効果のなかった為替介入?
財務省は毎月末、外国為替市場での為替介入額を公表しています。
もっとも、正確には当月分ではなく、先月5月は29日が月末扱いとなったため、その前々営業日までの実績が対象となります。
今回は4月28日から5月27日までの介入額が公表され、総額は11兆7349億円だったことが明らかになりました。
これだけの介入規模にもかかわらず、その効果は限定的で、1カ月も経たないうちにドル円は介入が実施された160円台近辺まで戻してきています。
市場では、今回の介入効果が薄かった要因として
三村財務官が「為替、最後の退避勧告」と発言したほか、片山財務相とともに「いよいよ断固たる措置をとる時が近づいている」と繰り返し警告していたことで、市場にとってサプライズがなく、インパクトが小さかったとの見方があります。
また、政府・財務省関係者が「円安はファンダメンタルズに沿っていない」と主張している一方、市場参加者の多くは足元の円安進行をファンダメンタルズに沿った動きと認識していることも挙げられます。
さらに、市場では高市政権の財政政策を放漫財政とみる向きがあることに加え、リフレ派を政策運営の中核に据えていることも円売り要因として意識されています。
加えて、国内の個人投資家によるNISAを通じた海外資産投資の拡大や、「オルカン」に代表される海外株式への資金流入など、継続的な外貨買い・円売りの流れが形成されていることも一因とされています。
また、日本経済の成長力低下や国力の相対的な低下も、中長期的な円売り要因として指摘されています。
そして、もう一つ指摘されているのは、市場が投機筋による過度なドルロング・円ショートの状態にはなっていないことです。そのため、為替介入によって投機筋のポジションを一気に巻き戻す効果が限定され、円高が定着しにくかったとの見方もあります。。
ポジションの傾きを知ることはできるのか?
では、市場参加者は本当にポジションの偏りを把握できるのでしょうか。
答えは、「完全には把握できないものの、参考となる指標はいくつか存在する」です。
その代表例として挙げられるのが、米商品先物取引委員会(CFTC)が公表している投機筋のポジション動向です。
CFTCの建玉報告(Commitments of Traders Report、COTレポート)では、シカゴ通貨先物市場における投機筋や商業筋などのポジション状況を確認することができます。
これについては第152回「本来の意味でのIMMポジション利用法を知らないでやってはいけない」に詳細を載せていますので参考にしてください
他にも、市場ではポジションの偏りを推し量る手掛かりとしてテクニカル指標を参考にする向きがあります。その代表例がボリンジャーバンドで、レートが+2σ付近まで上昇すると、相場が一方向に傾いている可能性が意識されることがあります。
では、今回介入が行われた4月30日時点のポジションの偏りを振り返ってみましょう。
まず、CFTCの投機筋ポジションですが、5月2日に公表された4月28日時点のデータでは、円ショートは10万2059枚となっていました。
2月24日時点では円ロングだったものの、その後は徐々に円ショートへと傾いていました。
ただし、2024年には円ショートが18万枚を超えて積み上がっていたことを考えると、当時のポジションは極端な水準だったとは言い切れません。
一方、ボリンジャーバンドについては当時のデータが残っていません。
ただ、前日にはドル円が160円手前まで上昇しており、介入直前には160円台後半まで買われていたことを踏まえると、テクニカル的には買われ過ぎの領域に達していた可能性が高いと考えられます。
市場が徐々に円売りへ傾いていたことを考えると、当局が一時的にでも円安の流れを食い止めようとしたのは理解できるところでしょう。
ただ、市場のポジションは円安を強く警戒しなければならないほど一方向に偏っていたわけではありませんでした。そのため、介入によってストップロスを巻き込んだ円買い戻しが発生したものの、その規模には限界があり、結果として介入効果も限定的なものにとどまったといえます。
さらに、それまで十分な円売りポジションを構築できていなかった市場参加者も少なくなかったため、介入による急落を新たな円売りポジションを作る好機と捉える向きもありました。
実際、市場では「介入のおかげで円売りポジションを持つことができた」と受け止める参加者さえいたほどです。

円ショート積み増し?次の介入は?
6月5日に公表されたCFTCの投機筋ポジション(6月2日時点)によると、円ショートは12万9567枚まで積み上がっています。
前述のとおり、この水準は4月30日の為替介入時を上回っており、市場の円ショートポジションがその後も拡大していることが分かります。
もっとも、過去最高水準にはまだ達していないものの、市場参加者のポジションは徐々に円ショートへ傾きつつあります。
また、先週末6日時点ではドル円のボリンジャーバンド+2σが160.64円に位置していました。
このように、円ショートの積み上がりとテクニカル面での過熱感が意識される状況にあることから、今週も為替介入への警戒感を後退させる局面ではないと考えられます。引き続き、当局の動向には注意を払う必要がありそうです。





