中国株の銘柄選び

意外と身近にある中国株、ドンキの店内で探してみた(8) バドワイザーAPAC、世界最大のビール会社のアジア部門

中国株への投資を始めてみたいけど、どんな銘柄に投資していいか分からない。そんな場合は、身近にある上場企業に投資してみるというのも一つの手です。そこで今回は、意外と身近にある中国株というテーマで、身近にある中国株の銘柄を紹介したいと思います。日本でも意外と中国株銘柄の商品やサービスを探すことができます。今回はディスカウントストア「ドン・キホーテ」の店内で中国株銘柄を探してみました。


バドワイザーAPACのビール「バドワイザー」



今回見つけたのは、「バドワイザー(Budweiser)」ブランドのビールです。ドンキのビールコーナーはほとんど日本メーカーのビールで占められていて、輸入ビールは少し立場の弱さも感じられますが、バドワイザーと言えば世界での知名度は抜群。名前を聞いたことがないという人は少ないでしょう。日本でもかつて、バドワイザーの柄を大きくデザインしたワンピースの衣装「バドスーツ」を着用したキャンペーンガール、通称「バドガール」が流行りました。そのバドワイザーのビールを扱っている会社が香港証券取引所に上場していることを知らない人は多いかもしれません。


ちょっと関係を説明すると、「バドワイザー」ブランドのビールは、米国のアンハイザー・ブッシュ社が生産していますが、その親会社が世界最大のビール会社であるベルギーのアンハイザー・ブッシュ・インベブ社。そして、そのアンハイザー・ブッシュ・インベブ社のアジア区を管轄する子会社がバドワイザーAPAC(百威亜太:01876)となっています。そして、このバドワイザーAPACが香港証券取引所に上場しているのです(下の図を参照)。


日本ではもともと、キリンビールが「バドワイザー」の国内生産・販売を行っていましたが、現在はバドワイザーAPACが日本市場を管轄し、その日本子会社であるアンハイザー・ブッシュ・インベブ・ジャパンが「バドワイザー」を輸入販売しています。日本で購入されたバドワイザーのビールは、香港証券取引所に上場するバドワイザーAPACの売上高にしっかりと計上されているのです。


ルーツは1240年のベルギーの修道院、買収の歴史を物語る長い社名


バドワイザーAPACは2019年4月に設立され、同じ年の9月に香港証券取引所に上場。その翌年の2020年12月には香港の代表的な株価指数であるハンセン指数に選ばれ、スピード採用を果たしています。


一方、その親会社にあたるアンハイザー・ブッシュ・インベブは歴史が古く、M&A(合併・買収)によって成長してきた会社です。「バドワイザー」「コロナ」「ステラアルトワ」などのブランドを擁し、いまでは世界シェアの約3割を握っています。


そのルーツはベルギーにある修道院で1240年にオリジナルブランド「Leffe(レフ)」が誕生したことに始まります。自給自足の生活が行われていた中世の修道院では、醸造という工程を経たビールは伝染病を介さない安全な「命の水」として造られていたのです。1366年には同じくベルギーにデンホーン醸造所が誕生。これがM&Aを通じて1984年にインターブリュー(Interbrew)社となり、2004年にはブラジルのアンベブ(Ambev)社を買収。2社から社名の一部を取って「インベブ(InBev)」となります。


2008年には1860年創業の米アンハイザー・ブッシュと合併し、現在の社名である「アンハイザー・ブッシュ・インベブ」に改称。M&Aでグループに加わった会社の社名を残してきたために、このような長い社名になったのです。


 

出所:各種資料を参考に筆者作成


2016年には何と当時業界2位だったSABミラー(英国)まで買収してしまいます。業界1位と2位の統合には当然、独占禁止法の問題が出てきます。そこでアジア事業を切り離して独立した運営にすることで、この問題を回避しようとしたのです。この過程でSABミラーは当時、中国で国内トップシェアを誇っていた華潤雪花ビールの株式49%を売却しています。中国国内では現在、華潤ビール(00291)、青島ビール(00168)に次ぐ3位という位置づけです。


日本での取り扱いブランド


なお、ドンキの店内では「バドワイザー」のほかにも、バドワイザーAPACで扱うブランドが置いてありました。メキシカンビールの「コロナエキストラ(Corona Extra)」、ベルギーホワイトの「ヒューガルデン(Hoegaarden)」、ドイツのラガービール「レーベンブロイ(LOWEN BRAU)」の3ブランドです。


写真は「ヒューガルデン(Hoegaarden)」と「コロナエキストラ(Corona Extra)」


アンハイザー・ブッシュ・インベブ・ジャパンのホームページによると、日本ではこのほかにもベルギーのピルスナービール「ステラアルトワ(Stella Artois)」、メキシコのペールラガー「モデロ(MODELO)」、米国のクラフトビール「グースアイランド(Goose Island)」、ベルギーの修道院ビール「レフ(Leffe)」も取り扱っているようです。


それぞれ特徴が違いますので、どこかで見つけたら飲み比べてみるのもよいかもしれません。


バドワイザーAPACの主力ブランド 出所:バドワイザーAPAC目論見書


まとめ:今回見つけた身近な中国株銘柄


今回見つけた身近な中国株銘柄はバドワイザーAPAC(01876)で、香港証券取引所メインボードに上場しています。


【ABインベブのアジア事業会社】ビール世界最大手、アンハイザー・ブッシュ・インベブ(ABインベブ)のアジア子会社。アジアの西部(中国、インド、ベトナム)を中心に東部(韓国、日本、ニュージーランド)でも事業展開する。製造・販売するビールは「バドワイザー」「ステラアルトワ」「コロナ」「ヒューガルデン」などの世界的ブランドとローカルブランドを合わせ50超に上る。近年は蒸留酒やその他のアルコール飲料、エナジードリンクなども手掛ける。


この連載の一覧
香港市場の主要銘柄:中国蒙牛乳業(1) 世界9位の乳製品会社、国内首位の座を巡ってライバル伊利と激しい争い
二季報を使った銘柄選び(26) 香港全上場企業一覧、時間のない人はサラッと業績だけでもチェック
香港市場の主要銘柄:トラッカー・ファンド・オブ・ホンコン 誕生のきっかけはアジア通貨危機でのソロスとの対決
二季報を使った銘柄選び(25) 主要指数の推移で投資リターンを高める
二季報を使った銘柄選び(24) 銘柄選びに困ったときは個別銘柄ではなくETFという選択肢も
二季報を使った銘柄選び(23) スクリーニングを使って銘柄を探す、「総合評価」の活用法を紹介
二季報を使った銘柄選び(22) スクリーニングを使って銘柄を探す、「安定性」の活用法を紹介
二季報を使った銘柄選び(21) スクリーニングを使って銘柄を探す、「成長性」の活用法を紹介
二季報を使った銘柄選び(20) スクリーニングを使って銘柄を探す、「割安株」の活用法を紹介
二季報を使った銘柄選び(19) 「粗利益率」ランキングで高い競争力を持った高収益企業を探す
二季報を使った銘柄選び(18) 「現金同等物」ランキングは安定性を重視した投資家向けの指標、上位には高配当利回り銘柄も
二季報を使った銘柄選び(17) 「低額銘柄」ランキングの「お手頃」銘柄で中国株投資をスタート
二季報を使った銘柄選び(16) 「高額銘柄」ランキングで人気銘柄を発掘、取引単位引き下げや株式分割を実施する銘柄も
二季報を使った銘柄選び(15) 「年間上昇率」と「年間下落率」のランキングで勢いのある銘柄やダメ銘柄を見つける
二季報を使った銘柄選び(14) 「株主資本比率」のランキングで安全性をチェック
二季報を使った銘柄選び(13) 「流動比率」と「低負債比率」のランキングは単独で使ってはいけない
二季報を使った銘柄選び(12) 「増益率」ランキングを活用して成長性の高い銘柄を探す
二季報を使った銘柄選び(11) ランキングを使って銘柄を探す、「業績増額修正」と「業績減額修正」で予想の変化をつかむ
二季報を使った銘柄選び(10) ランキングを使って銘柄を探す、「高配当利回り」はお宝銘柄の宝庫?10%を超える高配当銘柄がザクザク
二季報を使った銘柄選び(9) ランキングを使って銘柄を探す、「低PBR」だけで割安株を探してはいけない
二季報を使った銘柄選び(8) ランキングを使って銘柄を探す、「低PER」は投資指標の基本中の基本
二季報を使った銘柄選び(7) ランキングを使って銘柄を探す、経営効率の高い銘柄を探すなら「高ROE」
二季報を使った銘柄選び(6) ランキングを使って銘柄を探す、「時価総額」で企業規模の大きな会社を見つける
二季報を使った銘柄選び(5) 「業界マップ」を使って銘柄を見つける
二季報を使った銘柄選び(4) 証券会社の「注目銘柄ランキング」を参考にする
二季報を使った銘柄選び(3) 「業界天気予報」を使って業種を手掛かりに絞り込む
二季報を使った銘柄選び(2) 「中国株二季報」を目的に合わせて効率よく使いこなそう!
二季報を使った銘柄選び(1) 中国株の銘柄選びに欠かせない「中国株二季報」とは?
香港市場の主要銘柄:香港鉄路(5) 香港版Suicaのオクトパス、世界に先駆けてFeliCaを採用
香港市場の主要銘柄:香港鉄路(4) 香港鉄路はなにで儲けてる?鉄道会社だけど利益の柱は別にある
香港市場の主要銘柄:香港鉄路(3) 海外売上比率5割超、香港の鉄道会社だけど海外で稼ぐ
香港市場の主要銘柄:香港鉄路(2) 九広鉄路吸収で香港の鉄道独占事業者に、ディズニー線も運行
香港市場の主要銘柄:香港鉄路(1) 公共輸送シェア約5割!香港市民の移動を支える鉄道銘柄
香港市場の主要銘柄:農夫山泉(5) 広告重視の経営、どうする後継者問題?
香港市場の主要銘柄:農夫山泉(4) 勝者無き戦い、「京華時報」との大バトル
香港市場の主要銘柄:農夫山泉(3) 新参者のとった驚きの戦略とは!?訴訟に敗れて市場を奪う
香港市場の主要銘柄:農夫山泉(2) 娃哈哈との最初の確執、亀とスッポンで成功後に飲料水業界に参入
香港市場の主要銘柄:農夫山泉(1) 社名はダサそうだけど実はスゴい、ボトル入り飲料水の中国最大手
意外と身近にある中国株、街中で探してみた(4) ロクシタン、南仏プロバンス発祥の自然派コスメブランド
意外と身近にある中国株、ドンキの店内で探してみた(8) バドワイザーAPAC、世界最大のビール会社のアジア部門
香港市場の主要銘柄:ハンセン銀行(4) 23年に創立90周年、デジタル分野でも挑戦を続ける
香港市場の主要銘柄:ハンセン銀行(3) 史上最大の1965年危機、ライバルの傘下に下る
香港市場の主要銘柄:ハンセン銀行(2) 戦後の香港で再出発、香港の「超人」李嘉誠氏らを支援
香港市場の主要銘柄:ハンセン銀行(1) 「永遠の成長」を目指す香港の華人系銀行大手
香港市場の主要銘柄:中電控股(3) 戦後復興と海外展開、SOCに守られた香港事業と不安定な豪州事業
香港市場の主要銘柄:中電控股(2) カドゥーリー家の夢と挫折、第二次大戦中は日本軍が接収
香港市場の主要銘柄:中電控股(1) 100年以上の歴史を誇る香港最大の電力会社、イラク系ユダヤ人が支配
意外と身近にある中国株、街中で探してみた(3) 1910年創業の旅行かばんの王者「サムソナイト」、社名の由来となった「サムソン」とは?
意外と身近にある中国株、街中で探してみた(2) ペニンシュラホテル、「東洋の貴婦人」と呼ばれた歴史と伝統の高級ホテル
意外と身近にある中国株、街中で探してみた(1) シャングリラ・アジア、東京駅に隣接する「理想郷」
中国株ビギナーがまず選ぶのはこれ!ハンセン指数は基本中の基本
意外と身近にある中国株、ショピングモールで探してみた(1) ポップマートのロボショップ、沼にハマる人続出の「盲盒」とは?
意外と身近にある中国株、ドンキの店内で探してみた(7) お湯要らず!「海底撈」のインスタント火鍋
意外と身近にある中国株、ドンキの店内で探してみた(6) 1840年創業の超老舗企業が生み出す「鎮江香酢」
意外と身近にある中国株、ドンキの店内で探してみた(5) 不思議な味の中華ジャンクフード「辣条(ラーティアオ)」
意外と身近にある中国株、ドンキの店内で探してみた(4) 周恩来が愛した大白兎のミルクキャンディー
意外と身近にある中国株、ドンキの店内で探してみた(3) 旺旺のミルクキャンディー、独特の企業文化と「黒皮精神」
意外と身近にある中国株、ドンキの店内で探してみた(2) 洽洽食品のヒマワリの種と康師傅のカップ麺
意外と身近にある中国株、ドンキの店内で探してみた(1) 小米のスマートバンド、TCLのテレビ、ANKERのスマホアクセサリー
香港市場の主要銘柄:ネットイース(3) どん底から奇跡の大復活、ゲームを事業の柱に成長
香港市場の主要銘柄:ネットイース(2) ポータルサイト化へ戦略転換、ナスダックに上場
香港市場の主要銘柄:ネットイース(1) 中国のオンランゲーム大手、より簡単なネット接続を目指す
意外と身近にある中国株、街中の飲食店を探してみた(3) お米を使ったライスヌードル「米線」の「譚仔三哥」
香港市場の主要銘柄:CNOOC 中国最大のオフショア石油開発会社
意外と身近にある中国株、街中の飲食店を探してみた(2) 羊のしゃぶしゃぶ料理の「小肥羊」
意外と身近にある中国株、街中の飲食店を探してみた(1) 火鍋のトップブランド「海底撈」、抜群のエンタメ性が人気の秘密
香港市場の主要銘柄:JDドットコム(3) 自前主義でライバルと差別化、顧客に喜びを届ける
香港市場の主要銘柄:JDドットコム(2) 創業記念日に上場、618に強い思い入れ
香港市場の主要銘柄:JDドットコム(1) 中国のネット通販大手、分かれ道となった20年前のSARS
香港市場の主要銘柄:AIAグループ(2) AIGから独立して香港市場に上場、ロゴに描かれている山は?
香港市場の主要銘柄:AIAグループ(1) アジア最大級の生命保険会社、1919年創業の保険代理店がルーツ
香港市場の主要銘柄:HSBC(2) 民間銀行だけど紙幣を発行、紙幣に描かれたライオンの正体は?
香港市場の主要銘柄:HSBC(1) 1865年に香港で創業、アヘンで成長した黒歴史も
意外と身近にある中国株、家電量販店で探してみた(3) 白物家電編
中国株の銘柄選び:意外と身近にある中国株、家電量販店で探してみた(2) テレビ編
中国株の銘柄選び:意外と身近にある中国株、家電量販店で探してみた(1) スマホ、PC編
香港市場の主要銘柄:美団(3) 「アリババ系」から「テンセント系」へと転身、そして・・・
香港市場の主要銘柄:美団(2) アリババ集団との蜜月と決別、転機となった15年のある出来事
香港市場の主要銘柄:美団(1) ATMXの一角で時価総額5位、清華大卒の王興氏が北京で立ち上げ
香港市場の主要銘柄:チャイナ・モバイル 携帯契約数は世界1位、NTTドコモの11倍
香港市場の主要銘柄:中国建設銀行 4大国有商業銀行で時価総額最大、インフラ建設分野に強み
香港市場の主要銘柄:アリババ集団(3) アリババは102年続く企業になれるのか?
香港市場の主要銘柄:アリババ集団(2) イーベイとの争いを制して中国での覇権を握る
香港市場の主要銘柄:アリババ集団(1) 落ちこぼれジャック・マーの逆襲
香港市場の主要銘柄:テンセント、目指すは「最も尊敬されるインターネット企業」

中国株情報部 部長兼編集長

池ヶ谷 典志

立命館大学卒業後、1997年に北京の首都経済貿易大学に留学。 北京では中国国有の大手新聞社などに勤務し、中国の政治、経済、社会記事などを幅広く執筆。 帰国後の2004年にT&Cトランスリンク(現DZHフィナンシャルリサーチ)入社。 現地での豊富な経験や人脈を生かして積極的に中国企業や政府機関などへの取材を行ない、中国企業の調査・分析を行なっている。

池ヶ谷 典志の別の記事を読む

人気ランキング

人気ランキングを見る

連載

連載を見る

話題のタグ

公式SNSでも最新情報をお届けしております