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第164回 利下げ再開、米経済は?

FRBは利下げを再開

米連邦準備制度理事会(FRB)は9月の連邦公開市場委員会(FOMC)で9カ月ぶりに利下げを再開し、政策金利を4.00-4.25%にしました。また、先行きの利下げペースが注目される中、雇用環境の悪化リスクに対する管理という意味合いで今年は9月の利下げ分も含め合計0.75%の利下げが見込まれています。また、2026年に関しては景気回復が進む中でインフレ圧力が長引き、FOMC参加者は0.25%の利下げを予想しています。

 

市場参加者は今のところ、2026年も2025年同様に0.75%の利下げを織り込み、FOMC参加者の見通しと乖離しています。

 

利下げの背景

トランプ米大統領の利下げを求める圧力が続く中でも、パウエルFRB議長はインフレ高への懸念で利下げに慎重姿勢を示してきたが、9月5日に公表された8月の雇用統計が7月に続き軟調な結果となったこともあり、景気の下振れリスクからFRBは利下げに踏み切りました。

 

雇用環境の悪化が続けば家計の所得を下押しし、個人消費を下振れさせる可能性が高まります。米国経済の屋台骨である個人消費を見ると、2025 年以降緩やかに減速しています。8月の失業率は4.3%と2カ月連続で上昇し、特に景気に敏感な若年層の失業率の上昇が目立ちました。

 

足もとの米経済

足元の米家計は、雇用環境悪化のあおりを受けている低中所得層と、賃金の伸びが底堅く、資産所得増も追い風となっている高所得層で、個人消費が二分化しています。高所得層の消費によって、個人消費全体は減速にとどまっているが、雇用環境の悪化によって低中所得層という家計の広範囲で地盤沈下が進んでいます。高所得層頼みの個人消費は、雇用環境の悪化が高賃金層へと及んだり、資産価格の調整によって資産所得が抑制されたりすれば、大幅に下振れする恐れがあります。

 

雇用関連のほかの指標で、8月米小売売上高は前月比で予想を上回る+0.6%となったが、実質小売売上高は同+0.2%と2カ月連続で減速しました。消費者マインドについて確認すると、9月米ミシガン大学消費者態度指数・確報値は55.1と2カ月連続で悪化しています。ミシガン大はトランプ政権の関税政策が消費者にとって大きな問題であると指摘しています。

 

また、中古住宅販売の先行指標である中古住宅仮契約指数は前月比-0.4%と2カ月連続でマイナスとなり、7月新築住宅販売は同-0.6%とマイナスに転じました。8月住宅着工件数は同-8.5%と3カ月ぶりにマイナスとなり、住宅需要・住宅供給ともに軟調となっています。FRB の利下げに伴う金利低下は住宅需要のポジティブ要素であるものの、住宅需要の本格回復には時間を要すると考えられます。

 

米経済見通し

4-6月期GDP確定値は前期比+3.8%に上方修正されたが、7-9月期は+1.5%と前期から減速が見込まれます。年内は雇用環境の悪化に見られるように景気減速が続くことが想定され、2025 年通年の実質 GDP 成長率は前年比+1.8%程度になると予想されます。

 

利下げ再開が景気の下支えとなり、2026年以降の景気は緩やかな回復が想定されるが、インフレが再加速すればFRBも利下げを続けることが困難になります。これまでは企業によって関税コストの多くが吸収されてきたが、先行きは価格転嫁が徐々に進んでいくことが見込まれます。

この連載の一覧
第164回 利下げ再開、米経済は?
第163回 市場とFRB、来年以降の見通しにかい離
第162回 自民党総裁選と金融市場
第161回 英国の財政懸念
第160回 FRB理事の解任騒動
第159回 11人の次期FRB議長候補
第158回 「基調的な物価上昇率」
第157回 中国の政策金利
第156回 今年後半の米経済
第155回 日米合意、今後のドル円は?
第154回 トランプ氏、人民元の影響拡大の引き立て役になるか
第153回 香港ドル、キャリー取引が活発化
第152回 英国でもトリプル安
第151回 中東リスクに円買いではなくドル買い
第150回 悪いドル安
第149回 FX、マイルールを徹底
第148回 FX詐欺の手口
第147回 信認低下のドル、売り圧力が継続
第146回 半導体を制するものが世界を制する
第145回 米中会談、過度な期待は禁物
第144回 加ドル、米加首脳会談に注目
第143回 日米協議、円安是正に一安心も警戒残る
第142回 関税方針、トランプ氏の正念場
第141回 トランプ氏の脅かし、中国には通用しない
第140回 トランプ関税、ポンド相場への影響
第139回 RBA、追加利下げは5月か
第138回 英中銀、慎重な利下げペース維持
第137回 ドイツの大規模な財政拡大策
第136回 中国、今年GDP成長目標を5%前後に
第135回 米消費者信頼感指数、消費鈍化を示唆
第134回 リーダー不在のEU
第133回 各国中銀の利下げも、トランプ関税効果を薄めるか
第132回 円と加ドル、IMMポジションの変化
第131回 FX取引、投資詐欺に注意
第130回 FX、リスクも把握した上で取引を
第129回 トランプ氏VS中国
第128回 トランプトレードはいつまで続くか
第127回 ポジションの手仕舞い
第126回 今年最後の日米金融政策会合
第125回 中国景気、改善傾向もトランプリスク高まる
第124回 尹韓国大統領の戒厳令騒動
第123回 ポジションの管理
第122回 ドル円、160円台復帰はあるか
第121回 AI・FX取引
第120回 FX取引はギャンブルなのか
第119回 FXの確定申告
第118回 元キャリートレードの復活に注意
第117回 ドル円 8/1以来の150円台
第116回 ポンド、雇用・物価データの見極め
第115回 中国、景気支援策を強化
第114回 自民党総裁選、サプライズの結果に
第113回 景気回復が鈍いままの中国経済
第112回 最近の円相場、スキャルピング手法が有利か
第111回 最近主要国の金融政策(4)
第110回 最近主要国の金融政策(3)
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第107回 投機筋、2週間以内での勝負多い
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第102回 勝つために情報本質の見極めは大事
第101回 押し目買いの罠
第100回 円安・円高の影響
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第96回 デイトレードの基本は順張り
第95回 ドル円、どこに向かうのか
第94回 FX、初心者に多い失敗例
第93回 本間宗久が残した相場の極意
第92回 基軸通貨のドル、強い
第91回 外国為替相場制度
第90回 米長期金利とドル円
第89回 RBNZ政策金利とNZドル円
第88回 日銀、利上げに踏み切るも円安
第87回 日本、「金利のある世界」に向かう
第86回 豪中銀と政策金利
第85回 トランプ氏の再選リスク
第84回 加中銀とその金融政策
第83回 英中銀とMPC
第82回 ECBと理事会
第81回 FRB 、FOMC
第80回 人民元の基準値
第79回 円キャリートレード
第78回 日銀、1月会合でマイナス金利解除を見送るか
第77回 ドル円 ゆく年くる年(2)
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為替情報部 アナリスト

金 星

中国出身。横浜国立大学大学院卒業後、国内商品先物会社に入社。 外国為替証拠金取引会社へ出向し、カバーディール業務に携わりながら市況サービスも担当。 2013年にDZHフィナンシャルリサーチに入社。

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