中国株の銘柄選び

香港市場の主要銘柄:中国蒙牛乳業(3) 伊利との決別と蒙牛の創業、伊利を追放された勢力が集結

中国株への投資を始めてみたいけど、どんな銘柄に投資していいか分からない。そんな場合は、香港市場を代表する株価指数であるハンセン指数の構成銘柄の中から探してみるのが基本中の基本。ハンセン指数に選ばれる銘柄の中には、世界的な大企業もあれば、個性的で魅力的な銘柄もたくさん集まっています。このシリーズでは、香港市場の主要銘柄をハンセン指数の構成銘柄の中から選んで紹介していきます。今回は中国の乳業大手、中国蒙牛乳業(02319)の続きです。


▼参考

中国株の銘柄選び 中国株ビギナーがまず選ぶのはこれ!ハンセン指数は基本中の基本


鄭俊懷氏との対立が表面化、伊利との決別


牛根生氏は、上海証券取引所への上場を果たした内蒙古伊利実業集団(600887)で、トップである鄭俊懷氏の「右腕」として手腕を発揮し、大きな成果を上げていきます。しかし、2人の良好な関係に微妙な変化が生じ始めます。出る杭は打たれる――。内蒙古伊利実業集団で牛根生氏の功績は突出していました。当時の会社利益のおよそ8割は牛根生氏が生み出していたと言われます。牛根生氏は内蒙古伊利実業集団にとって、なくてはならない存在であり、多くの従業員たちが牛根生氏の指示で動いていました。自分の立場が脅かされるのではないか?メディアの注目も牛根生氏に集まるようになり、鄭俊懷氏は牛根生氏の能力とその存在に不安を感じ始めます。


しかし、社内でナンバー2の立場に上り詰めた牛根生氏には、ガツガツと出世を目指そうという考えがありません。会社から高級車を購入するために与えられたお金を従業員の送迎用ミニバンの購入費用に充てたり、重い病気になった同僚にポケットマネーで見舞金を出したりするなど、社内では非常に慕われる存在でした。自身が不遇な幼少時代を過ごしてきたからこそ、他の人を助けてあげたいという気持ちが強かったようです。まさか鄭俊懷氏の反感を買うことになるとは思いもしなかったことでしょう。


社内で徐々に牛根生氏への風当たりが強くなっていきます。少額の物品を購入するだけも社内で妨害が入るにようになります。牛根生氏もさすがに鄭俊懷氏が自分を排除しようとしていることに気づきます。部下の多くも解雇され、粛清の嵐が吹き荒れます。牛根生氏は自ら身を引くことを決意し、内蒙古伊利実業集団を離れることになります。会社を二人三脚で発展させてきた牛根生氏と鄭俊懷氏は完全に決別します。


牛根生氏は伊利を離れることを決意した


蒙牛乳業設立、伊利を追放された勢力が結集


1999年、内蒙古伊利実業集団を離れた牛根生氏は、内蒙古伊利実業集団の株式を売却して得た100万元を元手に新たな会社を立ち上げます。中国蒙牛乳業です。人望の厚かった牛根生氏の元には、かつての優秀な部下たちが集まります。内蒙古伊利実業集団で各部門を支えるトップ人材が次々と創業されたばかりの中国蒙牛乳業に移っていきます。当然、鄭俊懷氏の怒りを買います。創業当初は資金力がなく、工場も建てられません。そこで牛根生氏は資産をなるべく持たないアセットライト戦略を活用します。ハルビンの乳製品工場と契約を結び、そこで「蒙牛」ブランドの牛乳の生産を開始します。


ブランド戦略については「伊利に学び、内モンゴルで2位のブランドを目指す」というキャッチフレーズを打ち出します。あくまで謙虚な姿勢を表に出しながらも、業界トップである伊利の名前を並べることで、自社を大手の一角であるかのように見せかける手法です。フフホト市内にたくさんの屋外広告が貼り出され、広告が多くの人の目に止まります。しかし、伊利にとっては面白くありません。創業間もない実績のない会社と比べられること自体心外ですし、これまでの恩を仇で返すように多くの従業員を引き抜いていった会社です。取次店に対して蒙牛の製品を取り扱わないよう圧力がかかります。


 

蒙牛の当時の屋外広告 出所:文学城


ここで事件が起こります。中国蒙牛乳業が設置した複数の屋外広告が、何者かによって一夜にして壊されてしまったのです。これをメディアが大きく取り上げます。「追放された牛根生氏に対する伊利側の嫌がらせではないのか?」伊利に疑惑の目が向けられ、逆に蒙牛に同情が集まります。これにより「蒙牛」のブランド知名度が一気に高まります。「広告を壊された」というマイナス材料が、蒙牛にとって最大の広告効果となったのです。この事件をきっかけに蒙牛ブランドの牛乳の販売が急拡大し、広告のキャッチコピーの通り、短期間で「内モンゴルで2位のブランド」を実現したのです。


ただ、この事件については多くの謎に包まれています。伊利の嫌がらせ説が有力ですが、この事件で得をしたのが蒙牛だけであることを考えると、蒙牛側の自作自演だったのではないか?という説もあります。真相は分かりまりませんが、この事件が蒙牛の快進撃のきっかけになったのは事実です。


次回も中国蒙牛乳業の続きです。お楽しみに。


まとめ:今回紹介した香港市場の主要銘柄


今回紹介した銘柄は、2004年に香港証券取引所のメインボードに上場し、2014年にハンセン指数に採用された、中国の乳製品大手・中国蒙牛乳業(02319)です。なお、香港市場の銘柄ではありませんが、内蒙古伊利実業集団(600887)についても概要を掲載しておきます。


【中国の乳業大手】牛乳や乳飲料、ヨーグルト、アイスクリームなどを製造・販売する。蘭ラボバンク発表の24年世界乳業番付で9位。23年末時点で国内45カ所、豪州、NZ、インドネシア、フィリピンに生産拠点を持ち、年産能力は1404万トンに上る。国有の中糧集団(COFCO)が実質筆頭株主で、デンマークのアーラ・フーズと共同事業を展開。中国現代牧業(01117)や中国聖牧有機ダイ業(01432)、雅士利国際を傘下に抱える。


【アジア最大の乳業メーカー】乳製品と健康飲料の製造・販売が中核事業。「伊利」チーズ、「金典」低温牛乳、「金領冠」粉ミルクなどで知られる。米ニールセンによる23年小売額ベースの国内シェアは液体乳製品が31.6%、乳児用粉ミルクが16.2%。22年3月、澳優乳業(01717)を連結子会社化。海外ではニュージーランドのオセアニア・デイリーとウエストランド・デイリー、タイのチョムタナなどの子会社を抱える。


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中国株情報部 部長兼編集長

池ヶ谷 典志

立命館大学卒業後、1997年に北京の首都経済貿易大学に留学。 北京では中国国有の大手新聞社などに勤務し、中国の政治、経済、社会記事などを幅広く執筆。 帰国後の2004年にT&Cトランスリンク(現DZHフィナンシャルリサーチ)入社。 現地での豊富な経験や人脈を生かして積極的に中国企業や政府機関などへの取材を行ない、中国企業の調査・分析を行なっている。

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