トランプ政権発足後、ドル安進行
トランプ氏が米大統領に返り咲き、世界に関税を乱発しました。トランプ関税不安でドルが全面安となりました。貿易赤字を改善したいトランプ政権にとっては、ドル安は都合がよいという見方は成り立ちます。トランプ氏はこれまで一貫してドル高を嫌い、ドル安を歓迎してきました。ドル安は、米国からの輸出を押し上げて、輸入を減らしていくという考え方からです。
ただ、ドル安については、「良いドル安」と「悪いドル安」の2種類があります。
悪いドル安
「良いドル安」とは、米連邦準備制度理事会(FRB)の利下げによってドルは下落し、米国経済は成長につながっていくケースであります。金融緩和が為替レートの減価を通じて、輸出増というかたちで成長を支援すると言うことです。国内生産能力に余剰があってドル安が進むと、海外の輸入相手国からは米製品が割安になることで輸入量を増やしたくなります。
ただ、最近のドル安はわけが違います。FRBが利下げ姿勢を強めると、インフレが加速して個人消費は減速します。成長加速につながるドル安ではなく、インフレによって成長悪化が予想され、その悪循環によるドル安であります。「悪いドル安」と言えるでしょう。
「悪いドル安」を引き起こしている要因はほかならずトランプ関税です。トランプ政権の関税方針がコストプッシュ圧力を生み出し、インフレ圧力を強めており、スタグフレーションの懸念を高めています。政権がまず目指すべきなのは貿易赤字の解消ではなく、経済成長です。
トランプ氏の政権下で、皮肉にも米影響力低下
トランプ氏は第1次政権時も第2政権時も米国ファストを謳い、強い米国に戻すと語っているが、実際には同氏の政権下で米国の影響力の低下、米国離れが進んでいます。
これまでの米国株式市場は別格とみなされてきた「例外主義」は終わったとの見方が出ています。全世界株式に占める米国の時価総額が70%に達するという異常な集中が是正され、欧州やアジア、フロンティア市場など複数の市場に資金が移動する時代を迎えたとの声が聞こえます。「特定の市場に集中するのではなく、分散投資が重要だ」との認識が高まっています。
「米国離れ」によって、割高になった米ドルの是正としてのドル安が進みやすい環境にあり、ドルが弱含むときに活躍してきた新興国市場にチャンスが広がる可能性があります。
世界の中銀、金の保有比率増加を予想 ドルの比率減少
金の上昇が続いているが、世界の中央銀行は今後5年間で準備資産に占める金の比率が増え、ドルの比率が減るとの見方が出ています。国際調査機関ワールド・ゴールド・カウンシル(WGC)の調査によると、5年後にドル建ての準備が減少していると予想した中銀は、全体の75%近くに達し、昨年の62%から増加しました。
今後のドル円
今のところ米長期金利が高止まりしているが、金利水準に見合ったほどドル高にはなっていません。今は「悪い長期金利上昇」とみる向きが多いです。トランプ政権の財政運営が健全だと見られていないことは、たとえ長期金利が上昇したとしても、米長期国債を買ってよいという評価につながりにくく、ドル安圧力は続いています。
潜在的な円安圧力も根強く残されており、円よりユーロの方がより買われていますが、緩やかな円高圧力が生じています。トランプ関税は米国に対する政治リスクが大きいことを各国の投資家に印象づけて、ドル保有を徐々に減らしていく流れをつくる可能性があります。
トランプ政権ではインフレで実体経済が弱くなり、長期金利上昇で住宅投資や不動産投資も減退していくから、それに応じてドルも弱くなっていくことが予想されます。これは、米国への投資機会をも減らし、ドル需要を減退させていくことになります。