世界7位の規模を誇る香港市場。香港市場には中国を代表するIT企業など、数多くの魅力的な銘柄が上場しています。これまでテンセント(00700)、アリババ集団(09988)、中国建設銀行(00939)の3銘柄を紹介してきました。今回は時価総額4位のチャイナ・モバイル(中国移動:00941)を紹介します。
チャイナ・モバイルの携帯契約数は世界1位、NTTドコモの11倍
香港市場の時価総額4位は、中国の携帯電話キャリア最大手のチャイナ・モバイルです。中国で携帯通信サービスを手掛け、携帯契約数は2022年6月末時点で9億6985万件。うち5Gサービスは全体の53%に当たる5億1094万件に上ります。固定電話事業を持たない携帯通信専業という意味で、日本で言えばNTTドコモのような会社をイメージしてもらえればいいと思います。
ただ、チャイナ・モバイルの規模は桁違いです。2022年6月末時点で契約件数はNTTドコモの11倍超に上り、ダントツの世界1位です。中国の人口は日本の約11倍ありますので、日本と中国の人口の差を考えると当然と言えば当然です。
このほか、チャイナ・モバイルは2015年に親会社の中国移動通信集団から固定ブロードバンド事業を買収。ブロードバンドによるインターネット接続サービスでは後発になりますが、2022年6月末時点で契約件数は、日本の総人口よりも多い2億5606万件に上っています。
1997年に香港で設立、旧中国電信が持つ広東省・浙江省の資産を注入
ここでチャイナ・モバイルの歴史を見てみましょう。同社は1997年9月、海外での上場を目的に香港で設立されました。設立当初の社名は「中国電信(香港)有限公司」です。社名に「中国電信(チャイナ・テレコム)」という文字が入っているのは、もともと中国政府の通信事業である「旧中国電信」が持つ広東省と浙江省の移動通信資産(モバイル事業)を注入して設立された会社だったからです。
この当時、中国では郵便事業と通信事業が切り離され、ようやく政府の通信事業の改革が始まった時期にあたります。会社設立の翌月、1997年10月には、さっそくニューヨークと香港の両市場に上場を果たします。
同社にとって最初の大きな変化は1999年に訪れます。この年の2月に中国政府は国の通信事業を担ってきた旧中国電信の再編計画を発表。旧中国電信の独占体制を打破するため、旧中国電信を解体して「中国移動」、「中国衛通」、「新中国電信」の3社に再編します。これによって親会社が「旧中国電信」から、新たに設立された「中国移動」に変わります。
親会社が変わったことで、同社は2000年6月に「中国移動(香港)有限公司」に社名を変更します。その後、親会社から北京や上海など各地の移動通信資産を次々と買収。2004年には全国31省・自治区・直轄市の資産買収を完了し、事業エリアを中国全土に拡大しました。2006年には現在の社名である「中国移動有限公司」に社名を変更しています。
2008年の再編で通信業界の3社体制が確立、3社による競争時代へ
携帯電話の普及とともに順調に事業を拡大していたチャイナ・モバイルですが、2008年に中国政府主導で再び大きな業界再編が実施されます。中国政府は当時6社あった通信会社を「中国移動(チャイナ・モバイル)」「中国聯通(チャイナ・ユニコム)」「中国電信(チャイナ・テレコム)」の3社に再編。3社に同じ条件で競わせることで通信サービスの向上を図ろうとします。中国政府はチャイナ・モバイルばかりが強くなりすぎたことを問題視したのです。
チャイナ・モバイルはこのとき、「中国鉄通」という鉄道部にルーツを持つ通信会社を買収して取り込みます。一方、「中国聯通(チャイナ・ユニコム)」は「中国網通(チャイナ・ネットコム)」、「中国電信(チャイナ・テレコム)」は「中国衛通(チャイナ・サットコム)」の通信事業をそれぞれ買収します。
3Gのライセンスについては、中国独自規格の「TD-SCDMA」がチャイナ・モバイルに与えられます。国際的に主流の規格ではないため、当初はチャイナ・モバイルにとって不利な決定とみられていましたが、同社はこうしたマイナス材料をはねのけて成長を続けます。
一方、「中国聯通」はすでに保有していた国際規格である「GSM」と「CDMA」のうち、「GSM」を残して「CDMA」を「中国電信」に譲渡します。「中国電信」はこれによって移動通信事業に参入を果たしました。
こうして、現在につながる通信業界の3社体制が確立したのです。NTTドコモ、au、ソフトバンクの3社が競い合う日本とどこか似ていますね。中国の通信事業は、中国政府の政策によって大きな影響を受ける業種だということを知っておきましょう。