中国株の銘柄選び

二季報を使った銘柄選び(12) 「増益率」ランキングを活用して成長性の高い銘柄を探す

中国株への投資を始めてみたいけど、どんな銘柄に投資していいか分からない。香港、上海、深センの取引所には合わせて8000近くの銘柄が上場しているので迷うのは当然です。そんな場合は、「中国株二季報」を活用して銘柄を探してみるのがいいでしょう。中国株二季報には、中国株を取引するに当たっての基本情報から、中国市場の概況、中国の業界動向、個別銘柄の情報などがぎっしりと詰まっています。このシリーズでは、中国株二季報を利用した中国株の銘柄選びについて紹介していきます。


▼参考

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中国株をこれから始めようとした場合、まずは銘柄選びの手掛かりが欲しいですよね。とはいえ、数多くの銘柄の中から自分で有望銘柄を見つけ出すのは大変です。そんなとき参考になるのが、巻末付録の「ランキング」です。今回は「増益率」のランキング活用法を紹介します。


「増益率」ランキングの活用法


「増益率」は企業の純利益がどれだけ増えているかを測る指標で、「前期最終利益」に対する「当期最終利益」の伸び率で出しています。当期最終利益は予想ベースで算出しており、「中国株二季報」では、ファクトセット社が各アナリストの予想をまとめたコンセンサス予想を採用しています。


 


新たに投資しようとする銘柄を探す際、業績の悪化が見込まれる銘柄よりは、業績の拡大が見込まれる銘柄を選びたいですよね。「増益率」ランキングは、当期純利益の伸び率が大きな銘柄のランキングなので、成長性の高い銘柄を効率的に探すことができます。


ランキング活用に当たっての注意点は?



効率的に成長企業を探すことができるランキングですが、ランキング上位銘柄にそのまま投資するのは避けてください。ランキングを活用するに当たっては、いくつか注意点があります。


まずは、当然のことではありますが、予想なので外れる可能性があるという点です。先に触れた通り、「中国株二季報」の予想はファクトセット社のコンセンサス予想を採用しています。銘柄によっては、予想しているアナリストが複数のこともあれば、1社だけのこともあります。予想しているアナリストがいなければ、そもそもランキングには入ってきません。アナリストが1社だけの場合、複数の場合に比べて予想が外れた場合のブレが大きくなる傾向があります。あくまで「予想」をベースにしたランキングであることを忘れないでください。


特殊要因ではないかを確認する


また、ランキングは「増益額」ではなく「増益率」なので、前年の純利益の額が小さい場合には増益率が大きく出てしまうケースがあるという点にも注意が必要です。これは、個別銘柄のページで前年の数値を確認してみる必要があります。前年の数値が極端に小さくなっていないかチェックしてみてください。


前年に一時的な特別損失の計上によって大幅な減益を計上している場合、特に成長がなかったとしても当期の予想増益率は大きな数字になってきてしまいます。逆に当期に特別利益の計上が見込まれる場合にも極端な数値が出る可能性があります。「中国株二季報」では、予想を二期分掲載しているので、翌年の予想を合わせて比較してみてください。一時的な要因であれば、翌年の予想はまた元の水準に戻っているはずです。こういう銘柄は特殊要因によるものなので注意が必要です。


逆に翌年も利益が伸びているようであれば、一時的なものではなく、継続的な要因と考えることができます。決算の概要や今後の動向に関するコメントも確認し、問題なければ候補銘柄にしてみるのもいいでしょう。


例えばアジアを代表する保険会社であるAIAグループ(01299)の業績を見ると、2022年が極端に小さい数字であり、2023年、2024年には元の水準に戻っていることから、一時的な要因ではないかと推測できます。実際、AIAグループは2023年の業績発表の際、新たな会計基準の導入に伴って2022年の純利益を2億8200万米ドルから33億3100万米ドルに修正しています。


 


世界最大級のオンライン旅行会社であるトリップ・ドットコム(09961)も見てみましょう。コロナ禍で大打撃を受け、2020年に大幅な赤字を計上した後、業績は徐々に回復。2022年には14億300万元の純利益を計上し、2023年の予想純利益は5.8倍に拡大しています。2024年の予想純利益も19.9%増加していますので、2023年予想の数値は特別利益などの特殊要因による一時的なブレではないと考えられます。「中国株二季報」の「今後の見通し」を読んでみても、中国当局が文化・旅行などのサービス消費を支援していく方針を示していることが記載されています。



なお、「中国株二季報」は、書名の通り年2回の出版なので、半年の間にも市場環境は大きく変化します。市場予想は常に変化しますので、最新の予想については、「中国株二季報」のWEB版である「二季報WEB」も合わせてご確認ください。


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中国株情報部 部長兼編集長

池ヶ谷 典志

立命館大学卒業後、1997年に北京の首都経済貿易大学に留学。 北京では中国国有の大手新聞社などに勤務し、中国の政治、経済、社会記事などを幅広く執筆。 帰国後の2004年にT&Cトランスリンク(現DZHフィナンシャルリサーチ)入社。 現地での豊富な経験や人脈を生かして積極的に中国企業や政府機関などへの取材を行ない、中国企業の調査・分析を行なっている。

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