中国株の銘柄選び

香港市場の主要銘柄:ハンセン銀行(3) 史上最大の1965年危機、ライバルの傘下に下る

中国株への投資を始めてみたいけど、どんな銘柄に投資していいか分からない。そんな場合は、香港市場を代表する株価指数であるハンセン指数の構成銘柄の中から探してみるのが基本中の基本。ハンセン指数に選ばれる銘柄の中には、世界的な大企業もあれば、個性的で魅力的な銘柄もたくさん集まっています。このシリーズでは、香港市場の主要銘柄をハンセン指数の構成銘柄の中から選んで紹介していきます。今回もハンセン銀行(恒生銀行:00011)の続きです。


▼参考

中国株の銘柄選び 中国株ビギナーがまず選ぶのはこれ!ハンセン指数は基本中の基本


華人系銀行の最大手に成長


香港の経済成長に伴い順調に事業を拡大していった「恒生銀號」は、1960年に政府の銀行ライセンスを取得し、「恒生銀行(ハンセン銀行)」に社名を変更。資本金は3000万HKドルに拡大し、油麻地(ヤウマテイ)や旺角(モンコック)などの繁華街に支店も建設します。


1962年には高さ22階建ての本店ビルが完成し、新オフィスの利用が始まります。この当時、香港で最も高いビルで、ランドマークと言える存在でした。この時代の香港は、シンガポール、韓国、台湾とともに「アジアの四小龍」と呼ばれ、大きな発展を遂げます。


1954年から1964年にかけ、ハンセン銀行の顧客預金残高は約34倍に拡大。この時点で香港最大の華人系銀行に成長していました。


写真は「恒生銀號」時代の新聞広告 出所:恒生銀行今昔


1965年に倒産の危機、HSBCの支援で乗り切る


しかし、1965年1月に事件が発生します。同業の華人系銀行である明徳銀號(Ming Tak Bank)で取り付け騒ぎが発生したのです。「顧客に700万HKドル相当の米ドル建て小切手の支払いができなかった」とのうわさが流れたことがきっかけでした。明徳銀號では不安にかられた預金者が現金を引き出すために窓口に殺到。香港政府が明徳銀號を接収して処理にあたりましたが、結局、1週間後に倒産してしまいます。


この事件で華人系銀行への信頼がゆらぎます。さらに新聞が華人系銀行の経営不安をあおったことで、広東信託銀行、遠東銀行、永隆銀行、嘉華銀行、道亨銀行、広安銀行などの華人系銀行にも取り付け騒ぎが波及。多くの銀行が倒産もしくは外資系銀行の傘下に入ります。ハンセン銀行も例外ではなく、現金を引き出そうとする客が店舗に押し寄せます。4月5日には1日で預金全体の6分の1に当たる8000万HKドル、4月中旬までに2億HKドルの現金が引き出されてしまいました。銀行のロビーに紙幣を積んで、現金が十分にあることをアピールしますが効果がありません。このまま現金の引き出しが続けば、ほかの華人系銀行と同じく倒産が待っているだけです。倒産が現実味を帯びます。


写真は現金引き出しのため店舗に押し寄せる人々 出所:品牌博物館恒生館


ここで支援を申し出てきたのが、英国系資本の銀行最大手、香港上海銀行(HSBC:00005)でした。ハンセン銀行にとっては、諦めて政府に接収されるか、HSBCの支援を受け入れて買収されるかの選択です。ハンセン銀行の経営陣は、背に腹は代えられないと判断。ライバルであるHSBCの傘下に入ることを決断します。


HSBCは安値でハンセン銀行の過半数の株式を取得し、ハンセン銀行を倒産の危機から守ります。ハンセン銀行はこうして、華人系銀行を襲った1965年の取り付け騒ぎを乗り切り、HSBCグループの一員として再出発を果たしたのです。


再出発にあたりHSBCは4人の役員を送り込みますが、華人系銀行で最大手に成長したハンセン銀行の統治能力を高く評価し、旧経営陣にそのままハンセン銀行の経営を任せます。HSBCにはない華人社会との深いつながりを重視したのです。


ただ、1965年の取り付け騒ぎを巡っては、裏で手を引いたのは実はHSBCではないか?という陰謀論もささやかれています。真相はわかりませんが、結果的に1965年危機で最も得をしたのは、ライバルに成長しようとしていたハンセン銀行を安値で手に入れたHSBCでした。


1965年の取り付け騒ぎを巡ってはHSBCによる陰謀論もささやかれる 出所:AASTOCKS


ハンセン指数の誕生、主要33銘柄でスタート


倒産の危機を脱した後、ハンセン銀行では何善衡氏主導の下、香港市場に上場する銘柄の値動きを示した指数の開発が進められます。目指したのは香港版のダウ平均株価指数です。開発を任されたのは、リサーチ部門の責任者だった関士光氏でした。関士光氏は後に「ハンセン指数の父」と呼ばれます。


1964年7月31日を基準日(=100)とし、上場企業30銘柄を構成銘柄とした指数を算出。当初はまだ社内の参考用としての位置づけでしたが、1969年11月に対外向けに公表を開始します。このときのハンセン指数の始値は150ポイントで、構成銘柄数は33銘柄でした。


この当時、香港の証券取引所は現在の取引所の前身にあたる「香港証券交易所(The Hong Kong Stock Exchange)」で、上場企業数は外資系企業を中心とした約60銘柄でした。ハンセン指数は33銘柄で時価総額全体の7割以上を占めていました。新聞やラジオ、テレビで指数とともに紹介される「恒生(ハンセン)」の2文字は、絶大な宣伝効果を発揮します。


出所:恒生指数有限公司


なお、上記の表が1969年当時のハンセン指数構成銘柄の一覧です。その後の再編で名前の消えてしまった銘柄がある一方、ホンコン・チャイナガス(香港中華煤気:00003)やHSBC(匯豊控股:00005)のように、いまでもハンセン指数の構成銘柄に残っている銘柄もあります。実力のある銘柄というのは、どんな時代も乗り越える力を持っているようです。


次回はハンセン銀行の最終回です。お楽しみに。


まとめ:今回紹介した香港市場の主要銘柄


【HSBCグループ傘下の香港地場系大手行】1965年からHSBC(00005)傘下。約260カ所の営業拠点を持つ香港が主要事業基盤。2003年に興業銀行(601166)への資本参加で本土市場に参入したが、15年5月までに持ち株をほぼ売却。07年には本土現地法人の恒生銀行(中国)を設立した。本土では北京、広州、深セン、上海、南京などに営業拠点を展開。域外ではシンガポールとマカオに支店、台北に代表事務所を置く。ハンセン指数を運営するハンセン・インデックシズは完全子会社。


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中国株情報部 部長兼編集長

池ヶ谷 典志

立命館大学卒業後、1997年に北京の首都経済貿易大学に留学。 北京では中国国有の大手新聞社などに勤務し、中国の政治、経済、社会記事などを幅広く執筆。 帰国後の2004年にT&Cトランスリンク(現DZHフィナンシャルリサーチ)入社。 現地での豊富な経験や人脈を生かして積極的に中国企業や政府機関などへの取材を行ない、中国企業の調査・分析を行なっている。

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