経常収支の動向
2000年代前半までは、経常収支黒字を支えていたのは貿易収支の黒字でした。リーマン・ショックを経て2000年代後半以降は、貿易黒字よりも第一次所得収支の黒字によって、経常収支の黒字が支えられました。すなわち、我が国経済は国内で生産しそれを輸出することで稼ぐという構造から、海外拠点の売上によって得られた利益の一部を我が国に還元することで稼ぐ構造へと変化しました。
貿易収支の動向
日本の貿易収支はバブル期をはさむ1980年代から1990年代までは他国を上回る大きなプラス(黒字)を記しており、この時期、世界最大の貿易黒字国だったことを示しました。1980年代末に日米貿易不均衡の是正を目的にはじまった日米構造協議の結果、内需拡大の掛け声の下、バブル崩壊後に景気浮揚策として公共事業がかってないほど増やされ、その後の膨大な国の債務拡大につながりました。
日本の貿易収支は、東日本大震災・福島第一原発事故が起った2011年に天然ガスの大量輸入によってマイナスに転じて以降、マイナス幅が拡大しました。その後、2015年から回復に向かい、2016年には再度黒字化したが、その後は低下に転じ2022年には大幅な赤字となりました。2022年の大幅赤字はロシアのウクライナ侵攻で原油などの資源価格が上昇、円安の影響が重なり、輸入額が大きく増えたのが大きな要因となっています。
先進国の中では、米国がかなり以前から大きな貿易赤字が継続・拡大しているのに加え、英国、フランスが相次いで日本が貿易赤字国として目立つようになりました。
2022年度貿易赤字は過去最大に
2022年の貿易収支は21兆7284億円の赤字です。貿易赤字は2年連続で、赤字幅は過去最大となりました。ロシアによるウクライナ侵攻によって火力発電などに使う石炭や天然ガスの資源価格が世界的に高騰し、輸入額が膨らんだのです。21年度から進んだ円安も響きました。
輸出は21年度比15.5%増の99兆2264億円、輸入は32.25%増の120兆9549億円となり、輸出・輸入とも過去最高を記録しました。輸入増は資源価格の高騰に円安が拍車を掛ける格好となりました。円の対ドル相場は21年度平均の1ドル=111円91銭から、22年度は135円05銭と大幅な円安に振れました。
2023年度の貿易収支
6月の貿易統計は430億円増と、実に23カ月ぶりの黒字に転じました。もっとも、上半期を終えたところでの貿易赤字は約7兆円で、前年同期の約8兆円を1兆円程度下回る程度にとどまり、7・8月は再び赤字に転じました。円安のトレンドが続くなか、今年も貿易収支は大幅な赤字が見込まれます。
巨額貿易赤字も円安要因
東日本大震災以降、資源輸入国である日本の貿易収支の脆弱性を高め、円安や資源価格上昇によって需給が崩れやすい(貿易赤字が拡大しやすい)体質になりました。
円安で日本から海外への輸出数量が押し上げられるならば、貿易収支が一方的な悪化を強いられることもなく、2022年のような「悪い円安」論も噴出しにくいです。円安を起点として実体経済に好循環をもたらすことが期待される製造業の生産拠点が日本から消えてしまったことが、円の需給構造が円売りに傾斜しやすくなった根本的な原因とも考えられます。
貿易赤字の拡大は、円売りの実需が増えることで円安バイアスがかかりやすいです。輸入物価上昇を受けて消費者物価指数(CPI)の上昇が長期化すれば、物価上昇局面の短期収束を想定している日銀にとって「不都合な物価上昇」が継続する可能性もあります。物価上昇圧力の高まりと景気失速懸念が併存すれば、金融政策運営が困難になるからです。