先週のドル相場は「FOMCハト派姿勢後退」から「米利下げ観測再浮上」へとテーマが急変しました。経済指標の弱さやハト派発言を受け、ドル円は5営業日ぶりに反落し155円台まで調整。市場では、雇用や消費指標の悪化を背景に利下げ思惑が強まっています。
「FOMCハト派姿勢後退」→「米利下げ観測再浮上」へ移行
先週は「FOMCハト派姿勢後退」をテーマにドル相場が強含みやすい可能性について述べましたが、早々に金融マーケットのテーマが「米利下げ観測再浮上」に移行する目まぐるしい展開となっています。
今年3回、年内あと1回の利下げを従来唱えていたカシュカリ・ミネアポリス連銀総裁の「12月の利下げについて強い意向はまだない」と発言ほか、相次いだ連邦公開市場委員会(FOMC)メンバーのハト派(金融緩和派)姿勢の後退を示唆する発言がドルの底堅さにつながっていました。
しかし先週末は21日に、ウィリアムズ・ニューヨーク連銀総裁が「米連邦準備理事会(FRB)はインフレ目標にリスクを与えることなく、短期的に利下げが可能」との見解を示すと、米利下げ観測が再浮上。ドル売りが先行したほか、「増一行日銀審議委員は利上げ判断が近づいているとの考えを示した」との報道で日銀の利上げ観測も高まり、ドル円は5営業日ぶりに反落しました(図表参照)。

週明け24日も、ウォラー米連邦準備理事会(FRB)理事が「次回会合では利下げを支持、その後は会合ごとに判断」と述べたほか、デイリー・サンフランシスコ連銀総裁は「労働市場の急激な悪化リスクの高まりを理由に、12月の会合での利下げを支持」などと語っています。この日はドル円の伸び悩みを誘った程度でしたが、ハト派発言が続く印象を強めました。
さらに25日「ハセット米国家経済会議(NEC)委員長が次期米連邦準備理事会(FRB)議長人事の最有力候補」との一部報道もドル売りを促しています。同氏は前週の通信社インタビューで、金利がもっと低くあるべきとのトランプ米大統領の考えを支持すると述べており、FRBが米政権の意向をくんだ利下げ路線を取るとの思惑を高めました。
ドル円は先週「FOMCハト派姿勢後退」をテーマに158円台回復をうかがう様相を示していましたが、「米利下げ観測再浮上」を受けて同週半ば19日以来の155円台まで調整安となりました。
FOMCメンバー、景気悪化回避を意識
今回の「米利下げ観測再浮上」の背景には、FOMCメンバー間で景気悪化回避のために早期の政策転換が必要との認識が共有され始めたことがあります。直近データでも25日発表の9月米小売売上高が市場予想を下回る伸びにとどまったほか、11月の消費者信頼感指数が88.7と、93.4程度を見込んでいた事前予想を下回って前月分の改定値95.5から下振れ、7カ月ぶりの水準まで大幅に低下しています。
労働市場の減速リスクも意識され、9月の米雇用統計では非農業部門雇用者数は+11.9万人と予想より増加したものの、失業率は4.4%と2021年10月以来、約4年ぶりの高水準となりました。前月・前々月分の雇用者数が下方修正されていた点を警戒する声もありました。
雇用が数量的に伸びても不安定で、質や持続性への懸念が強まっています。景気の底堅さを支えてきた雇用の信頼性に揺らぎが生じているとの見方が広がっています。
為替市場では、利下げがドル金利低下につながるとの思惑からドル売りが進行。ドル円の上値の重さが意識されやすく、今後も政策当局者の発言が相場変動の大きな材料となりそうです。



