中国株の銘柄選び

香港市場の主要銘柄:ハンセン銀行(2) 戦後の香港で再出発、香港の「超人」李嘉誠氏らを支援

中国株への投資を始めてみたいけど、どんな銘柄に投資していいか分からない。そんな場合は、香港市場を代表する株価指数であるハンセン指数の構成銘柄の中から探してみるのが基本中の基本。ハンセン指数に選ばれる銘柄の中には、世界的な大企業もあれば、個性的で魅力的な銘柄もたくさん集まっています。このシリーズでは、香港市場の主要銘柄をハンセン指数の構成銘柄の中から選んで紹介していきます。今回はハンセン銀行(恒生銀行:00011)の続きです。


▼参考

中国株の銘柄選び 中国株ビギナーがまず選ぶのはこれ!ハンセン指数は基本中の基本


日中戦争と太平洋戦争、拠点をマカオに移転


1937年に日中戦争が始まると、中国から多くの富裕層や商人が資産を安全な場所に移すため、香港に避難してきます。中国の国民党政府も軍需物資を外貨で購入する必要があったため、中国では外貨である香港ドルとの両替需要が急激に拡大します。恒生銀號は国民党政府との取引で大きな手数料収入を獲得。日中戦争を契機に事業は急拡大の時期を迎えたのです。


しかし、1941年に太平洋戦争が始まると状況は一変。香港は旧日本軍の侵攻を受け、この年の12月25日に陥落します。いわゆる「ブラッククリスマス(黒色聖誕節)」です。旧日本軍の占領下に入った香港での事業閉鎖を余儀なくされ、拠点をマカオに移すことを決断します。


写真は香港に入る旧日本軍 出所:捜狐


当時のマカオはポルトガル領で、ポルトガルが中立を宣言していたため無傷だったのです。恒生銀號の創業メンバーである何善衡氏にとってマカオは、自身が生まれた土地でもあります。


しかし、ここで一つ問題が発生します。すでにマカオで同じ「恒生銀號」という会社が存在していたのです。「恒生銀號」という名称が使えないため、仕方なく「永華銀號」という名称に変更し、新天地マカオでの事業を始めたのです。マカオでは金(ゴールド)の取引を中心に事業を展開します。いまでも「有事の金」と言いますが、太平洋戦争のさなかのこの当時、手持ちの資産を金に替えて財産を保全しようとする人が多かったのです。こうして旧日本軍による3年8カ月の香港占領期間をマカオの地で何とか耐え抜きます。


金の取引で香港占領期間を耐え抜く


マカオで「大豊銀號」を立ち上げ、初代マカオ行政長官を輩出


なお、1942年に「永華銀號」の経営陣が中心とり、マカオで「大豊銀行」の前身である「大豊銀號」を立ち上げています。大豊銀行はその後、1984年に中国の4大国有商業銀行の一角である中国銀行(03988/601988)が買収。現在も中国銀行の子会社としてマカオで銀行業務を行っています。


なお、マカオが1999年12月にポルトガルから中国に返還された際、この大豊銀行で会長を務めていた何厚カ氏が、マカオの初代行政長官に就任しています。彼の父親である何賢氏は、「マカオの王」「マカオの影の総督」と呼ばれた実力者で、「大豊銀行」の初代総経理を務めました。「恒生銀號」が創業したときの主要メンバーの一人である何添氏の弟で、「恒生銀號」の創業前の1930年に同郷の何善衡氏と「匯隆銀號」を立ち上げた古くからの仲間でもありました。いろいろなところで歴史がつながっています。


マカオの大豊銀號 出所:新浪珍貴老照片


戦後は香港での事業を再開


さて、太平洋戦争が終結すると、1945年9月に拠点を香港に戻します。戦後の物資不足のなか、貿易取引での為替業務を中心に事業を再開します。すると、今度は1946年に中国で国民党と共産党による「国共内戦」が始まります。中国経済は大きなダメージを受けます。国民党政府は紙幣を乱発してインフレが発生。国民党政府が発行する紙幣は信用を失い、中国の人々は手持ちのお金をわれ先にと外貨や金に交換します。特に香港での金の取引が急激に拡大し、恒生銀號の業績も大きく伸びます。恒生銀號は金取引のリーダー的な存在となり、1946年から1949年にかけて何善衡氏は香港金銀業貿易場の会長も務めます。こうして、時代に翻弄されながらも幸運に恵まれ、金取引を中心に事業は再び軌道に乗ったのです。


1949年になると中国で国共内戦を制した共産党が中華人民共和国の設立を宣言。これにより中国と香港の為替・両替業務が停止されますが、香港域内では中国から逃れてきた人々によって製造業や不動産業が発展。アパレル、玩具、電子製品、プラスチックなどの軽工業の発展に伴って資金需要が拡大します。1952年には何善衡氏が会長に就任。新たな指導体制が発足し、これまで英国系の銀行が相手にしてこなかったような中小企業を主要顧客にした戦略で事業を発展させていくことになります。


こうして支援した企業の中には、香港の「超人」と呼ばれる李嘉誠氏の造花工場、新世界発展(00017)を築いた鄭裕タン氏の宝飾品店などが含まれていました。彼らの会社は後にアジアを代表する大企業へと発展していきます。


香港の「超人」李嘉誠氏らを支援した 出所:AASTOCKS


次回もハンセン銀行の続きです。お楽しみに。


まとめ:今回紹介した香港市場の主要銘柄


【HSBCグループ傘下の香港地場系大手行】1965年からHSBC(00005)傘下。約260カ所の営業拠点を持つ香港が主要事業基盤。2003年に興業銀行(601166)への資本参加で本土市場に参入したが、15年5月までに持ち株をほぼ売却。07年には本土現地法人の恒生銀行(中国)を設立した。本土では北京、広州、深セン、上海、南京などに営業拠点を展開。域外ではシンガポールとマカオに支店、台北に代表事務所を置く。ハンセン指数を運営するハンセン・インデックシズは完全子会社。


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中国株情報部 部長兼編集長

池ヶ谷 典志

立命館大学卒業後、1997年に北京の首都経済貿易大学に留学。 北京では中国国有の大手新聞社などに勤務し、中国の政治、経済、社会記事などを幅広く執筆。 帰国後の2004年にT&Cトランスリンク(現DZHフィナンシャルリサーチ)入社。 現地での豊富な経験や人脈を生かして積極的に中国企業や政府機関などへの取材を行ない、中国企業の調査・分析を行なっている。

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