10・11日に米中閣僚級の会談
10・11日に米国のベッセント財務長官とグリア通商代表はスイスで中国の何副首相と会談する予定です。双方は経済や貿易問題について協議すると見られています。何副首相は9-12日にかけてスイスを訪問し、12-16日にフランスで第10回中仏ハイレベル経済・財政金融対話をフランス側と共同で主宰する予定です。
トランプ米大統領は週末の米中高官協議は「極めて友好的なものになる」と述べ、米国が関税を引き下げることで緊張緩和に向けて動く可能性があることを示唆しました。
過度な期待は禁物
週末の米中閣僚級の会談は両国の関税合戦がエスカレートしてから初めて行うということや、米国との交渉で初めて英国が先陣を切って合意に至ったことから、米中協議への期待感が高まっているが、過度な期待は禁物です。英国は交渉国の中でも難易度がかなり低く、合意は既定路線でもあったが、中国とは勝手が違います。
まず、米国にとって中国は「覇権争い」の競争相手であり、対中デカップリング(分断)が目標であり、中国に求めるものは他国と違います。また、大国である米国のいじめに対しある程度は受け入れるのもしょうがないと思っている国と違って、中国は「対等」を強調しています。この「対等」は決して建前ではなく、「協議の基」としており、トランプ米政権が望むディールを中国から引き出すことは至難の業です。
焦っているのはトランプ米大統領
市場では米中のどちらが関税合戦の勝者になるか、意見が分かれています。トランプ米政権にとって中国がそこまで徹底抗戦に出たのは想定外です。対中関税が145%まで引き上げられた以降、中国は関税をこれ以上引き上げられてももう付き合わないと無視する姿勢を示しました。
特にトランプ関税がもたらした不確実性に市場が「米国売り」を示したのは、間違いなくトランプ米大統領に大きな打撃となりました。トランプ氏はメンツを保つために「中国の習中国国家主席から電話があった」とか「中国と交渉している」とか、如何にもご自身が有利な立場であることを強調したが、明らかに対中の強硬姿勢に変化がありました。市場の反応や米国民の不満の高まりで、焦っているのはトランプ米大統領です。
中国の方針は明確
中国も当然ながら景気に悪影響を与える関税合戦は避けたいし、米国との貿易摩擦の激化は望んでいません。ただ、米国の対中戦略に対し中国の方針はトランプ氏の第1次政権時と変わらず明確です。
つまり、中国の主権に関わるもの、内政干渉に当たるものに関しては決して受け入れないことです。
中国、徹底抗戦は国民が後押し
関税合戦は中国経済に深刻な打撃を与えるのは言うまでもなく、関税が死活問題になっている企業は関係者の不満は大きいものの、国民の多くは「全ての責任は関税を仕掛けた米国にある」と、大義の前では個人的な恨みを捨て、断固として自国側に立っています。これは、中国国民が受けてきた教育であり、中国人の核心的価値観でもあります。
米国との貿易戦争がエスカレートし国民の生活が苦しくなっても、多くの国民は米国と徹底的に戦おうとするでしょう。中国当局が自信満々に「天は崩れない」と叫べるのは、国民の後押しがあるからです。
米中協議、今後の展開
貿易がほぼ成り立たない水準まで上がっている関税の是正は両国とも望んでいることで、週末の閣僚級の会談で実質的な結果が出なくても、今後協議を続けることになる可能性は高いでしょう。
今後の協議で、関税は50%程度若しくはそれ以下まで下がる可能性は十分あり得るが、中国としては「米国が関税を50%引き下げたら、中国も対米関税を50%引き下げる」程度の対応で、他のところでは米国の譲歩に応じる可能性は低いです。
早くもトランプ米大統領は中国との貿易と関税を巡る「交渉の一環」として、香港国家安全維持法(国安法)違反で収監中の民主活動家、黎智英氏の件を取り上げるとの話が出ているが、協議でこの問題を持ち出せば中国が態度を硬化させる可能性が高いでしょう。