中国株の銘柄選び

香港市場の主要銘柄:CNOOC 中国最大のオフショア石油開発会社

世界7位の規模を誇る香港市場。香港市場には中国を代表するIT企業など、数多くの魅力的な銘柄が上場しています。これまでテンセント(00700)、アリババ集団(09988)、中国建設銀行(00939)、チャイナ・モバイル(00941)、美団(03690)、HSBC(00005)、AIAグループ(01299)、JDドットコム(09618)の8銘柄を紹介してきました。 今回は時価総額9位のCNOOC(中国海洋石油:00883)を紹介します。



中国の大手石油会社、オフショア油田開発に強み


出所:CNOOC公式サイト


CNOOC(中国海洋石油:00883/600938 )は、中国最大の海洋(オフショア)石油・天然ガス開発会社で、海洋油田の探査から開発、生産、販売までを手掛けています。川上から川下までを広範に手掛ける石油メジャーのような総合石油会社とは違って、精製事業やガソリンスタンドのような販売事業は行わず、石油・天然ガスの開発・生産といった川上事業に特化している点に特徴があり、こうした独立系石油・天然ガス開発業者としては世界最大規模を誇ります。


海洋油田なので陸上とは違い、海上に石油採掘のための巨大な掘削プラットフォームを設置し、海底をドリルで掘って石油を採掘します。2021年の石油・天然ガス生産量は5億7300万BOE(石油換算バレル)。中国の石油会社では、ペトロチャイナ(中国石油:00857/601857)の16億2500万BOEに次ぐ水準で、日本の石油・天然ガス開発最大手であるINPEX(旧国際石油開発帝石)の2.7倍の規模となります。2021年末時点の確認埋蔵量は57億3000万BOEに上り、いまの生産量を基準に採掘ができる可採年数は約10年となっています。

 


世界各地に油田権益を保有、主要油田は渤海油田


同社の主要油田は、遼東半島と山東半島に囲まれた海域にある渤海油田で、2021年末時点の確認埋蔵量は全体の27%、2021年の生産量は全体の33%を占めています。同社にとって最大の収益源です。渤海油田は水深が10-30メートルと非常に浅いのが特徴で、この海域では新たな油田が次々と発見されています。2021年だけでも「墾利10-2」「曹妃甸11-3東」など6つの油田が発見されました。


南シナ海や東シナ海など中国近海域にも多くの油田権益を保有し、こちらでも新たな油田が発見されています。山西省南部の沁水盆地と中国北西部のオルドス盆地では非在来型天然ガスの開発も進められています。


同社はこのほかにも、世界各地に油田の権益を保有しています。2021年末時点でインドネシア、豪州、ナイジェリア、イラク、ウガンダ、アルゼンチン、米国、カナダ、英国、ブラジル、ガイアナ、ロシア、アラブ首長国連邦など二十数カ国に権益を保有。生産分与契約(PS契約)などによる共同プロジェクトも含まれますが、これら海外での生産量は全体の3割前後を占めています。


 


中国の石油メジャー「三桶油」の比較


中国の石油業界は国有のペトロチャイナ(中国石油:00857/601857)、シノペック(中国石化:00386/600028)、そしてCNOOCの国有3社による寡占状態で、この3社が中国の戦略的資源ともいえる石油の生産・流通・販売を握っています。中国ではこの3社を合わせて「三桶油(3つの油樽)」と呼び、特別な存在となっています。親会社はいずれも中央企業と呼ばれる中国国務院直轄の国有企業です。



この3社は、それぞれ得意分野が異なっています。最大の特徴はペトロチャイナとシノペックの2社が川下の精製事業や化学事業、石油販売事業までを手掛ける総合石油企業であるのに対し、CNOOCが石油ガスの探査・生産、貿易事業に特化しているという点です。



川上の探査・生産事業は、生産した原油を精製せずにそのまま販売するので、基本的に原油価格が上昇すると利益が大きくなり、逆に原油価格が下落すると利益が小さくなります。そのため、原油価格が動くと業績への影響を見越して、株価も大きく動く傾向があります。


一方、川下の石油精製・化学事業は、原料となる原油を調達して石油製品や化学製品を生産するため、基本的に原油価格が上昇するとコスト増で利益が小さくなり、原油価格が下落すると逆にコスト減で利益が大きくなるという関係にあります。要するに川上事業と川下事業の利益は、原油価格に対して逆相関関係にあり、両方の事業を持っていると互いに利益を打ち消し合ってしまうのです。もちろん調達コストの増減分をすぐに販売価格に転嫁できれば問題はないのですが、ビジネスの世界ではなかなかそうはいきません。


また、ガソリンスタンドなど川下の販売事業は、規模が大きいため売上高が大きくなりますが、利幅が薄いため売上高の割には大きな利益を生み出さない事業です。3社の実際の業績を見てみると、ガソリンスタンドなど川下の石油販売事業の割合が高いペトロチャイナとシノペックが売上高でCNOOCを圧倒していますが、3社の純利益はそれほど大きな違いはありません。営業利益率を見ると、3社の中でCNOOCの高さが際立っています。



簡単にまとめると、ペトロチャイナとシノペックは原油相場の変化によって業績が相対的に影響を受けにくいのに対して、CNOOCは大きく影響を受けるということです。CNOOCに投資するに当たっては、原油相場の動向に細心の注意が必要になるということを覚えておきましょう。

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中国株情報部 部長兼編集長

池ヶ谷 典志

立命館大学卒業後、1997年に北京の首都経済貿易大学に留学。 北京では中国国有の大手新聞社などに勤務し、中国の政治、経済、社会記事などを幅広く執筆。 帰国後の2004年にT&Cトランスリンク(現DZHフィナンシャルリサーチ)入社。 現地での豊富な経験や人脈を生かして積極的に中国企業や政府機関などへの取材を行ない、中国企業の調査・分析を行なっている。

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