トランプ第2次米政権がスタートし、欧州連合(EU)との関税合戦への警戒感が高まり、ウクライナ停戦をめぐってもEUは溝が深いトランプ政権との交渉が求められるなど、欧州の結束が求められる状況だが、ドイツ政治不安の長期化によりEUはリーダー不在で、欧州全体で政治不安と経済低迷が長期化するリスクがあります。
ドイツ、約20年ぶりに前倒し総選挙
23日にドイツで連邦議会(下院)選挙が実施されます。もともと同選挙は任期満了に伴い、今年9月に行われる予定でした。しかしながら、昨年末に財政政策をめぐって社会民主党(SPD)のショルツ首相と自由民主党(FDP)のリントナー前財務大臣が対立した結果、FDPが離脱する形で三党(SPD、FDP、緑の党)連立政権が崩壊しました。その後に行われたショルツ首相の信任投票が反対多数で否決されたことを受けて、シュタインマイヤー大統領は議会を解散し、前倒しで総選挙を実施することを決定しました。
任期中の前倒し総選挙は2005年に当時のシュレーダー政権下で行われて以来、約20年ぶりのこととなります。選挙は小選挙区比例代表併用制のもと、630の定数議席を争う形で行われる。欧州一の経済大国であるドイツの選挙結果は、同国のみならず欧州全体の政治・経済情勢を左右する極めて重要なイベントとなります。
総選挙の行方
最近の政党別支持率の傾向を見ると、与党の SPDや緑の党、11月に政権から離脱したFDPは支持率を低下させる一方で、前回2021年9月の選挙で野党に転じたキリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)が支持率を回復させています。また、極右政党「ドイツのための選択肢」(AfD)が支持率を上昇させているほか、2024年1月に左翼党から分派した左派ポピュリズム政党の「ザーラ・ワーゲンクネヒト同盟」(BSW)も一定の支持を得ています。2025年2月14日時点の政党別支持率を見ると、CDU/CSU(中道右派)が最も高い30%で、次いでAfD(極右)が20%、SPD(中道左派)が16%、緑の党が14%、左翼党(左派)が7%、FDP(リベラル)が4%、BSW(左派ポピュリズム)が4%と続いています。
現状では、現野党のCDU/CSUが勝利するものの、過半数の議席を確保するためには他党と連立を組む必要があります。重要なのは連立パートナーが誰になるかだが、まず各政党は議席を確保するために5%以上の票を得る必要があります。
焦点は経済の立て直し
選挙後に成立する次期政権は、低迷が続く経済の立て直しに注力するとみられます。足元のドイツ経済は他の欧州諸国と比較しても低迷が目立っており、昨年の実質GDP成長率は前年比▲0.2%(2023年:同▲0.3%)と、2年連続でマイナス成長を記録しました。
世論調査では、「移民」と「経済」を挙げる有権者の割合がほぼ同率で高くなっています。いずれの党も、減税等による電力コスト引き下げのほか、法人減税や基金を通じた投資促進による競争力向上を図ることを主張していますが、ドイツでは国債による借り入れを原則として名目GDPの0.35%以内に抑えるよう憲法で定められており、大規模な財政出動による景気刺激策を打つことが難しいです。
選挙後も経済の力強い回復は望み薄か
選挙後はCDU/CSU中心の政権に変わる見込みであるが、当面経済の低迷は続くと予想されます。要因としては連立政権になる可能性が高いこと、各政党が公約に掲げている経済対策がその規模や実現可能性の面から力強い成長を期待できないこと、現在景気低迷の諸課題が性質上短期的な解決が難しいことなどが挙げられます。
リーダー不在の欧州は政治不安・経済停滞の長期化に懸念
ドイツの政治不安と経済の停滞が続くことは、同国のみならず欧州全体にとってもマイナスとなります。欧州最大の経済大国であるドイツの政治的影響力が低下している状況では、EU各国の意見がまとまらず機動的な対応ができなかったり、結果として域内の分断が深まったりする懸念があります。トランプ氏の米国大統領就任という極めて重要な局面で、リーダー不在の欧州は内憂外患の状況に置かれており、EU全体として政治の不安定と経済の低迷が長期化することが懸念されます。