中国株の銘柄選び

香港市場の主要銘柄:アリババ集団(1) 落ちこぼれジャック・マーの逆襲

世界7位の規模を誇る香港市場。香港市場には中国を代表するIT企業など、数多くの魅力的な銘柄が上場しています。前回は時価総額1位のテンセント(00700)を紹介しましたが、今回は時価総額2位のアリババ集団(09988)を紹介します。


 


アリババ集団は1999年にジャック・マー(馬雲)氏が浙江省杭州で設立した電子商取引(EC)を中核にした大手IT企業です。出店企業が消費者に販売するBtoC(消費者向け)では「天猫(Tモール)」、CtoC(個人間取引)では「淘宝網(タオバオ)」、BtoB(企業間取引)では「1688.com(アリババドットコム)」といったECサイトを展開し、取引される商品代金の総額を示す流通取引総額(GMV)では世界最大規模を誇ります。


日本企業で例えるなら楽天、米国企業ではアマゾンやイーベイといったところでしょうか。中国を代表するIT企業であり、日本人投資家の間でもテンセントと人気を二分する存在です。米国市場にもティッカーシンボル「BABA」で上場しているので、米国株投資家の間でもお馴染みの存在かと思います。


創業者のジャック・マー氏は落ちこぼれだった?


創業者のジャック・マー氏はもともと、地元・杭州の大学で英語と国際貿易を教える講師でした。英語は大好きだったものの、数学が大の苦手だったため、大学受験に2度も失敗したというエピソードが残っています。


1度目受験で数学の点数はわずか1点、2度目も19点とボロボロの内容。本人が語った内容ではありますが、点数についてはトークのネタとして盛ってる可能性もあり、真偽のほどは不明です。3度目の受験はかろうじて補欠合格だったといいます。中学時代は度重なるけんかのため転校を余儀なくされ、高校受験でさえも1度失敗しています。大学に入るまでは挫折続きの落ちこぼれ人生だったようです。


大学時代のジャック・マー氏(写真中央) 引用:VITO雑誌


マー氏の運命を変えたのは、1994年に通訳として米国を訪問し、初めてインターネットに触れたことでした。インターネットの可能性を確信したマー氏は、帰国後に妻と友人の3人でビジネス情報サイトの「中国イエローページ(中国黄頁)」を立ち上げます。


しかし、このサイトはその後、同じ事業を始めた地元の国有企業に買収され、あえなく事業から撤退する羽目になってしまいます。ここでも大きな挫折を味わいました。


1999年にアリババを創業、社名の由来は「アリババと40人の盗賊」

 

写真は創業時のジャック・マー氏(写真右側) 引用:アリババ集団のホームページ


その後、北京に移って一時は中国対外経済貿易部でウェブサイト制作などの仕事をしていましたが、1999年に地元の杭州に戻ります。そして自宅であるアパートの一室で創業したのがアリババ集団です。創業メンバーはマー氏を中心とした18人でした。


同じ年には早くもBtoB向けのECサイト「1688.com(アリババドットコム)」を立ち上げています。アリババという名前は「千夜一夜物語」に出てくる「アリババと40人の盗賊」からつけられました。世界中の誰もが名前を知っており、世界中どこでも発音が似ていたことが決め手となったようです。各国の人が本当に名前を知っているかどうか、実際に自ら聞いて回ったといいます。


実は「1688」という一見なんだかよく分からない数字も、アリババの中国語名「阿里巴巴」の発音に似ていることからつけられています。


ソフトバンクの孫正義氏がわずか5分で2000万米ドルの出資を決断


創業当初のアリババ集団を資金面で支えたのはソフトバンクの孫正義氏でした。「わずか5分で2000万米ドルの出資が決まった」と伝説のように語られています。実際には、10分の面談だったようで、最初の5分で孫氏が投資を決断し、残りの5分は逆に孫氏がマー氏にお金を受け取るよう説得したといいます。ソフトバンクの投資対象候補の企業約20社との面談時間がそれぞれ10分ずつ割り振られていて、アリババ集団はその投資対象候補のうちの1社だったのです。


マー氏はこの面談で孫氏に強烈な印象を与えたようです。出資のための面談なのに事業計画を一切語らず、インターネットの未来や夢について、目を輝かせながら語るマー氏に孫氏は興味を持ちます。孫氏は後に「彼にカリスマ性を感じた」と語っています。


この段階でアリババ集団の売り上げはほぼゼロ。もちろん赤字ですが、孫氏がマー氏に5000万米ドルの出資を提案します。この面談の前にゴールドマンなどから500万米ドルの出資を取り付けていたマー氏は「その10分の1で大丈夫」と断ったのですが、最終的に孫氏が押し切る形で2000万米ドルの出資が決まったのです。


孫氏の人を見る目は確かなものがあったようです。アリババ集団はこの時の出資に支えられてドッドコムバブル崩壊後の苦しい時期を乗り切りますが、ソフトバンクもまた、その後のアリババ集団の成長に支えられて資産を築くことになります。


次回もアリババ集団の紹介を続けます。お楽しみに。(続く)


この連載の一覧
二季報を使った銘柄選び(26) 香港全上場企業一覧、時間のない人はサラッと業績だけでもチェック
香港市場の主要銘柄:トラッカー・ファンド・オブ・ホンコン 誕生のきっかけはアジア通貨危機でのソロスとの対決
二季報を使った銘柄選び(25) 主要指数の推移で投資リターンを高める
二季報を使った銘柄選び(24) 銘柄選びに困ったときは個別銘柄ではなくETFという選択肢も
二季報を使った銘柄選び(23) スクリーニングを使って銘柄を探す、「総合評価」の活用法を紹介
二季報を使った銘柄選び(22) スクリーニングを使って銘柄を探す、「安定性」の活用法を紹介
二季報を使った銘柄選び(21) スクリーニングを使って銘柄を探す、「成長性」の活用法を紹介
二季報を使った銘柄選び(20) スクリーニングを使って銘柄を探す、「割安株」の活用法を紹介
二季報を使った銘柄選び(19) 「粗利益率」ランキングで高い競争力を持った高収益企業を探す
二季報を使った銘柄選び(18) 「現金同等物」ランキングは安定性を重視した投資家向けの指標、上位には高配当利回り銘柄も
二季報を使った銘柄選び(17) 「低額銘柄」ランキングの「お手頃」銘柄で中国株投資をスタート
二季報を使った銘柄選び(16) 「高額銘柄」ランキングで人気銘柄を発掘、取引単位引き下げや株式分割を実施する銘柄も
二季報を使った銘柄選び(15) 「年間上昇率」と「年間下落率」のランキングで勢いのある銘柄やダメ銘柄を見つける
二季報を使った銘柄選び(14) 「株主資本比率」のランキングで安全性をチェック
二季報を使った銘柄選び(13) 「流動比率」と「低負債比率」のランキングは単独で使ってはいけない
二季報を使った銘柄選び(12) 「増益率」ランキングを活用して成長性の高い銘柄を探す
二季報を使った銘柄選び(11) ランキングを使って銘柄を探す、「業績増額修正」と「業績減額修正」で予想の変化をつかむ
二季報を使った銘柄選び(10) ランキングを使って銘柄を探す、「高配当利回り」はお宝銘柄の宝庫?10%を超える高配当銘柄がザクザク
二季報を使った銘柄選び(9) ランキングを使って銘柄を探す、「低PBR」だけで割安株を探してはいけない
二季報を使った銘柄選び(8) ランキングを使って銘柄を探す、「低PER」は投資指標の基本中の基本
二季報を使った銘柄選び(7) ランキングを使って銘柄を探す、経営効率の高い銘柄を探すなら「高ROE」
二季報を使った銘柄選び(6) ランキングを使って銘柄を探す、「時価総額」で企業規模の大きな会社を見つける
二季報を使った銘柄選び(5) 「業界マップ」を使って銘柄を見つける
二季報を使った銘柄選び(4) 証券会社の「注目銘柄ランキング」を参考にする
二季報を使った銘柄選び(3) 「業界天気予報」を使って業種を手掛かりに絞り込む
二季報を使った銘柄選び(2) 「中国株二季報」を目的に合わせて効率よく使いこなそう!
二季報を使った銘柄選び(1) 中国株の銘柄選びに欠かせない「中国株二季報」とは?
香港市場の主要銘柄:香港鉄路(5) 香港版Suicaのオクトパス、世界に先駆けてFeliCaを採用
香港市場の主要銘柄:香港鉄路(4) 香港鉄路はなにで儲けてる?鉄道会社だけど利益の柱は別にある
香港市場の主要銘柄:香港鉄路(3) 海外売上比率5割超、香港の鉄道会社だけど海外で稼ぐ
香港市場の主要銘柄:香港鉄路(2) 九広鉄路吸収で香港の鉄道独占事業者に、ディズニー線も運行
香港市場の主要銘柄:香港鉄路(1) 公共輸送シェア約5割!香港市民の移動を支える鉄道銘柄
香港市場の主要銘柄:農夫山泉(5) 広告重視の経営、どうする後継者問題?
香港市場の主要銘柄:農夫山泉(4) 勝者無き戦い、「京華時報」との大バトル
香港市場の主要銘柄:農夫山泉(3) 新参者のとった驚きの戦略とは!?訴訟に敗れて市場を奪う
香港市場の主要銘柄:農夫山泉(2) 娃哈哈との最初の確執、亀とスッポンで成功後に飲料水業界に参入
香港市場の主要銘柄:農夫山泉(1) 社名はダサそうだけど実はスゴい、ボトル入り飲料水の中国最大手
意外と身近にある中国株、街中で探してみた(4) ロクシタン、南仏プロバンス発祥の自然派コスメブランド
意外と身近にある中国株、ドンキの店内で探してみた(8) バドワイザーAPAC、世界最大のビール会社のアジア部門
香港市場の主要銘柄:ハンセン銀行(4) 23年に創立90周年、デジタル分野でも挑戦を続ける
香港市場の主要銘柄:ハンセン銀行(3) 史上最大の1965年危機、ライバルの傘下に下る
香港市場の主要銘柄:ハンセン銀行(2) 戦後の香港で再出発、香港の「超人」李嘉誠氏らを支援
香港市場の主要銘柄:ハンセン銀行(1) 「永遠の成長」を目指す香港の華人系銀行大手
香港市場の主要銘柄:中電控股(3) 戦後復興と海外展開、SOCに守られた香港事業と不安定な豪州事業
香港市場の主要銘柄:中電控股(2) カドゥーリー家の夢と挫折、第二次大戦中は日本軍が接収
香港市場の主要銘柄:中電控股(1) 100年以上の歴史を誇る香港最大の電力会社、イラク系ユダヤ人が支配
意外と身近にある中国株、街中で探してみた(3) 1910年創業の旅行かばんの王者「サムソナイト」、社名の由来となった「サムソン」とは?
意外と身近にある中国株、街中で探してみた(2) ペニンシュラホテル、「東洋の貴婦人」と呼ばれた歴史と伝統の高級ホテル
意外と身近にある中国株、街中で探してみた(1) シャングリラ・アジア、東京駅に隣接する「理想郷」
中国株ビギナーがまず選ぶのはこれ!ハンセン指数は基本中の基本
意外と身近にある中国株、ショピングモールで探してみた(1) ポップマートのロボショップ、沼にハマる人続出の「盲盒」とは?
意外と身近にある中国株、ドンキの店内で探してみた(7) お湯要らず!「海底撈」のインスタント火鍋
意外と身近にある中国株、ドンキの店内で探してみた(6) 1840年創業の超老舗企業が生み出す「鎮江香酢」
意外と身近にある中国株、ドンキの店内で探してみた(5) 不思議な味の中華ジャンクフード「辣条(ラーティアオ)」
意外と身近にある中国株、ドンキの店内で探してみた(4) 周恩来が愛した大白兎のミルクキャンディー
意外と身近にある中国株、ドンキの店内で探してみた(3) 旺旺のミルクキャンディー、独特の企業文化と「黒皮精神」
意外と身近にある中国株、ドンキの店内で探してみた(2) 洽洽食品のヒマワリの種と康師傅のカップ麺
意外と身近にある中国株、ドンキの店内で探してみた(1) 小米のスマートバンド、TCLのテレビ、ANKERのスマホアクセサリー
香港市場の主要銘柄:ネットイース(3) どん底から奇跡の大復活、ゲームを事業の柱に成長
香港市場の主要銘柄:ネットイース(2) ポータルサイト化へ戦略転換、ナスダックに上場
香港市場の主要銘柄:ネットイース(1) 中国のオンランゲーム大手、より簡単なネット接続を目指す
意外と身近にある中国株、街中の飲食店を探してみた(3) お米を使ったライスヌードル「米線」の「譚仔三哥」
香港市場の主要銘柄:CNOOC 中国最大のオフショア石油開発会社
意外と身近にある中国株、街中の飲食店を探してみた(2) 羊のしゃぶしゃぶ料理の「小肥羊」
意外と身近にある中国株、街中の飲食店を探してみた(1) 火鍋のトップブランド「海底撈」、抜群のエンタメ性が人気の秘密
香港市場の主要銘柄:JDドットコム(3) 自前主義でライバルと差別化、顧客に喜びを届ける
香港市場の主要銘柄:JDドットコム(2) 創業記念日に上場、618に強い思い入れ
香港市場の主要銘柄:JDドットコム(1) 中国のネット通販大手、分かれ道となった20年前のSARS
香港市場の主要銘柄:AIAグループ(2) AIGから独立して香港市場に上場、ロゴに描かれている山は?
香港市場の主要銘柄:AIAグループ(1) アジア最大級の生命保険会社、1919年創業の保険代理店がルーツ
香港市場の主要銘柄:HSBC(2) 民間銀行だけど紙幣を発行、紙幣に描かれたライオンの正体は?
香港市場の主要銘柄:HSBC(1) 1865年に香港で創業、アヘンで成長した黒歴史も
意外と身近にある中国株、家電量販店で探してみた(3) 白物家電編
中国株の銘柄選び:意外と身近にある中国株、家電量販店で探してみた(2) テレビ編
中国株の銘柄選び:意外と身近にある中国株、家電量販店で探してみた(1) スマホ、PC編
香港市場の主要銘柄:美団(3) 「アリババ系」から「テンセント系」へと転身、そして・・・
香港市場の主要銘柄:美団(2) アリババ集団との蜜月と決別、転機となった15年のある出来事
香港市場の主要銘柄:美団(1) ATMXの一角で時価総額5位、清華大卒の王興氏が北京で立ち上げ
香港市場の主要銘柄:チャイナ・モバイル 携帯契約数は世界1位、NTTドコモの11倍
香港市場の主要銘柄:中国建設銀行 4大国有商業銀行で時価総額最大、インフラ建設分野に強み
香港市場の主要銘柄:アリババ集団(3) アリババは102年続く企業になれるのか?
香港市場の主要銘柄:アリババ集団(2) イーベイとの争いを制して中国での覇権を握る
香港市場の主要銘柄:アリババ集団(1) 落ちこぼれジャック・マーの逆襲
香港市場の主要銘柄:テンセント、目指すは「最も尊敬されるインターネット企業」

中国株情報部 部長兼編集長

池ヶ谷 典志

立命館大学卒業後、1997年に北京の首都経済貿易大学に留学。 北京では中国国有の大手新聞社などに勤務し、中国の政治、経済、社会記事などを幅広く執筆。 帰国後の2004年にT&Cトランスリンク(現DZHフィナンシャルリサーチ)入社。 現地での豊富な経験や人脈を生かして積極的に中国企業や政府機関などへの取材を行ない、中国企業の調査・分析を行なっている。

池ヶ谷 典志の別の記事を読む

人気ランキング

人気ランキングを見る

連載

連載を見る

話題のタグ

公式SNSでも最新情報をお届けしております