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第77回 ドル円 ゆく年くる年(2)

ドル円、24年も政策相場が続くか

来年もドル円相場に大きな影響を与えるのは間違いなく、日米両国の金融政策です。メインシナリオはFRBの利下げ開始と日銀の金融政策正常化への転換となり、ドル売り・円買い予想が多いです。

 

FRB

基本的にはこのシナリオ通りになる可能性が高いですが、懸念が残るのはFRBの利下げが市場予想ほど加速しないことや、インフレ懸念が再燃し高い金利水準の長期化観測が台頭することです。

 

12月FOMCでのドット・プロット(金利予測分布図)によると、2024年に3回の利下げ、2024末のフェデラルファンド(FF)金利誘導目標は4.65%(4.50-75%)と見込まれていますが、シカゴ・マーカンタイル取引所(CME)グループがFF金利先物の動向に基づき算出する「フェドウオッチ」では、利下げ開始は2024年3月FOMC、12月FOMCでは6回目の利下げでFF金利誘導目標3.75-4.00%が予想されるなど、FRBと市場のギャップが大きいです。どっち方向に修正されるかによって、ドル円に動意づくでしょう。

 

インフレだけではなく、景気動向もFRBの政策決定に大きな影響を与えそうです。現時点では米経済のソフトランディング期待が強いですが、景気懸念が強まるとFRBが利下げを急ぐ可能性があります。

 

日銀

市場では日銀が来年の4月にマイナス金利の解除に動くとの見方が強いです。一部では1月にマイナス金利解除に踏み切るとの声もありますが、1日の能登半島地震の影響で日銀の早期の政策転換思惑は後退しています。植田日銀総裁は政策変更に来年の春闘で「はっきりとした賃上げが続くかが重要なポイントだ」と強調しており、4月が妥当と言えるでしょう。

 

注意しないといけないのは、日銀がマイナス金利の解除を決定したとしても、マイナス金利解除=利上げではない点です。日銀が目指す賃金と物価の好循環を実現に、かなり厳しい状況が続くと想定され、日銀の利上げ期待が高まらない限り、円買いの反応は限られるでしょう。日銀がマイナス金利の解除に動いても利上げ期待が高まらない限り、ドル円の売り戻しは135円程度にとどまると見込まれます。

 

日米の金融政策転換で、近年のドル高・円安トレンドが変わるとの見方が多いですが、FRBの引き締め長期化や日銀の利上げ期待後退などの思惑が再燃すれば、ドル円は2022年10月22日につけた1990年7月以来の高値151.95円を上抜けして160円近辺まで上昇基調を強める可能性も警戒したいです。

 

ドル円、世界経済情勢の影響

世界経済情勢にも注目です。主要国で続いた利上げの累積効果がこの先一段と顕在化する可能性が高く、年前半は経済の緩やかな減速が続くとの見方が多いです。ただ、年央からは主要国中銀が利下げに踏み切る可能性が高く、金融政策が成長を支える可能性があります。米景気に関して、ソフトランディングを予想する声が多いです。

 

国際通貨基金(IMF)は来年の世界GDP成長率を+2.9%と、今年からわずかに景気が鈍化するとの見通しを示しています。また、経済協力開発機構(OECD)も来年の世界GDP成長率は+2.7%と今年からの鈍化を予想しているが、景気減速への懸念は多くありません。インフレとの闘いに勝利宣言ができるかどうかが重要です。

 

大きく懸念材料になるのは中国経済です。2023年の中国経済はコロナ禍からの回復が予想より鈍いままとなりました。不動産不況の影響も大きいです。中国当局が経済の回復に力を入れており、来年は経済の立て直しを期待したいところですが、不動産危機を上手く回避できるかどうかが大きなポイントになります。中国経済動向は世界経済に大きな影響を与えており、中国の経済状況に注目です。世界経済に睨んだリスクオン・オフがドル円の動きにも影響を与えるでしょう。

 

米大統領選

2024年は米国で4年に一度の大統領選挙が行われます。今のところ、バイデン現米大統領とトランプ前大統領の間で争われる可能性が高いです。選挙の年は、景気浮上策を狙った経済政策をとるため経済成長率が高くなる傾向があります。その結果、ドル高を誘引することや、選挙終了後は心理的にドル買い安心感が広がり、大統領選の年とその翌年はドル高になることが多いといわれています。

 

特にトランプ前大統領には現役時代にその言動に金融市場が大きく振り回されたこともあり、その保護主義者のトランプ氏が共和党指名候補者の間で圧倒的なリードを保っていることを踏まえれば、潜在的な貿易関税が通貨に及ぼす影響も注目され、「関税リスクの再燃はドルにプラスになる」可能性があります。

この連載の一覧
第115回 中国、景気支援策を強化
第114回 自民党総裁選、サプライズの結果に
第113回 景気回復が鈍いままの中国経済
第112回 最近の円相場、スキャルピング手法が有利か
第111回 最近主要国の金融政策(4)
第110回 最近主要国の金融政策(3)
第109回 最近主要国の金融政策(2)
第108回 最近主要国の金融政策(1)
第107回 投機筋、2週間以内での勝負多い
第106回 トランプVSハリス
第105回 来週の日銀会合、利上げは?
第104回 イベント・材料の認識から消化まで
第103回 経済指標の基本知識
第102回 勝つために情報本質の見極めは大事
第101回 押し目買いの罠
第100回 円安・円高の影響
第99回 円キャリートレードは正念場
第98回 ドル・ブル=ドル買いではない
第97回 ドル円 200円になったら
第96回 デイトレードの基本は順張り
第95回 ドル円、どこに向かうのか
第94回 FX、初心者に多い失敗例
第93回 本間宗久が残した相場の極意
第92回 基軸通貨のドル、強い
第91回 外国為替相場制度
第90回 米長期金利とドル円
第89回 RBNZ政策金利とNZドル円
第88回 日銀、利上げに踏み切るも円安
第87回 日本、「金利のある世界」に向かう
第86回 豪中銀と政策金利
第85回 トランプ氏の再選リスク
第84回 加中銀とその金融政策
第83回 英中銀とMPC
第82回 ECBと理事会
第81回 FRB 、FOMC
第80回 人民元の基準値
第79回 円キャリートレード
第78回 日銀、1月会合でマイナス金利解除を見送るか
第77回 ドル円 ゆく年くる年(2)
第76回 ドル円 ゆく年くる年(1)
第75回 ポジションの偏り
第74回 ユーロ圏、厳しい財政ルール
第73回 米国の双子の赤字、ドル相場への影響は?
第72回 日本の貿易収支
第71回 国際収支と為替(2)
第70回 国際収支と為替(1)
第69回 円買い介入警戒感が続く
第68回 FXにも山・谷がある
第67回 FX、時間軸視点も大切
第66回 PPPよりかなりの円安
第65回 購買力平価説
第64回 米大統領選とドル相場
第63回 円の実質実効為替レート、50年ぶりの低水準
第62回 実質実効為替レート、通貨の強弱が分かる
第61回 FX取引には時間・季節も影響
第60回 プロと素人
第59回 相場に入る・離れるタイミング
第58回 FX、成功する人・失敗する人
第57回 外貨預金にも使えるFX取引
第56回 FXトレードスタイル(3)
第55回 FXトレードスタイル(2)
第54回 FXトレードスタイル(1)
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第52回 FX相場の軸足
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【第50回 FX、取り組みのタイミング】
【第49回 大局観下でのアプローチ】
【第48回】大局観、身につけよう
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為替情報部 アナリスト

金 星

中国出身。横浜国立大学大学院卒業後、国内商品先物会社に入社。 外国為替証拠金取引会社へ出向し、カバーディール業務に携わりながら市況サービスも担当。 2013年にDZHフィナンシャルリサーチに入社。

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