中国株の銘柄選び

香港市場の主要銘柄:HSBC(2) 民間銀行だけど紙幣を発行、紙幣に描かれたライオンの正体は?

世界7位の規模を誇る香港市場。香港市場には中国を代表するIT企業など、数多くの魅力的な銘柄が上場しています。これまでテンセント(00700)、アリババ集団(09988)、中国建設銀行(00939)、チャイナ・モバイル(00941)、美団(03690)の5銘柄を紹介してきました。今回は前回に続き時価総額6位のHSBC(00005)を紹介します。


 


民間銀行だけどお札を発行、香港3大発券銀行の一角


香港では、一般の紙幣を民間の金融機関が発行しています。香港ドルの発行を担っているのは、HSBC(香港上海銀行)、スタンダード・チャータード(02888)、中銀香港(02388)の3行です。日本では中央銀行である日本銀行が紙幣を発行しているので、ちょっと意外に思われるかもしれませんが、中央銀行が独占的に紙幣を発行するようになるのは近代になってからのことです。実は日本でも明治時代の初期のころは、それぞれの民間銀行が紙幣を発行している時期がありました。


香港では植民地支配が始まった1840年代から民間の銀行が紙幣を発行しており、現在は香港政府から3行だけに紙幣発行の権利が与えられています。3行それぞれデザインが異なっており、それぞれの特徴が出ています。通常、7-8年でデザインは更新されますが、HSBCが発行する紙幣には、HSBCの香港本店ビル(通称蟹ビル)とライオン像がデザインされています。


 

写真はHSBCが発行する2010年版香港ドル紙幣


HSBCのライオンの歴史


お札になぜライオンがデザインされているのか・・・?気になった方もいると思います。このライオンはHSBC香港本店ビル前に配置されているライオン像がモデルとなっています。本店前には一対の銅製ライオン像が置かれており、口を開けて吠えている方が「Stephen(史提芬:ステファン)」、口を閉じておとなしくしている方が「Stitt(施迪:スティット)」です。


 

写真はステファン(左)とスティット(右) 出所:AAstocks


1920年代に香港本店のゼネラルマネジャーだったAlexander G Stephen氏、同じく上海支店マネジャーだったGordon H Stitt氏の2人から名付けらました。ライオン像の発案者は「ステファン」の方ですが、紙幣に描かれているのは口を閉じた「スティット」の方です。1921年に上海支店の新社屋が完成する際、英国に発注して設置されたものが初代のライオン像で、2代目は1935年に香港の本店ビル建て替えの際、上海支店のライオン像の人気にあやかって設置されました。


日本統治下の1942年、武器製造のための物資が不足していた日本軍は、ライオン像を溶かして銅を取り出すため、2頭のライオン像を日本に運び出します。前回も触れましたが、この時代に香港本店の建物は日本軍に接収され、日本の占領地総督部が置かれていました。


戦後、行方不明になっていた2頭のライオン像は、たまたま米軍の兵士によって大阪の倉庫で発見されます。そして、1946年10月、マッカーサーの命令で香港に戻されます。4年ぶりの里帰りです。ライオン像には日英戦の激しさを物語るように多くの弾痕が残されています。2020年元日には香港の民主化デモ参加者の標的となり、スプレーを塗られたり、燃やされたりしますが、その後に修復されて復活を果たしています。ライオン像は幾多の困難を乗り越え、HSBCの象徴であるとともに、強運・復活の象徴でもあるのです。


HSBC香港本店ビルは運気の上がるパワースポット


写真はHSBC香港本店ビル(写真中央右) 出所:AAstocks


HSBCの発行している紙幣には香港本店ビルも描かれています。風水の思想を取り入れて設計された香港のランドマーク的な建物です。現在の建物は1865年の創業から4代目に当たり、1985年に完成しました。設計したのは英国の建築家ノーマン・フォスター氏。北京首都国際空港第3ターミナルビルや香港国際空港ターミナルビルを手掛けたほか、日本では御茶ノ水のセンチュリータワーの設計で知られています。


香港本店ビルが建つのは創業以来、香港島セントラルの皇后大道中1号(1 Queen's Road Central)という場所です。女王の名前を冠した香港の中心地、いわば香港の「一丁目一番地」です。香港で最も重要な場所であるからこそ、日本統治時代には、日本の占領地総督部が置かれたのです。


香港本店ビルは、高さ180メートル、地上46階建ての現代的な高層ビルで、鉄骨がむき出しになった特徴的な形状から、通称「蟹ビル」と呼ばれることもあります。風水師の助言を取り入れ、中央部分は吹き抜けになっています。これは地中を流れる気のルートである「龍脈」を遮らないように設計されているからです。そして、1階には2つのエスカレーターがありますが、「八」の字に設置されています。龍脈の気が八の字の先に抜けていくようになっているわけです。いわゆるパワースポットです。HSBC本店ビルは運気が上がるスポットとして訪れる人も多いようです。

 

写真は本店ビルのエスカレーター 出所:SINA新聞中心 運勢秘密論


ちなみに、先述のライオン像も風水の思想にもとづいて配置されていて、口を開けた「ステファン」が運気を吸い込み、口を閉じた「スティット」が運気を逃さないようにしているそうです。「スティット」やHSBC本店ビルが描かれたHSBCの香港ドル紙幣を持っているだけでお金がたまりそうな気がしてきますね。

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中国株情報部 部長兼編集長

池ヶ谷 典志

立命館大学卒業後、1997年に北京の首都経済貿易大学に留学。 北京では中国国有の大手新聞社などに勤務し、中国の政治、経済、社会記事などを幅広く執筆。 帰国後の2004年にT&Cトランスリンク(現DZHフィナンシャルリサーチ)入社。 現地での豊富な経験や人脈を生かして積極的に中国企業や政府機関などへの取材を行ない、中国企業の調査・分析を行なっている。

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