AIの進化が目覚ましく、汎用的なモデルではオープンAIとアンソロピックの2社がしのぎを削っています。専門分野に特化したAIモデルも数多く存在しており、これはAIっぽいな?と思う文章や画像、動画などが世の中にあふれています。すでにAIは私生活の一部に溶け込んでおり、手放せないという人も多いのではないでしょうか。筆者もその一人です。
そんなAIですが、パソコンやスマートフォンの画面の中から、いよいよ現実世界へ飛び出そうとしています。株式市場ではフィジカルAIが大きなテーマとなっており、工場で部品を運ぶ、人と同じ空間で作業する、周囲の状況を見ながら自ら判断して動く。こうした自律型ロボットの頭脳として注目されています。
起業家のイーロン・マスク氏は今月、ヒト型ロボットは10年後に少なくとも10億台になるとの見通しを示しました。ソフトバンクグループの孫正義氏は2040年に10億台を予想します。本当に10億台となるかはさておき、その規模でロボットが普及すると世の中も大きく変わりそうです。

フィジカルAIとは何か
フィジカルAIとは、AIがカメラや各種センサーから現実世界の情報を受け取り、状況を認識・理解し、次の行動を判断して、ロボットや車両などを実際に動かす技術を指します。これまでのような単純作業や反復動作を行うロボットではないというところがポイントです。
生成AIが「デジタル上で文章や画像を作るAI」だとすれば、フィジカルAIは「現実世界で行動するAI」と捉えると分かりやすいでしょう。ここ数年でAI技術が高度な発展を遂げたからこそフィジカルAIも実現に近づきました。
ただし、ロボットのAIがすべてデータセンターで動くわけではありません。むしろ現在の開発では、ロボット本体でAIを動かすエッジAIと、クラウド・データセンター側の大規模計算資源を組み合わせる構成が重要になっています。
なぜ「エッジAI+クラウド」なのか
ロボットは、転倒を防ぐ、障害物を避ける、物をつかむといった処理を短時間で繰り返さなければなりません。通信状態によって応答時間が変わるクラウドだけに依存していては、リアルタイム制御には不向きな場面があります。
歩くロボットが階段に差し掛かった時に、このままだと転倒しそうな状況があったとします。ロボットがデータセンターと通信している間にも転倒リスクはあり、間に合わない可能性が高くなるでしょう。一方でロボットのAI自体が判断すれば転倒リスクを下げられるため、リアルタイム性に優れたエッジAI、大きな情報を処理するクラウド(データセンターを通じたAI処理)の両方が欠かせません。
こういった背景から、センサー情報の処理や行動判断、運動制御などはロボット側のコンピューターで実行する設計が進んでいます。 一方、AIモデルそのものの学習には大量の計算が必要です。

ロボット自らが学習する場合ではさまざまな環境を用意して実証実験を繰り返す必要があり、時間もコストも膨大です。このため、学習はシミュレーション空間で繰り返す手法を用いて、学習が終わればロボットのシステムをアップデートする。これによってロボットが新しい環境にも対応できるようになります。ロボットが超優秀な作業員で、クラウドは超優秀なオペレーターという感じですね。
また、フィジカルAIを実世界で動かすには、AI半導体だけでは足りません。周囲を見るカメラや距離・触覚などのセンサー、姿勢を把握するセンサー、関節を動かすモーターやアクチュエーター、減速機、電力を供給するバッテリー、通信機器、そしてこれらを統合する制御ソフトウェアが必要です。
昨今ではAIの計算資源を確保するためのデータセンター投資が旺盛ですが、フィジカルAIの普及には、データセンターだけでなくさまざまな部品やソフトも必要となり、生成AIよりも設備投資の規模が大きくなる可能性があります。
投資テーマは二つの計算資源とロボット部材へ
投資の観点で重要なのは、フィジカルAIが一つの市場ではないという点です。まず、ロボット向け基盤モデルの学習やシミュレーションを担うデータセンターがあります。ここではGPUやCPUをはじめ、メモリー、ネットワーク、電力・冷却など、AI計算基盤を支える領域が関係してきます。

もう一つがロボット本体です。自律型ロボットが普及すれば、機体ごとにエッジAI用のプロセッサーに加え、センサー、モーター、アクチュエーター、減速機、バッテリーなどが必要になります。データセンター向けAIとは違い、こちらはロボットの生産台数が部材需要を左右する市場になります。

現在の半導体市場は、AI向けの拡大、産業向けの停滞と二極化していますが、フィジカルAI投資が強まるとAI向け、産業向けどちらも伸びる可能性があります。これまでのAI相場でいまいち業績が伸びなかった企業にもスポットライトが当たるかもしれません。
もちろん、ヒューマノイドを含む自律ロボットがどの程度の速度で普及するかは現時点では確定していません。価格、安全性、耐久性、稼働時間、導入効果など、量産と普及に向けた課題も残っています。それでも、現在の開発動向から見えてくる方向性はあるでしょう。
2025年~26年のAI相場で利益が急拡大したのはツルハシと言われる企業です。フィジカルAIを投資テーマとして考えるなら、「ロボットメーカーはどこか」だけを見るのではなく、クラウド、エッジAI半導体、センサー、駆動系、電源まで、そのサプライチェーン全体を捉えることが重要になりそうです。



