中国株の銘柄選び

香港市場の主要銘柄:香港鉄路(4) 香港鉄路はなにで儲けてる?鉄道会社だけど利益の柱は別にある

中国株への投資を始めてみたいけど、どんな銘柄に投資していいか分からない。そんな場合は、香港市場を代表する株価指数であるハンセン指数の構成銘柄の中から探してみるのが基本中の基本。ハンセン指数に選ばれる銘柄の中には、世界的な大企業もあれば、個性的で魅力的な銘柄もたくさん集まっています。このシリーズでは、香港市場の主要銘柄をハンセン指数の構成銘柄の中から選んで紹介していきます。


▼参考

中国株の銘柄選び 中国株ビギナーがまず選ぶのはこれ!ハンセン指数は基本中の基本


利益の源泉は鉄道ではない!?


鉄道運営会社というイメージが強い香港鉄路(MTR:00066)ですが、利益の柱となっているのは、実は不動産事業(不動産開発・不動産投資)や駅構内業務といった非鉄道事業です。



鉄道沿線の住宅開発で利用者を増やすとともに、駅ビルの開発で賃料収入や管理収入を稼ぎ、鉄道沿線の魅力を高めることで鉄道事業にもプラスの相乗効果をもたらそうとする、「鉄道+不動産」というビジネスモデルです。


日本の鉄道会社も駅周辺の商業施設の開発や郊外の住宅地の建設で鉄道利用者を増やしていこうとしますが、考え方は同じです。鉄道の建設や整備には多額の費用がかかりますが、香港鉄路は不動産を含めた周辺事業で稼ぎ、そこで得た資金を新たな鉄道の建設に回しているのです。


香港鉄路の不動産開発事業の仕組み


仕組みはこうです。まず新たな鉄道建設にあたって香港政府は、香港鉄路に対して沿線での不動産開発の権利を与えます。不動産開発権を与えられた香港鉄路は、実際に開発を担当する不動産デベロッパーの入札を実施。不動産デベロッパーと共同で開発事業を進めていきます。


不動産デベロッパー側がプロジェクトの建設から販売までの工程を担い、香港鉄路側はプロジェクトの基本設計および建設工程の監督を担当。最終的にプロジェクトの利益の一部を現金や実物資産で受け取ったりする仕組みです。


 


香港鉄路の不動産開発で代表的なのは、将軍澳線第2期の終点に当たる康城駅に建てられた大規模ニュータウン「日出康城(LOHAS Park)」です。2009年に第1期「首都(The Capitol)」の入居が始まり、2022年に第10期「LP10(LOHAS Park Phase 10)」が完成。現在、第11期から第13期までの建設が進められており、2025-26年にかけての完成が予定されています。最終的に第13期まで完成すると、プロジェクト全体の総住戸数は2万戸以上となります。住宅、シッピングモール、公園などが整備され、主に中所得層の人たちが生活しています。


なお、この「日出康城(LOHAS Park)」の名称は、日の出や太陽の光、活気があることを示す「日出」と、健康的で持続可能な生活様式を示すLOHAS(ロハス:Lifestyles of Health and Sustainability)を組み合わせて名付けられました。


ロハスという言葉は一時期日本でも非常に流行しましたが、最近すっかり聞かなくなってしまいました。少し残念ですが、香港では「日出康城」のプロジェクトが現在進行形で行われているので、たびたびメディアの報道にも登場します。そして、香港鉄路にとって、この「日出康城」のプロジェクトは、健全で持続可能な成長を実現すべく、いまでも大きな収益源の一つになっているのです。


香港の大規模ニュータウン 日出康城(LOHAS Park)


不動産管理や不動産賃貸も大きな収益源


香港鉄路にとっては、不動産管理や不動産賃貸も大きな収益源の一つとなっています。2022年末時点で管理サービスを提供する住宅は11万8000戸、店舗やオフィスなどの賃貸面積は持ち分換算で31万6000平方メートルに上ります。将軍澳駅直結のショッピングモール「ポップコーン(PopCorn)」のほか、九龍駅直結の「エレメンツ(圓方)」、青衣駅直結の「マリタイム スクエア (青衣城)」など主に駅直結の商業施設にテナント用の物件を保有しています。


 

九龍駅に直結するショッピングモールの「エレメンツ(圓方)」 出所:香港鉄路決算報告書


オフィス用の物件としては、セントラル地区のランドマーク「国際金融センター・第2期」が代表格。エアポートエクスプレスの起点となる香港駅に直結する地上88階建ての超高層ビルで、18フロアを貸し出しています。「国際金融センター・第2期」は高さが416メートルあり、香港で2番目に高い超高層ビルです。


ちなみに香港で最も高い地上118階建て、高さ484メートルの環球貿易広場(ICC:世界貿易センター)も香港鉄路が新鴻基地産(00016)などと共同で手掛けた建物です。日本で最も高いビルは、2023年6月に完成した麻布台ヒルズ森JPタワーの約330メートルなので、その高さがうかがえます。

 

香港のランドマークとなっている国際金融センター・第2期 出所:AASTOCKS


次回も香港鉄路の続きです。お楽しみに。


まとめ:今回紹介した香港市場の主要銘柄


今回紹介した銘柄は、2000年に香港証券取引所メインボードに上場した香港の鉄道運営会社、香港鉄路(00066)です。


 【香港の鉄道運営会社】香港で地下鉄や空港線、ライトレールなどを運行する。中国本土(北京、深セン、杭州)や欧州(英国、スウェーデン)、豪州でも地下鉄・鉄道事業に参画する。07年に九広鉄路を吸収。香港の公共旅客輸送シェアは49.6%(23年1-5月)。沿線の不動産開発や駅構内・周辺施設の店舗賃貸収入も収益の柱。香港での22年の総利用客数は延べ15億1800万人で平日の平均で445万人。香港と広州を結ぶ「広深港高速鉄道」の香港区間も運営する。


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中国株情報部 部長兼編集長

池ヶ谷 典志

立命館大学卒業後、1997年に北京の首都経済貿易大学に留学。 北京では中国国有の大手新聞社などに勤務し、中国の政治、経済、社会記事などを幅広く執筆。 帰国後の2004年にT&Cトランスリンク(現DZHフィナンシャルリサーチ)入社。 現地での豊富な経験や人脈を生かして積極的に中国企業や政府機関などへの取材を行ない、中国企業の調査・分析を行なっている。

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