中国株の銘柄選び

香港市場の主要銘柄:トラッカー・ファンド・オブ・ホンコン 誕生のきっかけはアジア通貨危機でのソロスとの対決

中国株への投資を始めてみたいけど、どんな銘柄に投資していいか分からない。そんな場合は、香港市場を代表する株価指数であるハンセン指数の構成銘柄の中から探してみるのが基本中の基本。ハンセン指数に選ばれる銘柄の中には、世界的な大企業もあれば、個性的で魅力的な銘柄もたくさん集まっています。このシリーズでは、香港市場の主要銘柄を通常ハンセン指数の構成銘柄の中から選んで紹介していますが、今回はその番外編です。


▼参考

中国株の銘柄選び 中国株ビギナーがまず選ぶのはこれ!ハンセン指数は基本中の基本


ハンセン指数に連動する香港最大のETF、トラッカー・ファンド・オブ・ホンコン


今回紹介するのは、香港を代表するETF(上場投資信託)であるトラッカー・ファンド・オブ・ホンコン(盈富基金:02800)です。ETFとは、証券取引所に上場する投資信託を指し、英語のExchange Traded Fundsの頭文字をとったものです。特定の指数に連動する運用成果を目指して設計され、指数のパフォーマンスとほとんど同じような値動きになるのが特徴です。トラッカー・ファンド・オブ・ホンコンは、香港市場全体の値動きを反映した「ハンセン指数」のパフォーマンスに連動したETFであり、香港市場で最大の規模を誇るETFです。


トラッカー・ファンド・オブ・ホンコンは、その誕生がほかのETFと違って少し特殊です。誕生のきっかけは、1997年に始まったアジア通貨危機です。タイの通貨バーツの暴落に端を発したアジア通貨危機は、またたく間にアジア全体に波及。引き金を引いたのは著名投資家として知られるジョージ・ソロス氏が率いるヘッジファンドでした。


香港も深刻な影響を受けます。香港政府は1998年、ヘッジファンドによる空売りで急落する株式相場を支えるため、ハンセン指数を構成する33銘柄の買い入れを行ったのです。危機的状況の中での止むに止まれぬ対応でしたが、ヘッジファンドによる投機的な攻撃を撃退します。当時、香港政府は10営業日で総額1181億HKドルを投じ、相場を買い支えたのです。


 

香港政府とジョージ・ソロスとの対決がきっかけで誕生した


香港政府がアジア通貨危機の難局を切り抜けると、手元には市場で買い入れたハンセン指数を構成する優良株=ブルーチップ銘柄が大量に残りました。香港政府としてはずっと保有を続けるわけにはいかないので、これらの株式の処分方法について検討を始めます。一度に保有株を売却してしまうと、株価に大きな影響が出てしまうからです。そこで、できるだけ株価に影響を与えない方法として考え出されたのが、ハンセン指数に連動したETFを組成することでした。


このETFは「盈富基金(Tracker Fund of Hong Kong)」と名付けられました。英語では「香港(の指数)に連動したファンド」という、そのままの意味ですが、中国語の意味は「富を満たすファンド」という何とも縁起のよさそうな名称です。トラッカー・ファンド・オブ・ホンコンは1999年11月12日に香港初のETFとして、香港証券取引所に上場を果たしたのです。日本では2004年7月に金融庁に登録され、日本の証券会社を通じて購入することが可能になりました。


ハンセン指数とほぼ同等のパフォーマンスを実現


トラッカー・ファンド・オブ・ホンコンに投資する最大のメリットは、この1銘柄に投資するだけで、香港市場を代表するハンセン指数に投資したのとほぼ同様の効果を得られることです。ハンセン指数の構成銘柄は2024年9月時点で82銘柄あり、そのすべての銘柄に個人で投資しようと思ったら、最低でも約4億円という資金が必要な計算になります。個人でこんな資金を用意するのは難しいでしょう。


しかし、トラッカー・ファンド・オブ・ホンコンであれば、最低取引単位が500なので、現在の水準であれば約17万円の資金を用意するだけで、ハンセン指数とほぼ同等のパフォーマンスを実現できるわけです。トラッカー・ファンド・オブ・ホンコンとハンセン指数のパフォーマンスを比較してみても、ほぼ同じ値動きになっていることが確認できます。

 

出所:恒生投資管理有限公司


時間に余裕のない個人投資家にとっても、トラッカー・ファンド・オブ・ホンコンへの投資は大きなメリットがあります。個別銘柄への投資は、少数銘柄への集中投資になってしまうため、1銘柄でも倒産したりすると大きなダメージを受けてしまいます。


しかし、トラッカー・ファンド・オブ・ホンコンへの投資は、実質的にハンセン指数を構成する82銘柄への分散投資になります。1銘柄が倒産しても致命傷にはなりません。しかも、ハンセン指数は四半期ごとに銘柄の入れ替えを行っているので、衰退期に入った銘柄が抜け、成長性のある銘柄が入るなど、新陳代謝が繰り返されています。


自分のポートフォリオを点検する手間も省けるため、ほったらかし投資に最適といえます。個別銘柄の分析まで手の回らないという人は検討してみるのもいいでしょう。


 

出所:恒生投資管理有限公司


まとめ:今回紹介した香港市場の主要銘柄


今回紹介した銘柄は、1999年に香港証券取引所のメインボードに上場した、ハンセン指数に連動するETFのトラッカー・ファンド・オブ・ホンコン(盈富基金:02800)です。


【ハンセン指数連動のETF】1999年に上場した香港で最初のETFであり、香港で最大規模を誇る。香港市場全体の値動きを反映したハンセン指数のパフォーマンスへの連動を目指し、分配方針は半期に1回。運用会社は恒生投資管理有限公司(Hang Seng Investment Management Ltd.)で、受託者はステート・ストリート・バンク(State Street Bank)。1990年代後半のアジア通貨危機をきっかけに誕生した。


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中国株情報部 部長兼編集長

池ヶ谷 典志

立命館大学卒業後、1997年に北京の首都経済貿易大学に留学。 北京では中国国有の大手新聞社などに勤務し、中国の政治、経済、社会記事などを幅広く執筆。 帰国後の2004年にT&Cトランスリンク(現DZHフィナンシャルリサーチ)入社。 現地での豊富な経験や人脈を生かして積極的に中国企業や政府機関などへの取材を行ない、中国企業の調査・分析を行なっている。

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