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第150回 悪いドル安

トランプ政権発足後、ドル安進行

トランプ氏が米大統領に返り咲き、世界に関税を乱発しました。トランプ関税不安でドルが全面安となりました。貿易赤字を改善したいトランプ政権にとっては、ドル安は都合がよいという見方は成り立ちます。トランプ氏はこれまで一貫してドル高を嫌い、ドル安を歓迎してきました。ドル安は、米国からの輸出を押し上げて、輸入を減らしていくという考え方からです。

 

ただ、ドル安については、「良いドル安」と「悪いドル安」の2種類があります。

 

悪いドル安

「良いドル安」とは、米連邦準備制度理事会(FRB)の利下げによってドルは下落し、米国経済は成長につながっていくケースであります。金融緩和が為替レートの減価を通じて、輸出増というかたちで成長を支援すると言うことです。国内生産能力に余剰があってドル安が進むと、海外の輸入相手国からは米製品が割安になることで輸入量を増やしたくなります。

 

ただ、最近のドル安はわけが違います。FRBが利下げ姿勢を強めると、インフレが加速して個人消費は減速します。成長加速につながるドル安ではなく、インフレによって成長悪化が予想され、その悪循環によるドル安であります。「悪いドル安」と言えるでしょう。

 

「悪いドル安」を引き起こしている要因はほかならずトランプ関税です。トランプ政権の関税方針がコストプッシュ圧力を生み出し、インフレ圧力を強めており、スタグフレーションの懸念を高めています。政権がまず目指すべきなのは貿易赤字の解消ではなく、経済成長です。

 

トランプ氏の政権下で、皮肉にも米影響力低下

トランプ氏は第1次政権時も第2政権時も米国ファストを謳い、強い米国に戻すと語っているが、実際には同氏の政権下で米国の影響力の低下、米国離れが進んでいます。

 

これまでの米国株式市場は別格とみなされてきた「例外主義」は終わったとの見方が出ています。全世界株式に占める米国の時価総額が70%に達するという異常な集中が是正され、欧州やアジア、フロンティア市場など複数の市場に資金が移動する時代を迎えたとの声が聞こえます。「特定の市場に集中するのではなく、分散投資が重要だ」との認識が高まっています。

 

「米国離れ」によって、割高になった米ドルの是正としてのドル安が進みやすい環境にあり、ドルが弱含むときに活躍してきた新興国市場にチャンスが広がる可能性があります。

 

世界の中銀、金の保有比率増加を予想 ドルの比率減少

金の上昇が続いているが、世界の中央銀行は今後5年間で準備資産に占める金の比率が増え、ドルの比率が減るとの見方が出ています。国際調査機関ワールド・ゴールド・カウンシル(WGC)の調査によると、5年後にドル建ての準備が減少していると予想した中銀は、全体の75%近くに達し、昨年の62%から増加しました。

 

今後のドル円

今のところ米長期金利が高止まりしているが、金利水準に見合ったほどドル高にはなっていません。今は「悪い長期金利上昇」とみる向きが多いです。トランプ政権の財政運営が健全だと見られていないことは、たとえ長期金利が上昇したとしても、米長期国債を買ってよいという評価につながりにくく、ドル安圧力は続いています。

 

潜在的な円安圧力も根強く残されており、円よりユーロの方がより買われていますが、緩やかな円高圧力が生じています。トランプ関税は米国に対する政治リスクが大きいことを各国の投資家に印象づけて、ドル保有を徐々に減らしていく流れをつくる可能性があります。

 

トランプ政権ではインフレで実体経済が弱くなり、長期金利上昇で住宅投資や不動産投資も減退していくから、それに応じてドルも弱くなっていくことが予想されます。これは、米国への投資機会をも減らし、ドル需要を減退させていくことになります。

この連載の一覧
第150回 悪いドル安
第149回 FX、マイルールを徹底
第148回 FX詐欺の手口
第147回 信認低下のドル、売り圧力が継続
第146回 半導体を制するものが世界を制する
第145回 米中会談、過度な期待は禁物
第144回 加ドル、米加首脳会談に注目
第143回 日米協議、円安是正に一安心も警戒残る
第142回 関税方針、トランプ氏の正念場
第141回 トランプ氏の脅かし、中国には通用しない
第140回 トランプ関税、ポンド相場への影響
第139回 RBA、追加利下げは5月か
第138回 英中銀、慎重な利下げペース維持
第137回 ドイツの大規模な財政拡大策
第136回 中国、今年GDP成長目標を5%前後に
第135回 米消費者信頼感指数、消費鈍化を示唆
第134回 リーダー不在のEU
第133回 各国中銀の利下げも、トランプ関税効果を薄めるか
第132回 円と加ドル、IMMポジションの変化
第131回 FX取引、投資詐欺に注意
第130回 FX、リスクも把握した上で取引を
第129回 トランプ氏VS中国
第128回 トランプトレードはいつまで続くか
第127回 ポジションの手仕舞い
第126回 今年最後の日米金融政策会合
第125回 中国景気、改善傾向もトランプリスク高まる
第124回 尹韓国大統領の戒厳令騒動
第123回 ポジションの管理
第122回 ドル円、160円台復帰はあるか
第121回 AI・FX取引
第120回 FX取引はギャンブルなのか
第119回 FXの確定申告
第118回 元キャリートレードの復活に注意
第117回 ドル円 8/1以来の150円台
第116回 ポンド、雇用・物価データの見極め
第115回 中国、景気支援策を強化
第114回 自民党総裁選、サプライズの結果に
第113回 景気回復が鈍いままの中国経済
第112回 最近の円相場、スキャルピング手法が有利か
第111回 最近主要国の金融政策(4)
第110回 最近主要国の金融政策(3)
第109回 最近主要国の金融政策(2)
第108回 最近主要国の金融政策(1)
第107回 投機筋、2週間以内での勝負多い
第106回 トランプVSハリス
第105回 来週の日銀会合、利上げは?
第104回 イベント・材料の認識から消化まで
第103回 経済指標の基本知識
第102回 勝つために情報本質の見極めは大事
第101回 押し目買いの罠
第100回 円安・円高の影響
第99回 円キャリートレードは正念場
第98回 ドル・ブル=ドル買いではない
第97回 ドル円 200円になったら
第96回 デイトレードの基本は順張り
第95回 ドル円、どこに向かうのか
第94回 FX、初心者に多い失敗例
第93回 本間宗久が残した相場の極意
第92回 基軸通貨のドル、強い
第91回 外国為替相場制度
第90回 米長期金利とドル円
第89回 RBNZ政策金利とNZドル円
第88回 日銀、利上げに踏み切るも円安
第87回 日本、「金利のある世界」に向かう
第86回 豪中銀と政策金利
第85回 トランプ氏の再選リスク
第84回 加中銀とその金融政策
第83回 英中銀とMPC
第82回 ECBと理事会
第81回 FRB 、FOMC
第80回 人民元の基準値
第79回 円キャリートレード
第78回 日銀、1月会合でマイナス金利解除を見送るか
第77回 ドル円 ゆく年くる年(2)
第76回 ドル円 ゆく年くる年(1)
第75回 ポジションの偏り
第74回 ユーロ圏、厳しい財政ルール
第73回 米国の双子の赤字、ドル相場への影響は?
第72回 日本の貿易収支
第71回 国際収支と為替(2)
第70回 国際収支と為替(1)
第69回 円買い介入警戒感が続く
第68回 FXにも山・谷がある
第67回 FX、時間軸視点も大切
第66回 PPPよりかなりの円安
第65回 購買力平価説
第64回 米大統領選とドル相場
第63回 円の実質実効為替レート、50年ぶりの低水準
第62回 実質実効為替レート、通貨の強弱が分かる
第61回 FX取引には時間・季節も影響
第60回 プロと素人
第59回 相場に入る・離れるタイミング
第58回 FX、成功する人・失敗する人
第57回 外貨預金にも使えるFX取引
第56回 FXトレードスタイル(3)
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第43回 原油相場と為替
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第39回 景気と為替相場
第38回 先物市場で投機筋の動きを把握
第37回 米SVB経営破綻の為替相場への影響
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第34回 為替レートの安定は為替ディーラーに不利なのか?
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第32回 注目度の高い米雇用統計
第31回 リスクオン・リスクオフ取引
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【FX、やるならお得に】第2回 そもそも為替って何?
【FX、やるならお得に】第1回 敵知らずして勝利なし!

為替情報部 アナリスト

金 星

中国出身。横浜国立大学大学院卒業後、国内商品先物会社に入社。 外国為替証拠金取引会社へ出向し、カバーディール業務に携わりながら市況サービスも担当。 2013年にDZHフィナンシャルリサーチに入社。

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