美団は試行錯誤を繰り返しながらも、事業領域を人々の生活のさまざまな分野に拡大。2018年9月に香港市場への上場を果たします。王興氏は上場によって、フォーブス誌が発表する中国富豪ランキングで、2017年の138位から37位に一気に順位を上げます。


アリババ集団との激しい争いはその後も続きますが、サービスによっては徐々に勝敗が決してきます。主力事業のフードデリバリー(ネット出前)では、アリババ系の「餓了麼(ウーラマ)」が2017年に百度系の「百度外売」を買収したことで、美団と餓了麼の一騎打ちの構図となりますが、2015年にともに3割前後だった両社のシェアは、2021年には美団が約7割、餓了麼が約3割と差が開きます。ほかの分野でも、アリババ系のサービスが徐々にシェアを奪われるケースが目立ってきました。


アリババ集団は基本的に傘下企業を支配するため、創業者や創業期からの優秀なスタッフが離れてしまい、徐々に活力を失っていくケースが多いようです。それに対して、テンセントは基本的に傘下企業の経営には関与しない緩やかな提携のため、創業者や優秀なスタッフがそのまま残り、経営の連続性が保たれている点がお互いにプラスに働いているようです。美団にとっては、「アリババ系」から「テンセント系」に立場を変えたことが、事業を大きく拡大する転機になったのです。



テンセントが保有株を放出、テンセントと美団の提携は今後も継続


そして、22年11月、大株主であるテンセントとの関係で大きな動きがありました。テンセントが保有する美団株9億5800万株を株主に現物配当すると発表したのです。テンセントは今回の美団株の放出について「美団が資金力、業界の地位、投資リターンが安定水準に到達したため」と説明し、美団の投資が収穫期に来たことを示唆しています。現物配当の実施によって、テンセントの持ち株比率は17.1%から1.6%に低下します。美団はテンセントの持ち分法適用会社から外れ、テンセントから派遣されていた役員も退任しました。ただ、テンセントは今後も美団との提携関係を維持していく方針を示しています。


引用:テンセントが発表した美団株現物配当実施の公告


美団とテンセントの関係は良好で、決して両社の関係が悪化したわけではありません。しかし、もともと美団の創業者である王興氏は独立志向が強く、BAT(百度、アリババ、テンセント)に並ぶ「第4極」を目指していました。美団はこれまで、初期にはアリババ集団、そしてその後はテンセントの支援で大きく成長してきましたが、ついに「卒業」して独り立ちの時期を迎えたのかもしれません。短期的には株価にとってマイナス材料といえますが、中長期で見た場合は、美団が今後、スーパーアプリ「美団」の優位性を生かし、どのような戦略で事業を展開していくのかにかかっています。



美団の使命は食を通じた豊かな社会の創造


なお、「美団」という社名は、自社が提供するサービスを通じて、すべての人がより素晴らしい生活(=美好生活)を送れるようにとの願いを込めて名付けられました。同社はホームページ上でも最も目立つ場所に、「“幇大家吃得更好,生活更好”(人々がより良く食べ、より良く生活することを助ける)」という会社のミッションを掲げています。人工知能(AI)やビッグデータなど最新のテクノロジーを活用し、「ネット」と「リアル」をシームレスにつなぎ、人々の生活をより便利に、そして豊かにしていくことができるのか?美団の今後に期待したいところです。


 

美団のミッション 引用:美団ホームページ




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中国株情報部 部長兼編集長

池ヶ谷 典志

立命館大学卒業後、1997年に北京の首都経済貿易大学に留学。 北京では中国国有の大手新聞社などに勤務し、中国の政治、経済、社会記事などを幅広く執筆。 帰国後の2004年にT&Cトランスリンク(現DZHフィナンシャルリサーチ)入社。 現地での豊富な経験や人脈を生かして積極的に中国企業や政府機関などへの取材を行ない、中国企業の調査・分析を行なっている。

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