日銀は昨年最後の12月会合で金融政策の現状維持を決定しました。もっとも、2024年という時間軸で見た場合、マイナス金利の解除は既定路線であり、後は「いつやるか」というくらいしか論点は残っていません。
一部では今月22-23日の日銀金融政策決定会合でマイナス金利を解除するとの見方が残され、4月会合での政策転換予想が5割を超えています。日銀は金融政策見直しの条件として「賃金・物価の好循環」を挙げており、個人的にはマイナス金利解除は早くても4月で、6・7月会合に先送りされる可能性も大きいと見ています。
植田日銀総裁の発言
昨年4月に日銀の新総裁に就任した植田氏は緩和策の継続の必要性を強調し続けたが、昨年12月7日に国会で「年末から来年にかけて一段とチャレンジングになると思っている」と発言し、日銀が早期に金融政策の正常化に向かうとの臆測を呼びました。市場では一時大きく円高に傾いたが、同19日の金融政策決定会合では現状の大規模な金融緩和の維持を決定し、「チャレンジング」発言は仕事への姿勢一般についての答弁だったとし、火消しをはかりました。
また、植田日銀総裁は12月25日の講演で、物価を2%で安定させる目標について「実現の確度は少しずつ高まってきているが、なお十分に高いわけではない」と述べ、24年の春闘で「はっきりとした賃上げが続くかが重要なポイントだ」と強調し、「物価目標の持続的・安定的な実現の確度が十分高まれば政策変更を検討する」との見解を示しました。
金融政策修正のタイミングをめぐって、2%物価目標の実現の確度がさらに高まってきているとして「金融正常化のタイミングは近づいている」とする意見が出る半面、早期の政策修正に慎重な意見が複数出るなど、日銀のメンバー間で意見の隔たりがあります。
物価・賃金情勢
厚生労働省が10日発表した毎月勤労統計調査(速報)によると、実質賃金は前年同月比-3.0%と4月の-3.2%以来の低水準となりました。20カ月連続の減少で、マイナス幅は市場予想に反して前月の-2.3%から拡大しました。名目賃金に相当する1人当たりの現金給与総額は+0.2%と23カ月連続で増加したが、2021年12月以来の低い伸びとなりました。日銀が掲げる賃金と物価の好循環実現へ不透明感が増す恐れがあります。
また、11月の物価の基調を示す指標は、3指標とも前月より伸び率が縮小しました。2022年4月に消費者物価指数(除く生鮮食品、コアCPI)の伸び率が2%を超えて以降、3指標全てで伸び率が縮小するのは初めてとなります。輸入物価上昇に伴う物価の押し上げ効果がはく落する中で、物価の基調的な上昇圧力も後退しています。
マイナス金利解除は円高トレンドにつながるとは限らない
いずれにせよ、日銀が今年に金融政策の正常化に向かうというとはメインシナリオであることは変わらず、残るのは「いつやる」だけになっていますが、マイナス金利解除は連続的な利上げのスタートではありません。
米連邦準備制度理事会(FRB)の3回の利下げ予想に対し、市場は6回の利下げを織り込んでおり、ギャップが大きいですが、米国では今年に利下げが確実視されています。米国が利下げに動く環境で、日銀がマイナス金利を解除し連続で利上げを実施するのは非常にやりにくくなるでしょう。
米利下げ・日銀の金融政策正常化は金利差縮小の思惑につながるので、今年はドル安・円高に傾くとの見方が多いです。ただ、連続的な利上げが事実上不可能だとすれば、マイナス金利解除は「円高材料出尽くし」を意味します。建前はどうあれ、日銀が正常化に向かって二の矢、三の矢を放つことができないのであれば、円高は一時的にとどまりドル高・円安が再燃する可能性もあります。