中国株の銘柄選び

香港市場の主要銘柄:農夫山泉(2) 娃哈哈との最初の確執、亀とスッポンで成功後に飲料水業界に参入

中国株への投資を始めてみたいけど、どんな銘柄に投資していいか分からない。そんな場合は、香港市場を代表する株価指数であるハンセン指数の構成銘柄の中から探してみるのが基本中の基本。ハンセン指数に選ばれる銘柄の中には、世界的な大企業もあれば、個性的で魅力的な銘柄もたくさん集まっています。このシリーズでは、香港市場の主要銘柄をハンセン指数の構成銘柄の中から選んで紹介していきます。


▼参考

中国株の銘柄選び 中国株ビギナーがまず選ぶのはこれ!ハンセン指数は基本中の基本


大学卒業後は「浙江日報」の記者として活躍


2度の大学入試失敗で挫折を経験した鍾氏でしたが、その年にちょうど、いまで言う放送大学のような学校が全国に設立されます。大学入試に落ちた若者に学びのチャンスを与えるのが目的で、鍾氏も浙江広播電視大学(現浙江開放大学)への入学を果たします。卒業後は地元の新聞社「浙江日報」に就職。社会人として新たなキャリアをスタートさせます。浙江日報では農村部に所属し、500人を超える多くの経営者を取材。経営者への取材を通じて見識を広め、起業への憧れが徐々に高まっていきます。


1988年に海南省が設立され、海南省が経済特区に指定されると、チャンスを求めて多くの若者が起業のため海南省を目指します。新たな時代の幕開けを予感した鍾氏は、居ても立ってもいられなくなり、5年間勤めた新聞社を退職。海南省での起業を決意します。


新たな地でまず始めたのは新聞社の立ち上げでした。海南省のホテルの一室に事務所に構え、1989年に「太平洋郵報(Pacific Post)」を発刊します。しかし、新聞に対する出版規制が強まり、個人新聞は発行禁止となってしまいます。最初の事業はこうして、あえなく失敗に終わります。


当時の「太平洋郵報」 出所:易有料


その後、キノコを栽培したり、エビを養殖したりと、さまざまな事業にチャレンジしては失敗を繰り返します。露店を開いたり、カーテンを売ったりもしました。しかし、いずれの事業もうまくいきません。そんな中、副業のように始めた事業が当たります。大手食品会社である娃哈哈(ワハハ)の販売代理事業です。


娃哈哈の代理販売事業で不正、娃哈哈の宗会長の怒り買う


娃哈哈は当時、まだ創業間もない時期でしたが、子供用の栄養ドリンクが人気を集めていました。鍾氏は新聞社時代の人脈を使い、その娃哈哈の海南省と広西チワン族自治区での販売代理権を獲得し、販売を行っていたのです。


娃哈哈の児童栄養液 出所:数食鏈


しかし、鍾氏は安価で仕入れた娃哈哈の商品を、代理販売が認められていない地域で売ってしまいます。もちろん契約違反です。この事実が娃哈哈にバレてしまい、娃哈哈の宗慶後会長の怒りを買います。代理権はすぐに取り消され、再び仕事がなくなってしまいます。2年間の代理販売で大きな軍資金を得ることができましたが、娃哈哈とは大きなしこりを残す結果となり、その後も事あるごとに衝突することになります。


健康食品業界に参入、1993年に「養生堂」を設立


娃哈哈の代理販売事業を失った鍾氏は、新たな事業を模索します。鍾氏はある日、レストランに入ると、客がみな同じ料理を注文していることに気づきます。見ると、亀とスッポンを煮込んだ薬用スープ「養生湯」でした。これからは健康ブームがくると直感した鍾氏は1993年、新たな会社「養生堂」を設立。社名は薬用スープの「養生湯」から名付けました(「湯」と「堂」は中国語の発音が似ている)。会社設立に当たっては中医薬大学から3人の専門家を招聘(しょうへい)。じっくりと研究を重ねたうえで、亀とスッポンのエキスを配合した滋養強壮剤「養生堂亀鼈丸(きべつがん)」を発売。これが大ヒットし、全国販売も開始します。


当時、陸上界で世界記録を量産した馬軍団(馬俊仁氏が率いる陸上チーム)が、驚異的な記録の秘訣について「冬虫夏草とスッポンだ」と語ったこともブームに火をつけました。


養生堂亀鼈丸 出所:企業福利団購網


しかし、養生堂の成功を受け、「二匹目のどじょう」を狙った新規参入が相次ぎます。こうしたなか、中国国内では健康食品を巡る品質問題や誇大広告の問題などが噴出。中国中央テレビ(CCTV)が覆面調査を実施してずさんな業者の実態を暴くなど、健康食品業界に対する風当たりが強まります。健康食品に対する国家基準が決められ、当局の検査も厳しくなります。


中小の業者が次々と撤退するなか、ライバルの娃哈哈も健康食品から飲料事業に主戦場を移します。鍾氏も1996年、対抗して飲料会社を立ち上げます。これが農夫山泉の前身である浙江千島湖養生堂飲用水です。ここから飲料水を巡る娃哈哈との戦いが始まります。


次回も農夫山泉の続きです。お楽しみに。


まとめ:今回紹介した香港市場の主要銘柄


今回紹介した銘柄は、2020年に香港証券取引所のメインボードに上場したボトル入り飲料水最大手の農夫山泉(09633)です。


【ボトル入り飲料水の中国最大手】「農夫山泉」ブランドでボトル入りのナチュラルミネラルウオーターの製造・販売を手掛ける。中国市場で長年にわたってシェアトップを維持。新疆ウイグル自治区や黒龍江省、浙江省、河北省、湖北省、四川省など全国12カ所に湧き水や深層水の水源を持ち、水源の近くに工場を保有する。茶飲料「東方樹葉」、機能性飲料「維他命水」、果汁飲料「農夫果園」なども生産。これら3種でもシェア上位。

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中国株情報部 部長兼編集長

池ヶ谷 典志

立命館大学卒業後、1997年に北京の首都経済貿易大学に留学。 北京では中国国有の大手新聞社などに勤務し、中国の政治、経済、社会記事などを幅広く執筆。 帰国後の2004年にT&Cトランスリンク(現DZHフィナンシャルリサーチ)入社。 現地での豊富な経験や人脈を生かして積極的に中国企業や政府機関などへの取材を行ない、中国企業の調査・分析を行なっている。

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