中国株の銘柄選び

香港市場の主要銘柄:中電控股(3) 戦後復興と海外展開、SOCに守られた香港事業と不安定な豪州事業

中国株への投資を始めてみたいけど、どんな銘柄に投資していいか分からない。そんな場合は、香港市場を代表する株価指数であるハンセン指数の構成銘柄の中から探してみるのが基本中の基本。ハンセン指数に選ばれる銘柄の中には、世界的な大企業もあれば、個性的で魅力的な銘柄などが、たくさん集まっています。このシリーズでは、香港市場の主要銘柄をハンセン指数の構成銘柄の中から選んで紹介していきます。中電控股(CLPホールディングス:00002)の最終回です。


▼参考 中国株の銘柄選び

中国株ビギナーがまず選ぶのはこれ!ハンセン指数は基本中の基本


戦後復興から海外事業を拡大


時代の流れに翻弄され浮き沈みを経験した中電控股でしたが、第二次大戦後はローランド・カドゥーリー氏のもとで再建が進められます。この時期、中国からの避難民の流入や企業の移転などで人口が急増。香港の人口は1951年に170万人に達します。事業を始めた当初からは6倍近くに膨らみ、電力需要も拡大していきます。


1957年には香港島の西に位置するランタオ島(大嶼山)への電力供給が始まります。ランタオ島といえば香港ディズニーランドや香港国際空港のある島です。1961-62年にかけては北部の新界地区や離島への電力供給も始まりました。1964年には石油メジャーのエクソンモービルとの提携を発表。合弁会社を設立し、青衣、青山などに発電所を建設していきます。この時代の香港は韓国、台湾、シンガポールとともに「アジアの四小龍」と呼ばれ、経済は高成長を遂げます。


写真は当時のランタオ島 出所:CLP 120Years of Shared Vision


アジア・太平洋市場を開拓


1979年には広東省と電力網がつながり、広東省に電力を供給します。ここから中国市場の開拓が始まります。1985年には中国の最高実力者である鄧小平氏との会談が実現。広東核電投資と合弁会社を設立し、大亜湾原子力発電所を建設することが決まります。実際に運転が始まるのは1994年になってからですが、中電控股は大亜湾原発に25%を出資し、出力した電力の7割を購入する長期契約を結びます。


 

写真は中国の最高実力者だった鄧小平氏と会談するローレンス氏 出所:CLP 120Years of Shared Vision


1990年代に入るとアジア市場にも進出していきます。1996年に台湾セメントと合弁会社を設立して台湾市場に進出すると、1998年にはタイの電力会社EGCO社への出資を通じてタイ市場への参入も果たします(その後、2011年に三菱商事に売却)。


2000年代に入ると豪州市場を攻めます。2001年に買収を通じてヤルーン発電所の権益を取得して足場を築くと、2005年にTXU Merchant Energy(現エナジー・オーストラリア)も買収。2002年には買収を通じてインド市場進出も果たしています。中電控股はこうして、香港市場からアジア・太平洋に事業エリアを拡大していったのです。

 

香港、中国、豪州が主要エリア 資料:同社決算報告書


香港市場の電力管理スキームとは?


中電控股が海外市場を積極的に開拓している背景には、土地の狭い香港にとどまっているだけでは事業の拡大が望みにくいという事情がありました。香港の面積は東京都のおよそ半分にあたる1110万平方メートル。人口は2022年末で約730万人という規模です。しかも、その狭い香港で中電控股と港灯電力投資SS(02638)の2社が発電事業を展開しているのです。海外に活路を求めるのは上場企業として当然の流れといえます。


資料:各社決算報告書


一方、香港での事業は、香港政府と結んでいる管理スキーム(SOC)で電力事業者の責任や義務が定められています。これは、香港政府と電力事業者との取り決めで、電力事業者は安全で安定した電力を供給する責任を負う一方、香港政府が電力事業者に対して一定の利益が出るよう保証する制度です。香港での電力事業運営は、電気料金を含めて香港政府によって厳格に管理されていますが、事業者はSOCによって安定的な事業運営ができるようになっています。


この取り決めが最初に行われたのは1964年。その後、1978年、1993年、2008年に改定が行われ、現在は2018年に発効した2033年までのSOCに基づいて運営が行われています。具体的な計算方法は複雑なので省略しますが、現行制度では、大まかに言って発電用固定資産に対して8%の利益が保証されています。8%を上回る利益はプールされ、下回った場合にその資金を戻し入れて採算を取ります。


中電控股の業績を見ると、競争の激しい豪州市場のブレが大きいため、業績が安定しない面もありますが、香港事業に関しては非常に安定した事業運営ができています。一方、そのブレの大きな豪州市場については、会社側が2023年6月に新たなパートナーを探していることを明言しています。豪州市場は業績の不安定要因となっているだけに、今後どのような事業展開をしていくのか注目が集まりそうです。


 

香港市場は安定しているが、豪州市場が不安定要因 資料:同社決算報告書


まとめ:今回紹介した香港市場の主要銘柄


【香港の電力持ち株会社】香港のほか、中国やインド、東南アジア、台湾、豪州でエネルギー事業を展開する。傘下の中華電力(CLPパワー)は九龍や新界、離島で275万世帯に電力を供給し、域内人口の8割をカバー。中国では16省・自治区・直轄市で50超の電力プロジェクトを展開する。豪子会社エナジー・オーストラリアは発電と電力・ガス販売に従事。発電容量は持ち分換算で2万3068MW(22年末)。地域別売上比率は香港51%、豪州42%、インド5%など(22年12月期)。


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中国株情報部 部長兼編集長

池ヶ谷 典志

立命館大学卒業後、1997年に北京の首都経済貿易大学に留学。 北京では中国国有の大手新聞社などに勤務し、中国の政治、経済、社会記事などを幅広く執筆。 帰国後の2004年にT&Cトランスリンク(現DZHフィナンシャルリサーチ)入社。 現地での豊富な経験や人脈を生かして積極的に中国企業や政府機関などへの取材を行ない、中国企業の調査・分析を行なっている。

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