中国株の銘柄選び

二季報を使った銘柄選び(9) ランキングを使って銘柄を探す、「低PBR」だけで割安株を探してはいけない

中国株への投資を始めてみたいけど、どんな銘柄に投資していいか分からない。香港、上海、深センの取引所には合わせて8000近くの銘柄が上場しているので迷うのは当然です。そんな場合は、「中国株二季報」を活用して銘柄を探してみるのがいいでしょう。中国株二季報には、中国株を取引するに当たっての基本情報から、中国市場の概況、中国の業界動向、個別銘柄の情報などがぎっしりと詰まっています。このシリーズでは、中国株二季報を利用した中国株の銘柄選びについて紹介していきます。


▼参考

中国株二季報の最新号はこちら


中国株をこれから始めようとした場合、まずは銘柄選びの手掛かりが欲しいですよね。とはいえ、数多くの銘柄の中から自分で有望銘柄を見つけ出すのは大変です。そんなとき参考になるのが、巻末付録の「ランキング」です。今回は「低PBR」ランキングの活用法を紹介します。


「低PBR」も割安銘柄を探す基本指標


PBRとは、Price Book-value Ratioの頭文字を取ったもので、日本語では「株価純資産倍率」と呼ばれます。株価が割安か割高かを示す指標として利用され、株価÷BPS(1株当たり純資産)で計算することができます。



PBRは株価が割安か割高かを判断する際に使われる投資指標で、前回紹介したPER(株価収益率)と並んで最もポピュラーな投資指標の一つです。PERが企業の1株当たり純利益に対して株価が何倍かを測るのに対し、PBRは企業の1株当たり純資産に対して株価が何倍かを測ります。要するに資産の面から株価水準を測る指標です。1株当たりで計算することもできますし、時価総額を純資産で割って計算することもできます。


「純資産」とは、貸借対照表(BS:バランスシート)上で、企業が保有するすべての資産である「総資産」から、他人への返済義務のある「負債」を引いた残りの額に当たり、株主に返済する必要のない資産です。仮に会社が事業をやめて解散するとなった場合、まずは銀行などから借りた負債を返済し、残った資産である純資産を株主に分配することになります。そのため、純資産は「解散価値」とも呼ばれます。債務超過でない限り、帳簿上は純資産の分だけ株主に資金が戻ってくるわけです。



そして、その残った純資産を1株当たりに換算したものがBPS(1株当たり純資産)です。PBRは株価をBPS(1株当たり純資産)で割って算出しますので、PBRが大きければ大きいほど割高、小さければ小さいほど割安であることを示しています。


PBRが1倍より小さければ、株価が1株当たりの解散価値よりも小さいことを意味し、株主としては、会社を解散して資産を分配してもらった方が得だということになります。そのため、理論的にはPBR=1倍が株価の下限だと考えられています。簡易的に割安株を探す場合、このPBR=1倍という水準がとりあえずの目安となります。


PBR1倍割れ銘柄続出の謎


実際に「中国株二季報」の「低PBR」ランキングを見てみましょう。ランキング上位の銘柄を見てみると、PBR=1倍割れどころか、0.1倍を下回っている銘柄さえあります。広州を拠点とする不動産デベロッパー大手の広州富力地産(02777)のPBRは0.08倍です。これは株価が1株あたり純資産の100分の8の水準しかないことを意味しますので、投資家にとっては、解散して資産を分配してもらった方がよいということなります。2位の大手不動産デベロッパーの雅居楽集団(03383)も同様です。



PBRは理論的には1倍が株価の下限と考えられていますが、実際にはこのようにPBRが1倍を割り込んでいる銘柄が多数存在します。こうした傾向は、成長の鈍い成熟産業で多く見られ、経営不安のある企業や情報開示に積極的でない企業(=決算以外にほとんど情報が出てこない企業)に顕著なようです。日本でもこうしたPBR1倍割れ企業が数多く存在し、東京証券取引所がPBR1倍割れの企業に対し、要因の分析や改善のための具体策を求めたことで話題となりました。


PBRは時価総額を純資産で割ったものであることから、「事業活動を通じて会社の純資産を何倍に増やすことができるか」という指標に置き換えることもできます。PBRが1倍を割っているということは、投資家が「会社の成長余地がなく、今後は資産が目減りしていく」と考えていることになります。そう考えると、単純に「低PBR」のランキングの数字だけを見て割安だと判断するのは危険だということが分かります。ちなみに、前述の不動産銘柄は、中国の不動産不況の影響で厳しい経営状況に置かれています。


「低PBR」ランキングをそのまま使ってはいけない


実際にランキングを利用するに当たっては、個別銘柄ページで業績の確認が欠かせません。また、業界によっても状況は異なるので、全体平均や業界平均との比較も必要になってきます。「中国株二季報」で全体の平均を確認すると、2024年春号では採用銘柄の平均の平均は1.6倍となっています。



業種ごとの平均は「中国株二季報」の企業データの最初のページに「業種別指標一覧」を掲載しています。業種によっては、平均自体が1倍を割り込んでいるケースもあります。できれば、過去の「中国株二季報」に掲載されているPBRを確認し、長期にわたってPBRが低い水準に放置されていないかどうか調べてみてください。



「低PBR」の銘柄の中には、PBRの水準が訂正されず、「万年割安銘柄」ということも多々あります。「低PBR」ランキングを見て、割安だったからといって、すぐに飛びつかないように注意しましょう。


狙い目となるのは、PBRが低いにもかかわらず、業績がよく、積極的に情報開示も行っているような会社です。また、「低PBR」ランキングは、「低PER」や「高配当利回り」「業績増額修正」など、ほかのランキングと組み合わせて使うのも効果的です。「低PBR」ランキングを使って、ぜひ埋もれた好業績銘柄の発掘に役立ててみてください。


この連載の一覧
二季報を使った銘柄選び(10) ランキングを使って銘柄を探す、「高配当利回り」はお宝銘柄の宝庫?10%を超える高配当銘柄がザクザク
二季報を使った銘柄選び(9) ランキングを使って銘柄を探す、「低PBR」だけで割安株を探してはいけない
二季報を使った銘柄選び(8) ランキングを使って銘柄を探す、「低PER」は投資指標の基本中の基本
二季報を使った銘柄選び(7) ランキングを使って銘柄を探す、経営効率の高い銘柄を探すなら「高ROE」
二季報を使った銘柄選び(6) ランキングを使って銘柄を探す、「時価総額」で企業規模の大きな会社を見つける
二季報を使った銘柄選び(5) 「業界マップ」を使って銘柄を見つける
二季報を使った銘柄選び(4) 証券会社の「注目銘柄ランキング」を参考にする
二季報を使った銘柄選び(3) 「業界天気予報」を使って業種を手掛かりに絞り込む
二季報を使った銘柄選び(2) 「中国株二季報」を目的に合わせて効率よく使いこなそう!
二季報を使った銘柄選び(1) 中国株の銘柄選びに欠かせない「中国株二季報」とは?
香港市場の主要銘柄:香港鉄路(5) 香港版Suicaのオクトパス、世界に先駆けてFeliCaを採用
香港市場の主要銘柄:香港鉄路(4) 香港鉄路はなにで儲けてる?鉄道会社だけど利益の柱は別にある
香港市場の主要銘柄:香港鉄路(3) 海外売上比率5割超、香港の鉄道会社だけど海外で稼ぐ
香港市場の主要銘柄:香港鉄路(2) 九広鉄路吸収で香港の鉄道独占事業者に、ディズニー線も運行
香港市場の主要銘柄:香港鉄路(1) 公共輸送シェア約5割!香港市民の移動を支える鉄道銘柄
香港市場の主要銘柄:農夫山泉(5) 広告重視の経営、どうする後継者問題?
香港市場の主要銘柄:農夫山泉(4) 勝者無き戦い、「京華時報」との大バトル
香港市場の主要銘柄:農夫山泉(3) 新参者のとった驚きの戦略とは!?訴訟に敗れて市場を奪う
香港市場の主要銘柄:農夫山泉(2) 娃哈哈との最初の確執、亀とスッポンで成功後に飲料水業界に参入
香港市場の主要銘柄:農夫山泉(1) 社名はダサそうだけど実はスゴい、ボトル入り飲料水の中国最大手
意外と身近にある中国株、街中で探してみた(4) ロクシタン、南仏プロバンス発祥の自然派コスメブランド
意外と身近にある中国株、ドンキの店内で探してみた(8) バドワイザーAPAC、世界最大のビール会社のアジア部門
香港市場の主要銘柄:ハンセン銀行(4) 23年に創立90周年、デジタル分野でも挑戦を続ける
香港市場の主要銘柄:ハンセン銀行(3) 史上最大の1965年危機、ライバルの傘下に下る
香港市場の主要銘柄:ハンセン銀行(2) 戦後の香港で再出発、香港の「超人」李嘉誠氏らを支援
香港市場の主要銘柄:ハンセン銀行(1) 「永遠の成長」を目指す香港の華人系銀行大手
香港市場の主要銘柄:中電控股(3) 戦後復興と海外展開、SOCに守られた香港事業と不安定な豪州事業
香港市場の主要銘柄:中電控股(2) カドゥーリー家の夢と挫折、第二次大戦中は日本軍が接収
香港市場の主要銘柄:中電控股(1) 100年以上の歴史を誇る香港最大の電力会社、イラク系ユダヤ人が支配
意外と身近にある中国株、街中で探してみた(3) 1910年創業の旅行かばんの王者「サムソナイト」、社名の由来となった「サムソン」とは?
意外と身近にある中国株、街中で探してみた(2) ペニンシュラホテル、「東洋の貴婦人」と呼ばれた歴史と伝統の高級ホテル
意外と身近にある中国株、街中で探してみた(1) シャングリラ・アジア、東京駅に隣接する「理想郷」
中国株ビギナーがまず選ぶのはこれ!ハンセン指数は基本中の基本
意外と身近にある中国株、ショピングモールで探してみた(1) ポップマートのロボショップ、沼にハマる人続出の「盲盒」とは?
意外と身近にある中国株、ドンキの店内で探してみた(7) お湯要らず!「海底撈」のインスタント火鍋
意外と身近にある中国株、ドンキの店内で探してみた(6) 1840年創業の超老舗企業が生み出す「鎮江香酢」
意外と身近にある中国株、ドンキの店内で探してみた(5) 不思議な味の中華ジャンクフード「辣条(ラーティアオ)」
意外と身近にある中国株、ドンキの店内で探してみた(4) 周恩来が愛した大白兎のミルクキャンディー
意外と身近にある中国株、ドンキの店内で探してみた(3) 旺旺のミルクキャンディー、独特の企業文化と「黒皮精神」
意外と身近にある中国株、ドンキの店内で探してみた(2) 洽洽食品のヒマワリの種と康師傅のカップ麺
意外と身近にある中国株、ドンキの店内で探してみた(1) 小米のスマートバンド、TCLのテレビ、ANKERのスマホアクセサリー
香港市場の主要銘柄:ネットイース(3) どん底から奇跡の大復活、ゲームを事業の柱に成長
香港市場の主要銘柄:ネットイース(2) ポータルサイト化へ戦略転換、ナスダックに上場
香港市場の主要銘柄:ネットイース(1) 中国のオンランゲーム大手、より簡単なネット接続を目指す
意外と身近にある中国株、街中の飲食店を探してみた(3) お米を使ったライスヌードル「米線」の「譚仔三哥」
香港市場の主要銘柄:CNOOC 中国最大のオフショア石油開発会社
意外と身近にある中国株、街中の飲食店を探してみた(2) 羊のしゃぶしゃぶ料理の「小肥羊」
意外と身近にある中国株、街中の飲食店を探してみた(1) 火鍋のトップブランド「海底撈」、抜群のエンタメ性が人気の秘密
香港市場の主要銘柄:JDドットコム(3) 自前主義でライバルと差別化、顧客に喜びを届ける
香港市場の主要銘柄:JDドットコム(2) 創業記念日に上場、618に強い思い入れ
香港市場の主要銘柄:JDドットコム(1) 中国のネット通販大手、分かれ道となった20年前のSARS
香港市場の主要銘柄:AIAグループ(2) AIGから独立して香港市場に上場、ロゴに描かれている山は?
香港市場の主要銘柄:AIAグループ(1) アジア最大級の生命保険会社、1919年創業の保険代理店がルーツ
香港市場の主要銘柄:HSBC(2) 民間銀行だけど紙幣を発行、紙幣に描かれたライオンの正体は?
香港市場の主要銘柄:HSBC(1) 1865年に香港で創業、アヘンで成長した黒歴史も
意外と身近にある中国株、家電量販店で探してみた(3) 白物家電編
中国株の銘柄選び:意外と身近にある中国株、家電量販店で探してみた(2) テレビ編
中国株の銘柄選び:意外と身近にある中国株、家電量販店で探してみた(1) スマホ、PC編
香港市場の主要銘柄:美団(3) 「アリババ系」から「テンセント系」へと転身、そして・・・
香港市場の主要銘柄:美団(2) アリババ集団との蜜月と決別、転機となった15年のある出来事
香港市場の主要銘柄:美団(1) ATMXの一角で時価総額5位、清華大卒の王興氏が北京で立ち上げ
香港市場の主要銘柄:チャイナ・モバイル 携帯契約数は世界1位、NTTドコモの11倍
香港市場の主要銘柄:中国建設銀行 4大国有商業銀行で時価総額最大、インフラ建設分野に強み
香港市場の主要銘柄:アリババ集団(3) アリババは102年続く企業になれるのか?
香港市場の主要銘柄:アリババ集団(2) イーベイとの争いを制して中国での覇権を握る
香港市場の主要銘柄:アリババ集団(1) 落ちこぼれジャック・マーの逆襲
香港市場の主要銘柄:テンセント、目指すは「最も尊敬されるインターネット企業」

中国株情報部 部長兼編集長

池ヶ谷 典志

立命館大学卒業後、1997年に北京の首都経済貿易大学に留学。 北京では中国国有の大手新聞社などに勤務し、中国の政治、経済、社会記事などを幅広く執筆。 帰国後の2004年にT&Cトランスリンク(現DZHフィナンシャルリサーチ)入社。 現地での豊富な経験や人脈を生かして積極的に中国企業や政府機関などへの取材を行ない、中国企業の調査・分析を行なっている。

池ヶ谷 典志の別の記事を読む

人気ランキング

人気ランキングを見る

連載

連載を見る

話題のタグ

公式SNSでも最新情報をお届けしております