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第40回 米国、なぜドル高にこだわるのか?

米政府、強いドルは国益

 

ドルが世界ナンバーワンの実力を発揮する時代が長らく続いています。もちろん、その一番の要因は、ドルが外国との貿易や資本取引などの経済取引において、その決済手段として用いられる基軸通貨で、各国通貨の価値基準となっているからです。

また、1990年代から米政権が為替相場でドル高に保つ政策、つまり「強いドル政策」を打ち出し、その後も「強いドルは国益」と歌い続け、ドル高を国の政策として挙げてきたのも大きな要因となります。

 

何で「強いドルは国益」?

米国にとって「強いドルは国益」になる要因は米経済が内需(国内の消費)中心であり、旺盛の個人消費が経済の柱であるからです。旺盛な消費は海外からの輸入に頼っている部分が大きく、強いドル(ドル高)であれば、輸入品を安く仕入れることができます。

また、輸入品を安く仕入れることができると、商品の販売価格が下がり国民の日常生活にかかわる物価も抑えられ、米国民にとっても大きなメリットがあるからです。ただ、輸入が増えると当然ながら貿易赤字が鮮明になるので、米国は膨大な貿易赤字国となっています。

 

米国は貿易赤字でも大丈夫?

国の貿易赤字が増えると、その国の通貨がどんどん海外に流出することになります。貿易収支が黒字か赤字か、貿易黒字の減少・増加、貿易赤字の減少・増加は、 通貨に対する需要の増減につながるため、為替レートにも影響を及ぼします。貿易赤字が深刻になれば、その国の対外純資産、所得収支などが減り、経済の悪循環が始まるので深刻な問題に陥る危険があります。

 

米国は貿易赤字に加え、国家の収入を支出が上回るという財政赤字も抱えています。貿易赤字と財政赤字の二つの赤字の「双子の赤字」を抱えながらも米国が繁栄を続けられるのはドルが基軸通貨であり、米政府が「強いドル政策」を続けているおかげです。米政府は収入の足りない分と貿易赤字に米国債を発行して投資家に買ってもらい穴埋めしています。基軸通貨であるドルと強い米経済への安心感から、経常収支が赤字でも外国から投資がなされるのであります。

 

ドル安の米経済への影響

米政府が「強いドル政策」を放棄すると、ドル安が進むのは一目瞭然です。ドル安になると、海外からの輸入品の価格が上昇し、米国内での消費が落ち込み、米国債の魅力は薄れ、海外の投資家は米国債を買わなくなります。米経済は成長が弱まり、米政府の資金調達手段もなくなります。

 

ドルの信認低下

近年はドルに対する信認が揺らいでいます。中国経済の急成長や、これまで目をつむってきた双子の赤字問題への警戒感などで、外貨準備に占めるドルの割合を引き下げたり、貿易の決済通貨にユーロや人民元を取り入れるグローバル企業が増えたり、ドル離れの動きが見えています。

この連載の一覧
第93回 本間宗久が残した相場の極意
第92回 基軸通貨のドル、強い
第91回 外国為替相場制度
第90回 米長期金利とドル円
第89回 RBNZ政策金利とNZドル円
第88回 日銀、利上げに踏み切るも円安
第87回 日本、「金利のある世界」に向かう
第86回 豪中銀と政策金利
第85回 トランプ氏の再選リスク
第84回 加中銀とその金融政策
第83回 英中銀とMPC
第82回 ECBと理事会
第81回 FRB 、FOMC
第80回 人民元の基準値
第79回 円キャリートレード
第78回 日銀、1月会合でマイナス金利解除を見送るか
第77回 ドル円 ゆく年くる年(2)
第76回 ドル円 ゆく年くる年(1)
第75回 ポジションの偏り
第74回 ユーロ圏、厳しい財政ルール
第73回 米国の双子の赤字、ドル相場への影響は?
第72回 日本の貿易収支
第71回 国際収支と為替(2)
第70回 国際収支と為替(1)
第69回 円買い介入警戒感が続く
第68回 FXにも山・谷がある
第67回 FX、時間軸視点も大切
第66回 PPPよりかなりの円安
第65回 購買力平価説
第64回 米大統領選とドル相場
第63回 円の実質実効為替レート、50年ぶりの低水準
第62回 実質実効為替レート、通貨の強弱が分かる
第61回 FX取引には時間・季節も影響
第60回 プロと素人
第59回 相場に入る・離れるタイミング
第58回 FX、成功する人・失敗する人
第57回 外貨預金にも使えるFX取引
第56回 FXトレードスタイル(3)
第55回 FXトレードスタイル(2)
第54回 FXトレードスタイル(1)
第53回 近年の相場の軸足
第52回 FX相場の軸足
【第51回 ドル・ユーロ・円、3大通貨に注目】
【第50回 FX、取り組みのタイミング】
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【第47回】FX取引の投資資金
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第45回 金相場と為替
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第43回 原油相場と為替
第42回 金利差拡大ならお金は金利の高い国へ
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為替情報部 アナリスト

金 星

中国出身。横浜国立大学大学院卒業後、国内商品先物会社に入社。 外国為替証拠金取引会社へ出向し、カバーディール業務に携わりながら市況サービスも担当。 2013年にDZHフィナンシャルリサーチに入社。

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