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第44回 うわさで買って、事実で売る

FXで有名な格言

「うわさで買って、事実で売る」―為替取引の世界で最も有名な格言の一つです。何の意味かと言うと、取引で儲けを狙う場合に「うわさが流れる段階で買っておいて、事実として結果が判明した時に売った方がいい」ということです。つまり、「うわさレベルで行動しないと儲からないよ」とする格言です。

 

重要な経済指標や注目のイベント、例えば米雇用統計、米連邦公開市場委員会(FOMC)などを控えて銀行・証券各社やロイター、ブルームバーグなど情報ベンダーは市場予想を公表します。また、マスコミは有名人の憶測記事を配信したり、関連の記事を流したりしますので、投資家はこれらを参考に事実が判明する前に結果を見込んで行動します。これが「うわさで買う」ということであり、結果が出る前に「織り込み済み」状態になっていることです。

 

例えば、米雇用統計の結果が良いという予想が多ければ、実際の結果が発表される前にドルを買う人が増えます。ドル円としてはドル買い・円売りポジションを持つ人が多くなり、ドル高・円安の方向に動きます。実際の結果が予想通り、もしくは予想を上回る高結果となれば、一段とドル高・円安が進む可能性がありますが、いったん「材料が出尽くした」ということで利益確定のドル売り・円買いとポジション解消の動きが活発になる可能性があり、「事実で売る」との言葉通りにポジションをいったん手仕舞うのも一つの良い選択になるとのことです。

 

「うわさで買って、事実で売る」事例

 

2022年3月から米連邦準備制度理事会(FRB)はインフレ高を抑制するために利上げに踏み切り、5月会合では0.50%の利上げを実施しました。また、この会合でパウエルFRB議長は6・7月会合で0.50%の利上げを仄めかし、0.75%の利上げに否定的な見解を示しました。

 

ところが6月10日に発表された米5月消費者物価指数(CPI)が予想を大きく上回ると、市場は一気に0.75%の利上げを織り込み始め、ドル円も135円半ばまでドル買い・円売りが進みました。また、FRBの金融政策に精通している人物)として有名なウォールストリート・ジャーナルの記者が、自分が書いた記事でそれまでの0.75%の利上げはあり得ないからあり得ると変えたことも市場の大幅利上げを織り込む動きを加速させました。

 

実際のところ、日本時間16時午前にうわさ(市場予想)通り0.75%が利上げを発表されました。大幅利上げにもかかわらず、発表後のドル円は利食いの売りやポジション解消の動きに押され、133円半ばまで急落し、翌日には一時131円半ばまで一段と下落しました。典型的な「うわさで買って事実で売る」展開と言えるでしょう。


ドル円 2002年6月チャート


 

もちろん、為替レートに影響を与えるのは様々な要因があり、「うわさで買って事実で売る」というのは一つのケースに過ぎず、うわさ通りの結果になった時に一段と上昇し、結果からみれば「事実で売る」のではなく、もう少しポジションをキープすればよかったとなる時もあります。大事なのはしっかりした自分の取引ルールを作ることです。

この連載の一覧
第92回 基軸通貨のドル、強い
第91回 外国為替相場制度
第90回 米長期金利とドル円
第89回 RBNZ政策金利とNZドル円
第88回 日銀、利上げに踏み切るも円安
第87回 日本、「金利のある世界」に向かう
第86回 豪中銀と政策金利
第85回 トランプ氏の再選リスク
第84回 加中銀とその金融政策
第83回 英中銀とMPC
第82回 ECBと理事会
第81回 FRB 、FOMC
第80回 人民元の基準値
第79回 円キャリートレード
第78回 日銀、1月会合でマイナス金利解除を見送るか
第77回 ドル円 ゆく年くる年(2)
第76回 ドル円 ゆく年くる年(1)
第75回 ポジションの偏り
第74回 ユーロ圏、厳しい財政ルール
第73回 米国の双子の赤字、ドル相場への影響は?
第72回 日本の貿易収支
第71回 国際収支と為替(2)
第70回 国際収支と為替(1)
第69回 円買い介入警戒感が続く
第68回 FXにも山・谷がある
第67回 FX、時間軸視点も大切
第66回 PPPよりかなりの円安
第65回 購買力平価説
第64回 米大統領選とドル相場
第63回 円の実質実効為替レート、50年ぶりの低水準
第62回 実質実効為替レート、通貨の強弱が分かる
第61回 FX取引には時間・季節も影響
第60回 プロと素人
第59回 相場に入る・離れるタイミング
第58回 FX、成功する人・失敗する人
第57回 外貨預金にも使えるFX取引
第56回 FXトレードスタイル(3)
第55回 FXトレードスタイル(2)
第54回 FXトレードスタイル(1)
第53回 近年の相場の軸足
第52回 FX相場の軸足
【第51回 ドル・ユーロ・円、3大通貨に注目】
【第50回 FX、取り組みのタイミング】
【第49回 大局観下でのアプローチ】
【第48回】大局観、身につけよう
【第47回】FX取引の投資資金
第46回 相場と真摯に付き合う
第45回 金相場と為替
第44回 うわさで買って、事実で売る
第43回 原油相場と為替
第42回 金利差拡大ならお金は金利の高い国へ
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第40回 米国、なぜドル高にこだわるのか?
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為替情報部 アナリスト

金 星

中国出身。横浜国立大学大学院卒業後、国内商品先物会社に入社。 外国為替証拠金取引会社へ出向し、カバーディール業務に携わりながら市況サービスも担当。 2013年にDZHフィナンシャルリサーチに入社。

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