ドイツで次期政権を担うキリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)と社会民主党(SPD)は、3月4日に大規模な財政拡大策を公表し、ユーロ相場の支えとなっています。市場では、財政拡大策による政府支出の増大で債券発行が長年にわたって増加し、経済成長の加速とインフレ率の上昇を見込んでいます。
トランプ米大統領の関税脅威により、欧州中央銀行(ECB)は利下げを継続せざるを得なくなる可能性が高いと予想されていたが、ECBは先週の会合でインフレ沈静化と各国政府による財政刺激強化の準備を理由に、利下げの終了が近いことを示唆しました。
大規模な財政拡大策
CDU/CSU)とSPDの2大政党は4日に向こう10年間のインフラ、デジタル化、パワーグリッド、教育関連の投資資金に充てる連邦予算とは別枠の総額5000億ユーロの特別基金を創設すること、ドイツの再軍備と戦略的独立を確保するため、GDPの1%を超える防衛費を債務ブレーキ(財政均衡を義務付けた憲法規定)の対象から除外すること、州政府による構造的な純借り入れのGDP比の上限を現在のゼロ%から連邦政府と同じ0.35%に引き上げることで合意しました。
緊縮的な財政運営を続けてきたドイツが変わりつつあります。EUレベルでも加盟国の国防費の増加に向けた資金提供や財政規律の適用除外が検討されており、ウクライナ情勢を巡る危機感が欧州諸国を財政拡張に突き動かしています。
「債務ブレーキ」を駆け込み改正
欧州連合(EU)の一員であるドイツは、財政赤字を国内総生産(GDP)の3%未満に抑えるEUの財政規律に加えて、独自の財政ルール(債務ブレーキ)を持っています。財政収支を均衡化させることが義務づけられており、基本法(憲法に相当)が定める債務ブレーキの見直しには、上下両院の3分の2以上の賛成が必要となります。
基本法改正には緑の党の賛成が不可欠
基本法改正には緑の党の賛成が不可欠だが、同党の関係者は10日、「メルツ氏の計画が承認される可能性は日ごとに低下している」と警告を発しました。基本法改正に伴い設立が計画されているインフラ投資基金(約80兆円規模)に気候変動対策が含まれていないというのがその理由です。ただ、14日にはCDU/CSU、SPDと緑の党が財政拡大策で合意に達したと伝わっています。
独財政拡大は、ユーロに悪影響を及ぼす可能性も
一部ではドイツの財政拡大路線がユーロに及ぼす悪影響も懸念する声も聞かれています。ユーロ圏には欧州中央銀行による金融政策があるが、通貨の価値を支える財政政策が存在しないため、発行される通貨には制度上の弱点があります。
ユーロ圏経済の大黒柱であるドイツが財政規律を重んじることで通貨価値の安定に努めてきた経緯があります。債務ブレーキもリーマンショック後の混乱を回避し、通貨ユーロの価値を安定させる目的で当時のメルケル首相が講じた措置です。2010年に起きたユーロ圏の債務危機の際にユーロは存続の危機に追い込まれたが、これを救ったのはドイツの債務ブレーキだったとも言われています。このことから債務ブレーキの見直しはユーロの価値を損なう危険性もあります。