世界7位の規模を誇る香港市場。香港市場には中国を代表するIT企業など、数多くの魅力的な銘柄が上場しています。これまでテンセント(00700)、アリババ集団(09988)、中国建設銀行(00939)、チャイナ・モバイル(00941)の4銘柄を紹介してきました。今回は時価総額5位の美団(03690)の続きです。
▼参考
・香港市場の主要銘柄:美団(1) ATMXの一角で時価総額5位、清華大卒の王興氏が北京で立ち上げ
10年に「美団」を立ち上げ、「グルーポン」の中国版で攻勢を仕掛ける
2010年に王興氏が立ち上げた「美団」は当初、米国で流行していた共同購入型クーポンサイト「グルーポン」の中国版を目指しました。美団のクーポン共同購入サービスは、シリアルアントレプレナー(連続起業家)の王興氏が立ち上げた事業ということで、リリース当初から注目を集めます。ただ、クーポンの共同購入サービス事業にはブームに乗って次々と新たな企業が参入してきます。ついには群雄割拠の戦国時代に突入し、各社が利益度外視でシェアを争う「レッドオーシャン」状態となってしまいました。
2011年には共同購入事業への参入企業は5000社を超えたと言われ、その激しい競争は「千団大戦(千を超える共同購サイトによる戦争状態:団は共同購入を指す)」とも呼ばれました。この時期には、1日に10社を超える新規参入があったといいます。美団はいきなりこの激しい争いに巻き込まれたのです。
2011年には多くの共同購入サイトが乱立した 引用:百度百科
アリババ集団などの支援を得て「千団大戦」を勝ち抜く
美団はこうしたなか、取り扱いの対象を競争の激しい「モノ」ではなく、「サービス」に特化する戦略を採用します。そして、小規模業者が次々と資金不足に陥るなか、ベンチャーキャピタル(VC)大手のセコイア・キャピタルやアリババ集団(09988)などから5000万米ドルの出資を獲得。アリババ系の決済サービス「支付宝(アリペイ)」との連携で利便性を高めるとともに、大きな資金援助を得たことで事業エリアを全国に拡大していきます。ホテルやレストランの予約、映画チケットの販売、フードデリバリーなどのサービスを次々と立ち上げ、何とかこの激しい争いを勝ち抜きます。
美団が「千団大戦」を勝ち抜く上で、アリババ集団の存在が非常に大きかったと言えます。アリババ集団は飲食店の口コミサイト「口碑網(Koubei.com)」を運営していましたが、競合するサービスを閉鎖して美団を支えます。アリババ集団は美団のその後の資金調達ラウンドにも参加し、資金面でも全面的にバックアップします。そして人材面でも美団に優秀なスタッフを派遣し、事業拡大を支えていきます。美団が急成長を遂げることができたのは、まさにアリババ集団の支援のおかげだったのです。
美団はアリババ集団の支援で「千団大戦」を勝ち抜く
アリババ集団との蜜月、そして15年の大事件へ
蜜月関係にあった美団とアリババ集団ですが、アリババ集団による経営への関与が増えるにつれて、関係がぎくしゃくしていきます。アリババ集団の経営戦略は基本的に、パートナー企業を支配下に置き、経営に積極的に関与していくことで「アリババ経済圏」を拡大させることに主眼を置いています。
しかし、もともと野心家で独立志向の強い王興氏にとっては、自分の会社が支配されて経営に口出されることに我慢がなりません。王興氏は美団を最終的にはIT大手のBAT(百度、アリババ集団、テンセント)に並ぶ「第四極」にしたいと考えていました。独立を維持したいという考えが根底にあります。そして、これまでの資金調達ラウンドでアリババ集団からの出資を受け入れ過ぎたこともあり、アリババ集団の支配権が強くなってきたことに危機感を抱きます。
そこで、王興氏はアリババ集団の力を削ぐため、アリババ集団抜きの資金調達に踏み切り、アリババ集団の出資比率引き下げに動きます。そして、2015年にアリババ集団の怒りを買う大事件が起きます。
15年にライバル「大衆点評」と合併、アリババ集団との対立が決定的に
2015年10月、美団が突如としてライバルだった「大衆点評」との合併を発表したのです。この合併により、飲食店関連の割引クーポン分野で圧倒的なシェアを握ることになります。この合併を手引きしたのは、美団と大衆点評の両社に出資していたベンチャーキャピタル(VC)のセコイア・キャピタルでした。
アリババ集団側に合併計画が知らされたのは、合併を決議する取締役会のわずか12時間前だったといいます。しかも、合併相手である大衆点評には、テンセント(00700)が出資しています。いわば「テンセント系」の企業との合併です。テンセントとアリババ集団は激しい勢力圏争いをしていたため、アリババ集団側は当然黙ってはいません。王興氏としては、アリババ集団とテンセントの両社が出資する新たな関係を模索したようですが、アリババ側はこれを拒否。これで美団とアリババ集団の対立は決定的となります。
上の図は2015年当時の中国の共同購入サービス市場の勢力図です。2011年には5000社以上がひしめき合っていましたが、このころには業界はほぼ3社に集約され、アリババ系の美団が約6割、テンセント系の大衆点評が約2.5割、百度系の糯米(Nuomi.com)が約1割となっていました。IT大手のBAT(百度、アリババ集団、テンセント)傘下企業による代理戦争の状態でした。美団と大衆点評の合併で8割超のシェアを握ることになり、その後の勢力争いに大きな影響を及ぼします。
ちなみに、百度系の糯米は、交流サイト運営の「人人網」が2010年にリリースしたサービスで、2013年に百度が買収しました。「人人網」といえば、王興氏が2005年に立ち上げた交流サイト「校内網」がその源流です。王興氏にとっては糯米に対しても、「意地でも負けられない」という思いがあったことでしょう。なお、シェアを奪われた糯米はその後、2022年8月にサービスを終了しています。
次回も美団の紹介の続きです。お楽しみに。