中国株の銘柄選び

香港市場の主要銘柄:中国蒙牛乳業(2) 創業者の波乱の人生、生後まもなく両親に50元で売られる

中国株への投資を始めてみたいけど、どんな銘柄に投資していいか分からない。そんな場合は、香港市場を代表する株価指数であるハンセン指数の構成銘柄の中から探してみるのが基本中の基本。ハンセン指数に選ばれる銘柄の中には、世界的な大企業もあれば、個性的で魅力的な銘柄もたくさん集まっています。このシリーズでは、香港市場の主要銘柄をハンセン指数の構成銘柄の中から選んで紹介していきます。今回は中国の乳業大手、中国蒙牛乳業(02319)の続きです。


▼参考

中国株の銘柄選び 中国株ビギナーがまず選ぶのはこれ!ハンセン指数は基本中の基本


生まれてすぐに50元で売られ牛飼いに育てられる


中国蒙牛乳業(02319)の創業者である牛根生氏は1958年、内モンゴル自治区フフホト市の貧しい農家に生まれます。農家だったため収穫した穀物を税金として政府に納めなければなりませんが、貧しかった両親は税金を支払うことができず、生まれて1カ月にも満たない我が子を売ってしまいます。わずか50元だったといいます。いきなり両親と離れ離れになります。買ったのは牛という姓の子供のいない牛飼いの夫婦でした。このとき姓が秦から牛に変わります。牛根生氏と牛との縁は、生後まもなく牛飼いの夫婦に買われたことから始まったのです。


養父母のしつけは非常に厳格だったようです。少年時代、遊びに行く時は養母が帰宅時間を厳しく決めており、少しでも帰りが遅れると罰を受けることがあったといいます。しかし、牛根生氏が14歳のとき養母が亡くなり、養父も20歳のときに亡くなります。長年自分を育ててくれた両親が他界し、牛根生氏は完全に独りになってしまいます。牛根生氏はその後、幼いとから慣れ親しんだ牛を扱う仕事を選びます。フフホト市の大黒河乳製品工場の牛飼い工員として働くようになったのです。


工場長は、牛根生氏が両親のいない孤独な状況にあることを知り、特別に面倒を見ます。牛根生氏も工場長の親切心に触れ、実の両親のように慕ったと言います。


 

創業者の牛根生氏 出所:中国蒙牛乳業の08年決算報告書


1983年に転機、鄭俊懷氏との出会い


1983年になると転機が訪れます。鄭俊懷氏との出会いです。後に中国蒙牛乳業と熾烈な業界トップ争いを演じる内蒙古伊利実業集団(インナーモンゴリア・イリ・インダストリアル・グループ:600887)の創業者です。鄭俊懷氏はこのとき、赤字で倒産寸前だったフフホト市回民乳製品工場の工場長に任命されて派遣されてきます。工場の再建を託されたのです。そして牛根生氏が働いていた大黒河乳製品工場と合併したのです。


鄭俊懷氏は工場内で若くて優秀な人材の発掘に取り掛かります。牛根生氏はすぐに鄭俊懷氏の目に止まります。毎日単調で機械的な瓶洗いの仕事に多くの労働者がやる気を失うなか、牛根生氏だけは決して手を抜くことなく、毎日最初に出勤して最後に帰るなど、非常に熱心に働いていました。その働きぶりに目が止まったのです。


鄭俊懷氏は仕事熱心な牛根生氏を気に入り、専用の宿舎を与えるなど重用します。仕事が終わった後、2人は工場の運営についても議論を交わすようになります。2人の熱意とアイデアによって、赤字続きだった工場の経営は次第に改善していきます。


数年後には黒字を回復し、見事に工場の立て直しに成功します。そして1993年、この工場は株式会社へと改組し、正式に内蒙古伊利実業が誕生します。内蒙古伊利実業のトップである董事長には鄭俊懐氏がそのまま就任。彼を支えた牛根生氏にはナンバー2のポジションが与えられます。


内蒙古伊利実業のウェブサイト 出所:内蒙古伊利実業HP


2人の二人三脚体制で内蒙古伊利実業の業績は拡大していき、1996年には上海証券取引所への上場を果たします。中国の乳製品業界では上場第1号でした。牛根生氏はトップである鄭俊懷氏の「右腕」として、その経営能力を高めていきます。


 

牛根生氏(写真左)と鄭俊懐氏(写真右) 出所:51資訊


しかし、その後2人の関係に変化が生じます。まだ本題の中国蒙牛乳業が登場しませんが、次回も中国蒙牛乳業の続きです。お楽しみに。


まとめ:今回紹介した香港市場の主要銘柄


今回紹介した銘柄は、2004年に香港証券取引所のメインボードに上場し、2014年にハンセン指数に採用された、中国の乳製品大手・中国蒙牛乳業(02319)です。なお、香港市場の銘柄ではありませんが、今回の話題の中心となった内蒙古伊利実業集団(600887)についても概要を掲載しておきます。


【中国の乳業大手】牛乳や乳飲料、ヨーグルト、アイスクリームなどを製造・販売する。蘭ラボバンク発表の24年世界乳業番付で9位。23年末時点で国内45カ所、豪州、NZ、インドネシア、フィリピンに生産拠点を持ち、年産能力は1404万トンに上る。国有の中糧集団(COFCO)が実質筆頭株主で、デンマークのアーラ・フーズと共同事業を展開。中国現代牧業(01117)や中国聖牧有機ダイ業(01432)、雅士利国際を傘下に抱える。


【アジア最大の乳業メーカー】乳製品と健康飲料の製造・販売が中核事業。「伊利」チーズ、「金典」低温牛乳、「金領冠」粉ミルクなどで知られる。米ニールセンによる23年小売額ベースの国内シェアは液体乳製品が31.6%、乳児用粉ミルクが16.2%。22年3月、澳優乳業(01717)を連結子会社化。海外ではニュージーランドのオセアニア・デイリーとウエストランド・デイリー、タイのチョムタナなどの子会社を抱える。


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中国株情報部 部長兼編集長

池ヶ谷 典志

立命館大学卒業後、1997年に北京の首都経済貿易大学に留学。 北京では中国国有の大手新聞社などに勤務し、中国の政治、経済、社会記事などを幅広く執筆。 帰国後の2004年にT&Cトランスリンク(現DZHフィナンシャルリサーチ)入社。 現地での豊富な経験や人脈を生かして積極的に中国企業や政府機関などへの取材を行ない、中国企業の調査・分析を行なっている。

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