FX やるならお得に

第78回 日銀、1月会合でマイナス金利解除を見送るか

日銀は昨年最後の12月会合で金融政策の現状維持を決定しました。もっとも、2024年という時間軸で見た場合、マイナス金利の解除は既定路線であり、後は「いつやるか」というくらいしか論点は残っていません。

 

一部では今月22-23日の日銀金融政策決定会合でマイナス金利を解除するとの見方が残され、4月会合での政策転換予想が5割を超えています。日銀は金融政策見直しの条件として「賃金・物価の好循環」を挙げており、個人的にはマイナス金利解除は早くても4月で、6・7月会合に先送りされる可能性も大きいと見ています。

 

植田日銀総裁の発言 

昨年4月に日銀の新総裁に就任した植田氏は緩和策の継続の必要性を強調し続けたが、昨年12月7日に国会で「年末から来年にかけて一段とチャレンジングになると思っている」と発言し、日銀が早期に金融政策の正常化に向かうとの臆測を呼びました。市場では一時大きく円高に傾いたが、同19日の金融政策決定会合では現状の大規模な金融緩和の維持を決定し、「チャレンジング」発言は仕事への姿勢一般についての答弁だったとし、火消しをはかりました。

 

また、植田日銀総裁は12月25日の講演で、物価を2%で安定させる目標について「実現の確度は少しずつ高まってきているが、なお十分に高いわけではない」と述べ、24年の春闘で「はっきりとした賃上げが続くかが重要なポイントだ」と強調し、「物価目標の持続的・安定的な実現の確度が十分高まれば政策変更を検討する」との見解を示しました。

 

金融政策修正のタイミングをめぐって、2%物価目標の実現の確度がさらに高まってきているとして「金融正常化のタイミングは近づいている」とする意見が出る半面、早期の政策修正に慎重な意見が複数出るなど、日銀のメンバー間で意見の隔たりがあります。

 

物価・賃金情勢

厚生労働省が10日発表した毎月勤労統計調査(速報)によると、実質賃金は前年同月比-3.0%と4月の-3.2%以来の低水準となりました。20カ月連続の減少で、マイナス幅は市場予想に反して前月の-2.3%から拡大しました。名目賃金に相当する1人当たりの現金給与総額は+0.2%と23カ月連続で増加したが、2021年12月以来の低い伸びとなりました。日銀が掲げる賃金と物価の好循環実現へ不透明感が増す恐れがあります。

 

また、11月の物価の基調を示す指標は、3指標とも前月より伸び率が縮小しました。2022年4月に消費者物価指数(除く生鮮食品、コアCPI)の伸び率が2%を超えて以降、3指標全てで伸び率が縮小するのは初めてとなります。輸入物価上昇に伴う物価の押し上げ効果がはく落する中で、物価の基調的な上昇圧力も後退しています。

 

マイナス金利解除は円高トレンドにつながるとは限らない

いずれにせよ、日銀が今年に金融政策の正常化に向かうというとはメインシナリオであることは変わらず、残るのは「いつやる」だけになっていますが、マイナス金利解除は連続的な利上げのスタートではありません。

 

米連邦準備制度理事会(FRB)の3回の利下げ予想に対し、市場は6回の利下げを織り込んでおり、ギャップが大きいですが、米国では今年に利下げが確実視されています。米国が利下げに動く環境で、日銀がマイナス金利を解除し連続で利上げを実施するのは非常にやりにくくなるでしょう。

 

米利下げ・日銀の金融政策正常化は金利差縮小の思惑につながるので、今年はドル安・円高に傾くとの見方が多いです。ただ、連続的な利上げが事実上不可能だとすれば、マイナス金利解除は「円高材料出尽くし」を意味します。建前はどうあれ、日銀が正常化に向かって二の矢、三の矢を放つことができないのであれば、円高は一時的にとどまりドル高・円安が再燃する可能性もあります。

この連載の一覧
第93回 本間宗久が残した相場の極意
第92回 基軸通貨のドル、強い
第91回 外国為替相場制度
第90回 米長期金利とドル円
第89回 RBNZ政策金利とNZドル円
第88回 日銀、利上げに踏み切るも円安
第87回 日本、「金利のある世界」に向かう
第86回 豪中銀と政策金利
第85回 トランプ氏の再選リスク
第84回 加中銀とその金融政策
第83回 英中銀とMPC
第82回 ECBと理事会
第81回 FRB 、FOMC
第80回 人民元の基準値
第79回 円キャリートレード
第78回 日銀、1月会合でマイナス金利解除を見送るか
第77回 ドル円 ゆく年くる年(2)
第76回 ドル円 ゆく年くる年(1)
第75回 ポジションの偏り
第74回 ユーロ圏、厳しい財政ルール
第73回 米国の双子の赤字、ドル相場への影響は?
第72回 日本の貿易収支
第71回 国際収支と為替(2)
第70回 国際収支と為替(1)
第69回 円買い介入警戒感が続く
第68回 FXにも山・谷がある
第67回 FX、時間軸視点も大切
第66回 PPPよりかなりの円安
第65回 購買力平価説
第64回 米大統領選とドル相場
第63回 円の実質実効為替レート、50年ぶりの低水準
第62回 実質実効為替レート、通貨の強弱が分かる
第61回 FX取引には時間・季節も影響
第60回 プロと素人
第59回 相場に入る・離れるタイミング
第58回 FX、成功する人・失敗する人
第57回 外貨預金にも使えるFX取引
第56回 FXトレードスタイル(3)
第55回 FXトレードスタイル(2)
第54回 FXトレードスタイル(1)
第53回 近年の相場の軸足
第52回 FX相場の軸足
【第51回 ドル・ユーロ・円、3大通貨に注目】
【第50回 FX、取り組みのタイミング】
【第49回 大局観下でのアプローチ】
【第48回】大局観、身につけよう
【第47回】FX取引の投資資金
第46回 相場と真摯に付き合う
第45回 金相場と為替
第44回 うわさで買って、事実で売る
第43回 原油相場と為替
第42回 金利差拡大ならお金は金利の高い国へ
第41回 貿易収支と為替相場
第40回 米国、なぜドル高にこだわるのか?
第39回 景気と為替相場
第38回 先物市場で投機筋の動きを把握
第37回 米SVB経営破綻の為替相場への影響
第36回 インフレと為替
第35回 FX、最強の参加者は?
第34回 為替レートの安定は為替ディーラーに不利なのか?
第33回 FXの自動売買取引
第32回 注目度の高い米雇用統計
第31回 リスクオン・リスクオフ取引
第30回 注目度の高い経済指標
第29回 アフリカの人気通貨 南アフリカ・ランド
第28回 安全資産・逃避通貨のCHF
第27回 2023年の為替相場
【FX、やるならお得に】第26回 年末年始の取引に注意
【FX、やるならお得に】第25回 急落で魅力低下の高金利通貨(トルコリラ)
【FX、やるならお得に】第24回 多難も地位が上がりつつある通貨(人民元)
【FX、やるならお得に】第23回 NZドル、豪ドルに似た動き
【FX、やるならお得に】第22回 米国と結びつきが深い通貨(加ドル)
【FX、やるならお得に】第21回 資源国通貨(豪ドル)
【FX、やるならお得に】第20回 変動幅が大きい通貨(ポンド)
【FX、やるならお得に】第19回 取引量第3位(円)
【FX、やるならお得に】第18回 取引量が第2位の通貨(ユーロ)
【FX、やるならお得に】第17回 取引量が最も多い通貨(ドル)
【FX、やるならお得に】第16回 ファンダメンタルズ
【FX、やるならお得に】第15回 順張り・逆張り
【FX、やるならお得に】第14回 為替レートはテーマで動く
【FX、やるならお得に】第13回 為替の変動要因
【FX、やるならお得に】第12回 FXはゼロサムゲーム?
【FX、やるならお得に】第11回 FX取引の注文方法
【FX、やるならお得に】第10回 外国為替取引の中心はドル
【FX、やるならお得に】第9回 外国為替市場と為替レート
【FX、やるならお得に】第8回 FX取引で大事なこと
【FX、やるならお得に】第7回 スワップポイント
【FX、やるならお得に】第6回 FX、利益を得る仕組み
【FX、やるならお得に】第5回 買値、売値とスプレッド
【FX、やるならお得に】第4回 FXの「レバレッジ」
【FX、やるならお得に】第3回 まず「FX」のこと、ちゃんと理解しましょう
【FX、やるならお得に】第2回 そもそも為替って何?
【FX、やるならお得に】第1回 敵知らずして勝利なし!

為替情報部 アナリスト

金 星

中国出身。横浜国立大学大学院卒業後、国内商品先物会社に入社。 外国為替証拠金取引会社へ出向し、カバーディール業務に携わりながら市況サービスも担当。 2013年にDZHフィナンシャルリサーチに入社。

金 星の別の記事を読む

人気ランキング

人気ランキングを見る

連載

連載を見る

話題のタグ

公式SNSでも最新情報をお届けしております