中国株の銘柄選び

意外と身近にある中国株、家電量販店で探してみた(3) 白物家電編

中国株への投資を始めてみたいけど、どんな銘柄に投資していいか分からない。こんな人は多いと思います。そんな場合は、身近にある上場企業に投資してみるというのも一つの手です。そこで今回は、前回に続き、意外と身近にある中国株というテーマで、身近にある中国株の銘柄を紹介したいと思います。今回も家電量販店で探してみました。


白物家電売り場は日本製の家電製品がずらり


今回は白物家電の売り場を探してみます。日本製の白物家電は、世界市場ではすっかり存在感が薄れてしまいましたが、さすがに日本の家電量販店では「パナソニック」「三菱」「シャープ」「日立」といった日本製の家電家電がずらりと並んでいます。


冷蔵庫売り場で中国製を探すと、見つかったのは「Haier」の文字。そう、白物家電業界で世界最大の「海爾(ハイアール)」です。上場企業としては、香港市場と上海市場に海爾智家(ハイアール・スマートホーム:06690/600690)が上場しています。


「Haier(海爾)」ブランドの冷蔵庫


ハイアールの成長は「ハンマー事件」から始まった


ハイアールグループの前身企業は、1984年に山東省青島に設立された「青島電氷箱総廠」という国有の冷蔵庫工場で、1989年に株式会社に改組されました。このころの有名なエピソードとしては、「ハンマー事件」がよく知られています。


当時、工場長に就任したばかりの張瑞敏氏(ハイアール創業者)が取り組んだのが、従業員の意識改革でした。そのころ、工場のトイレは屋外に一つしかなく、雨の日になると工場内で大便や小便をしてしまうというヒドい状況だったといいます。まともな製品ができるような環境ではありませんでした。当然ながら出荷できない冷蔵庫の不良品が山のように積み重なっていました。


そこで張瑞敏氏は、不良品として出荷できなくなった76台の冷蔵庫の前に従業員を集めます。そして次々とハンマーで冷蔵庫を叩き壊していきます。不良品を発生させた従業員にも自らハンマーを持たせました。従業員たちにとって衝撃的な事件だったようで、これをきっかけに従業員の品質に対する意識が劇的に変わったといいます。こうして意識面の改革からスタートし、世界最大の家電企業になる土台を築いていったのです。


 

写真はハンマーで冷蔵庫を叩き壊す様子 引用:ハイアールグループHP


ハイアールはその後、買収などを通じて事業を拡大。ゼネラル・エレクトリック(GE)の家電部門のほか、イタリアの「Candy」や「Casarte」、ニュージーランドの「Fisher & Paykel」などを次々と傘下に収め、いまでは世界の約160カ国・地域で事業を展開しています。

 

ハイアールの屋外広告は銀座の一等地でも見かける


ユーロモニターの「Global Major Appliances 2021 Brandランキング」によると、「ハイアール(海爾)」ブランドの世界販売台数シェアは、冷蔵庫が2008年から14年連続で世界1位をなっています。洗濯機も2009年から13年連続で世界1位です。なお、ハイアールは2012年に旧三洋電機から冷蔵庫・洗濯機事業を買収しています。日本で売られている「AQUA(イタリア語で水が由来)」ブランドの冷蔵庫と洗濯機も、実はハイアールが手掛けているのです。

 

ハイアールは旧三洋電機の「AQUA」ブランドも展開する


白物家電の「TOSHIBA」ブランドは16年に中国企業が買収


そして、広東省拠点の白物家電大手、美的集団(000333)も実は日本市場に進出しています。日本では「美的(Midea)」というブランドを使っていないため目立たないのですが、同社は2016年に東芝の白物家電事業(東芝ライフスタイル)を買収して注目を集めました。買収された東芝ライフスタイルはそのまま日本での事業を継続し、「TOSHIBA」ブランドもそのまま使われています。


美的集団は、何享健氏が1968年に町内会の住民23人を率いて創業した会社が始まりで、中国企業としては意外と歴史が長い部類です。創業の目的は住民の働き口の確保でした。当初はガラス瓶やプラスチック製の瓶蓋などを作っていましたが、鄧小平氏が主導した改革開放を転機として、1980年に扇風機の製造で家電事業に進出。その後、エアコンや冷蔵庫などに事業を拡大し、世界的な家電メーカーに成長しました。東芝ライフスタイルのほか、ドイツの産業用ロボットの世界的大手であるクーカも傘下に収めています。


日本の家電量販店では、「TOSHIBA」ブランドの洗濯機、冷蔵庫、エアコン、扇風機、加湿器、掃除機、アイロン、炊飯器、電子レンジなど、さまざまな家電製品が売られています。家で使っている家電製品のブランドを確認してみてください。「TOSHIBA」ブランドの家電製品が1つや2つくらいありませんか?筆者の家では「TOSHIBA」の電子レンジを使っていました。もっとも美的集団に買収されるよりもかなり前のものなので、そろそろ買い換えないといけませんが・・・。

 

美的集団は「TOSHIBA」ブランドで日本事業を展開している


まとめ:今回見つけた身近な中国株銘柄


今回見つけた身近な中国株銘柄は次の2銘柄で、海爾智家(06690/600690)は香港市場と上海A株市場、美的集団(000333)は深センA株市場に上場しています。

 

【中国の家電大手】1968年に広東省で創業した民営家電メーカー。「美的(Midea)」ブランドでエアコン、冷蔵庫、洗濯機、調理用家電などの製造を手掛ける。22年6月中間期の国内シェア(実店舗の小売販売額ベース)は、エアコンが34.3%で国内トップ、洗濯機と冷蔵庫はそれぞれ25.7%、13.9%で国内2位。16年に東芝の白物家電事業を買収。17年に産業用ロボットメーカーの独クーカ、18年に家庭用モーターの威霊控股を買収。19年に無錫リトルスワンの株式を非公開化。

 

【世界最大の白物家電メーカー】前身の青島電氷箱総廠を改組して1989年に設立。「海爾(ハイアール)」ブランドで家電を生産する。冷蔵庫や洗濯機、エアコンに強みを持ち、白物家電の世界シェアは21年まで13年連続で首位。三洋電機や米GEの家電事業を買収し、「GE Appliances」「Casarte」「Leader」「AQUA」などのブランドも展開。20年12月、香港上場だった海爾電器を非公開化した上、自らが紹介形式で香港に上場。


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中国株情報部 部長兼編集長

池ヶ谷 典志

立命館大学卒業後、1997年に北京の首都経済貿易大学に留学。 北京では中国国有の大手新聞社などに勤務し、中国の政治、経済、社会記事などを幅広く執筆。 帰国後の2004年にT&Cトランスリンク(現DZHフィナンシャルリサーチ)入社。 現地での豊富な経験や人脈を生かして積極的に中国企業や政府機関などへの取材を行ない、中国企業の調査・分析を行なっている。

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