中国株の銘柄選び

香港市場の主要銘柄:美団(1) ATMXの一角で時価総額5位、清華大卒の王興氏が北京で立ち上げ

世界7位の規模を誇る香港市場。香港市場には中国を代表するIT企業など、数多くの魅力的な銘柄が上場しています。これまでテンセント(00700)、アリババ集団(09988)、中国建設銀行(00939)、チャイナ・モバイル(00941)の4銘柄を紹介してきました。今回は時価総額5位の美団(03690)を紹介します。


 


時価総額5位の美団、「ATMX」の一角を占める


香港市場の時価総額5位は、フードデリバリーを中心としたO2O(オンライン・ツー・オフライン)事業を展開する美団です。設立は2010年と比較的新しく、香港市場にも2018年9月に上場したばかりですが、すでに時価総額では5位の規模にまで拡大。急成長を遂げた企業です。米国のテックジャイアントはGAFAと呼ばれていますが、中国では巨大IT企業である、アリババ集団(Aribaba:09988)、テンセント(Tencent:00700)、美団(Meituan:03690)、小米集団(Xiaomi:01810)の4社を「ATMX」と呼び、人々の生活に大きな影響を与える存在となっています。



2022年6月末時点で筆頭株主はテンセントですが、創業者たちが通常の株式よりも議決権の多い「種類株」を保有しているため、実質的な支配権は創業者たちが握っています。


スーパーアプリを展開、日常生活に関するあらゆるサービスをひとまとめに


スマートフォンアプリを通じてオンラインとオフラインをつなぐO2Oサービスが事業の中核で、さまざまな生活関連サービスをワンストップで利用できるスーパーアプリ「美団」を運営しています。


「ウーバーイーツ」や「出前館」のようなフードデリバリー(ネット出前)、「ぐるなび」や「食べログ」のようなレストラン予約、「ヤフートラベル」や「一休ドットコム」のような旅行予約だけでなく、「GOタクシー」や「DiDiタクシー」のような配車サービス、「ドコモ・バイクシェア」や「ダイチャリ」のようなシェア自転車、ホテル・民宿の予約、映画・イベントのチケット予約、病院や美容院の予約、買い物代行などの使い走りサービスなども提供しています。


日常生活に関連するありとあらゆるサービスが一つのアプリだけで完結するのです。美団はこうした多様なサービスを、買収などを通じて創業から十数年という短い期間ですべて整え、急成長を遂げてきたのです。

 

写真は美団が展開するスーパーアプリ


では、美団はどのようにして急成長を果たしてきたのでしょうか。その歴史を見ていきましょう。


創業者の王興氏は「海亀族」のエリート、05年に中国版「フェイスブック」を立ち上げ


創業者の王興氏が北京で美団を設立したのは2010年です。王興氏は福建省の資産家の家庭に育ち、理系の名門・清華大学を卒業後に奨学金を得て米国のデラウエア大学に留学。米国で先進的なコンピューター技術を学び、その後に中国に帰国して創業するという、いわゆる「海亀族(海外留学から帰国した中国人)」のエリートです。狭き門である清華大学にも推薦で入学を果たすなど、典型的な優等生だったようです。


帰国後に最初に立ち上げた事業は、2005年にリリースした「校内網」という実名制の学生間交流サイト(SNS)です。その前年には、当時ハーバード大学の学生だったマーク・ザッカーバーグ氏が学内SNSの「フェイスブック」を立ち上げており、「校内網」はまさにその模倣です。


この「校内網」はリリースから3カ月で利用者が3万人に達するなど急成長を遂げますが、利用者の増加でサーバーの維持費などがかさみ、2006年にインターネット事業を展開する千橡互動集団(オーク・パシフィック・インタラクティブ)に売却。「校内網」はその後、「人人網」に名称を変更し、2011年にナスダック市場への上場を果たします。


写真は初期の校内網 引用:ifanr


王興氏はその後も次々と新たな事業を立ち上げていきます。2007年には中国版ツイッターともいえる「飯否網」や、実名制の交流サイト「海内網」をリリース。この2つの事業は必ずしもうまくいったとは言えませんが、王興氏はシリアルアントレプレナー(連続起業家)として名前が知られていきます。そして、2010年に立ち上げたのが「美団」です。


次回も美団の紹介の続きです。お楽しみに。

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中国株情報部 部長兼編集長

池ヶ谷 典志

立命館大学卒業後、1997年に北京の首都経済貿易大学に留学。 北京では中国国有の大手新聞社などに勤務し、中国の政治、経済、社会記事などを幅広く執筆。 帰国後の2004年にT&Cトランスリンク(現DZHフィナンシャルリサーチ)入社。 現地での豊富な経験や人脈を生かして積極的に中国企業や政府機関などへの取材を行ない、中国企業の調査・分析を行なっている。

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