中国株の銘柄選び

意外と身近にある中国株、ドンキの店内で探してみた(3) 旺旺のミルクキャンディー、独特の企業文化と「黒皮精神」

中国株への投資を始めてみたいけど、どんな銘柄に投資していいか分からない。そんな場合は、身近にある上場企業に投資してみるというのも一つの手です。そこで今回は、意外と身近にある中国株というテーマで、身近にある中国株の銘柄を紹介したいと思います。日本でも意外と中国株銘柄の商品やサービスを探すことができます。今回もファミリー型ディスカウントストア「MEGAドン・キホーテ」の店内で中国株銘柄を探してみました。


中国旺旺のミルクキャンディー

 

旺旺のミルクキャンディー


今回、菓子コーナーで見つけたのは、中国旺旺(ワンワン・チャイナ:00151)の「旺仔ミルクキャンディー」です。中国旺旺の主力商品である旺旺ミルク(フレーバー牛乳)の赤いスチール缶をデザインしたパッケージに、インパクトのある子供のキャラクターの絵柄は、とくにかく目立ちます。2005年に生産を開始し、中国では幅広い年代に愛される人気商品となっています。日本で言えば、不二家の「ミルキー」のような商品です。


中国旺旺の前身は水産加工会社


中国旺旺の前身は1962年に台湾で設立された宜蘭食品工業で、もともと水産加工品の缶詰工場を経営していました。現会長の蔡衍明氏が19歳で父親から事業を引き継ぐといきなり事業が傾き、大きな借金を背負いますが、再起をかけて1983年に日本の岩塚製菓(2022年9月末時点で中国旺旺の株式約5%を保有)と提携。岩塚製菓の技術指導を受けて台湾で米菓の製造を始めます。


すると、これが台湾で若者を中心に人気を集め、9割という圧倒的なシェアを握ります。1992年には中国での販売も開始。中国では当初、米菓だけを製造していましたが、その後、飲料やキャンディーなどにも商品を拡充。世界最大の米菓メーカーに成長しました。


1962年の創業当時の工場 出所:旺旺中国ホームページ


中国では当時、正直言って美味しいと思えるようなお菓子がほとんどなく、1990年代後半に中国に留学していた筆者にとって、中国旺旺のお菓子は本当に貴重な存在でした。日本の米菓製造の技術やノウハウを武器に、台湾や中国でヒットしたのもうなずけます。


運命を変えた岩塚製菓との提携


出所:旺旺・ジャパンオンラインショップ


岩塚製菓との提携が中国旺旺の運命を変えたとも言えますが、この提携について旺旺・ジャパン(中国旺旺60%、岩塚製菓40%の合弁会社)のホームページには次のようなエピソードが紹介されています。


”1977年、当時の旺旺(前身の宜蘭食品工業)は水産加工を営んでおり、家業を継いだ蔡衍明氏は北海道によくイカの仕入れに来ていました。蔡氏が当時日本で売られていた岩塚製菓の「サンフレンド」にほれ込み、岩塚製菓の創業者で社長だった槇計作氏に技術協力を仰いだのが、旺旺と岩塚の出会いのきっかけでした。


蔡氏はその後、たびたび岩塚製菓の本社がある新潟を訪れては、技術指導をためらう槇氏を説得します。タイ進出の失敗がトラウマになっていた槇氏はこれを断りますが、説得が何年も続くうちに、蔡氏の熱意に動かされていきます。「これも何かの縁でしょう」。ついには槇氏が折れます。技術支援にあたって、指定の原料・設備を使い、技術指導を受けることを条件に提携が実現します。1983年のことでした。


蔡氏が台湾で販売しようとした「サンフレンド」という商品は、台湾で製造するのが技術的に難しかったため断念しますが、岩塚製菓のロングセラー商品である米菓の「味しらべ」や「あまから」を、旺旺仕様の「旺旺仙貝(せんべい)」、「雪餅」として販売しました。


これらの米菓は、いまでも旺旺の主力商品として売られ、旺旺の売り上げを支えています。そして、岩塚製菓は旺旺中国から売上高の約1割に相当する15億円超もの配当収入を得て(2022年3月期)、両社はいまでも親密な提携関係を維持しています。


旺旺仙貝と旺旺小小酥 出所:AASTOCKS


中国には「飲水思源(水を飲むとき、その水源を思う=井戸を掘った人の恩を忘れてはならない)」という四字熟語があります。蔡氏もこの言葉の通り、いまでも技術支援の恩を忘れず、槇氏を「旺旺の父」と呼び、旺旺上海本部の1階ロビーに槇氏の銅像を置いて感謝の気持ちを忘れないようにしています。蔡氏は「恩」や「縁」という言葉を非常に大事にしており、中国旺旺の社歌の中にも、たびたびこのキーワードが登場します。旺旺の社歌からは、その独特の企業文化が伝わってきます。(社歌のイメージビデオはこちら


社歌のイメージ映像、中央は岩塚製菓の槇氏の銅像 出所:旺旺中国のホームページ



旺旺を支える「黒皮精神(ハッピー・スピリット)」


なお、感謝の気持ちは犬に対しても同じで、本社ビルには大きな犬の油絵が飾られています。これはボストン・テリアという種類の犬で、名前は「黒皮(Happy)」。7歳の誕生日に父親からプレゼントされ、小さなときから蔡氏と生活を共にしてきた犬です。「黒皮」は外に散歩に出ては強い犬に戦いを挑み、何度も負けては傷を負って帰ってきました。しかし、決して諦めることなく、傷が治るとすぐに戦いに臨み、最後には勝利をつかみとったと言います。蔡氏はこれを「黒皮精神(ハッピー・スピリット)」としてリスペクトし、挑戦していくことの大切さを忘れないようにしているのです。


「黒皮」への感謝の気持ちは会社の名前にも受け継がれており、「旺旺(ワンワン)」という社名は、犬の鳴き声を指す擬音語の「汪汪(ワンワン)」と同じ発音で、「旺盛で盛んな」という意味を重ねた「旺旺(ワンワン)」から名付けられました。


 

本社ビルに飾られた「黒皮」の巨大な油絵 出所:旺旺中国


ちなみに、今回ドン・キホーテで見つけたミルクキャンディーのパッケージに描かれている子供は「旺仔(旺旺坊や)」と言い、1979年から採用されている中国旺旺のイメージキャラクターです。丸い顔や上を向いた目、ハートの形の舌、裸足のまま踏ん張った足・・・そのすべてのパーツに意味があって、縁を大切にすること、長期ビジョンを持つこと、誠意を示すこと、地に足をつけた経営を行うことなど、さまざまな意味が込められています。旺旺坊やは、中国旺旺の企業理念を体現したキャラクターなのです。

 

イメージキャラクターの「旺仔(旺旺坊や)」 出所:Matt旺家



まとめ:今回見つけた身近な中国株銘柄


今回見つけた身近な中国株銘柄は中国旺旺(00151)の1銘柄で、香港証券取引所に上場しています。


【台湾系の大手製菓・飲料メーカー】せんべいなどの米菓、フレーバー牛乳やハーブ茶などの乳製品・飲料、ソフトキャンディーやナッツといったスナックを製造・販売する。主力は「旺旺」ブランド。北京や瀋陽、南京などに工場、営業所を展開し、多数の販売代理業者を抱える。日本やシンガポールに現地法人を置き、日本の岩塚製菓と業務提携。売上高の9割以上を中国本土が占める。20年9月にハンセン指数から除外された。


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中国株情報部 部長兼編集長

池ヶ谷 典志

立命館大学卒業後、1997年に北京の首都経済貿易大学に留学。 北京では中国国有の大手新聞社などに勤務し、中国の政治、経済、社会記事などを幅広く執筆。 帰国後の2004年にT&Cトランスリンク(現DZHフィナンシャルリサーチ)入社。 現地での豊富な経験や人脈を生かして積極的に中国企業や政府機関などへの取材を行ない、中国企業の調査・分析を行なっている。

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