中国株の銘柄選び

香港市場の主要銘柄:テンセント、目指すは「最も尊敬されるインターネット企業」

世界7位の時価総額を誇る香港市場。今回から香港市場の主要銘柄について紹介していきたいと思います。主要銘柄として、今回は時価総額の大きな銘柄から紹介していきます。これから中国株に投資してみようと思われている方には知っておいて欲しい銘柄ばかりです。それでは一緒に見ていきましょう。



時価総額1位はインターネットサービス大手のテンセント


香港市場の時価総額1位はインターネットサービス大手のテンセント(00700)です。時価総額は9月末時点で47兆1000億円に上り、日本の時価総額トップであるトヨタ自動車の30兆6100億円を上回る規模です。日本の新聞にもよく出てきますので、中国株をやっていない方でも名前くらいは聞いたことがあるのではないでしょうか。日本の投資家の間でダントツの人気を誇る銘柄です。


テンセントは馬化騰(ポニー・マー)氏が中心となって1998年に深センで設立されたインターネットサービス企業で、2004年に香港証券取引所に上場しました。設立当初はインスタントメッセンジャーの「QQ」というサービスを中心に事業を展開していましたが、いまではゲームやスマホ決済、動画配信、クラウドなど、インターネット上のありとあらゆるサービスに事業を拡大しています。



サービスの中核はスーパーアプリの「微信(WeChat)」


すべてのサービスの中核となっているのは「微信(WeChat)」という、「LINE」のような対話アプリです。リリースされたのは2011年ですが、利用者は2022年6月末時点で12億9910万人。LINEの利用者が2022年8月時点で1億9300万人なので、LINEの6.7倍という規模です。テンセントはこの「微信(WeChat)」をさまざまなサービスの入り口となる「スーパーアプリ」として展開し、生活に関連するありとあらゆるサービスが「微信(WeChat)」に紐づけられています。中国人にとってはすでに生活に欠かすことのできない「インフラ」の一部となっているのです。 



当初は他社サービスの模倣を中心に成長


テンセントは当初、他社サービスの模倣を通じて事業を拡大してきました。例えば、インスタントメッセンジャーの「QQ」というサービスは、イスラエル企業が開発した「ICQ」というサービスを中国人向けにカスタマイズしたものです。ポータルサイトの「QQドットコム」も、当時国内のインターネット市場をリードしていた「新浪(Sina.com)」「捜狐(Sohu.com)」「網易(163.com)」のポータルサイトを模倣したものです。サービスは基本的に自社で開発する戦略を採用していました。


オープンプラットフォーム方式採用に方針転換


しかし、2011年に方針を大きく転換します。オープンプラットフォーム方式を採用し、「微信(WeChat)」のプラットフォーム上のサービスは、基本的にパートナー企業や出資先企業に任せるようにしたのです。この方針転換の背景には、プラットフォームを支配する1社だけが利益を独占することに対する社会的な批判の高まりがありました。2010年には「計算機世界」という雑誌が、「狗日的(人でなし)のテンセント」と題し、当時のテンセントの経営手法に対して徹底的な批判も行っていました。


 

引用:2010年7月発行の雑誌「計算機世界」の表紙



馬化騰会長は2011年に開いたパートナー企業を集めたイベントで、テンセントは「オンラインサービスをワンストップで提供する企業」から、「パートナー企業とともにオープンで境界線のない新たなエコシステムを創造する企業を目指す」と宣言。自分たちは決済機能の提供など、「微信(WeChat)」を利用する企業の利便性を高めるための支援に専念し、「微信(WeChat)」を中心としたエコシステム全体で、パートナー企業とともにウィンウィンの関係を築いていく方針に転換したのです。


テンセントのエコシステムの主要プレーヤーは?


では、テンセントのエコシステムにはどのような企業が参加しているのでしょうか。メディア報道によると、テンセントが出資した企業は1200社以上。うち100社超が上場企業あるいはユニコーン企業といいます。


あまりにも多いのですべてを挙げることはできませんが、電子商取引のJDドットコム(09618)、唯品会(VIPS)、ピン多多(PDD)、生活情報サイトの美団(03690)、58同城、動画配信の快手科技(01024)、ビリビリ(09626)、Q&Aサイトの知乎(02390)、配車サービスの滴滴出行、不動産仲介の貝殻控股(02423)、ゲーム動画配信の虎牙(HUYA)、闘魚(DOYU)、音楽配信のテンセント・ミュージック(01698)、電子書籍の閲文集団(00772)――といったあたりが、エコシステムの主要プレーヤーとなっています。


 

テンセントの主な投資先、線の太さは出資比率を示す 引用:中国経済周刊


テンセントは人々に最も尊敬されるインターネット企業を目指す


テンセントはこうしたエコシステムのパートナー企業を「命を分け合う仲間」とし、資金面やトラッフィク面などで積極的な支援を行っています。テンセントだけが成長するのではなく、エコシステム全体で成長・発展し、利益を分け合っていこうというわけです。これはある意味、習近平政権が掲げる「共同富裕」という考えを実践している企業といえるかもしれません。


馬化騰会長は2018年の創立20周年の記念式典の際、「テンセントは人々に最も尊敬されるインターネット企業でありたい」と述べています。かつて「人でなし」と罵られたテンセントですが、2011年の方針転換で心を入れ替えました。最も尊敬されるインターネット企業を目指して、これからもテンセントの挑戦は続きます。


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中国株情報部 部長兼編集長

池ヶ谷 典志

立命館大学卒業後、1997年に北京の首都経済貿易大学に留学。 北京では中国国有の大手新聞社などに勤務し、中国の政治、経済、社会記事などを幅広く執筆。 帰国後の2004年にT&Cトランスリンク(現DZHフィナンシャルリサーチ)入社。 現地での豊富な経験や人脈を生かして積極的に中国企業や政府機関などへの取材を行ない、中国企業の調査・分析を行なっている。

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