購買力平価説
購買力平価説(purchasing power parity、PPP)とは、外国為替レートの決定要因を説明する概念の一つ。為替レートは自国通貨と外国通貨の購買力の比率によって決定されるという説であります。PPPは、長期的な2国間の通貨の為替レートは同一商品とサービスのバスケットの価格と等しくなるレートに向かうという概念です。
1921年にスウェーデンの経済学者、グスタフ・カッセルが『外国為替の購買力平価説』として発表しました。
絶対的購買力平価説
絶対的購買力平価説は、為替レートは2国間の通貨の購買力によって決定されるという説です。
具体的には、たとえば米国では1ドルで買えるハンバーガーが日本では100円で買えるとするとき、1ドルと100円では同じものが買える(つまり1ドルと100円の購買力は等しい)ので、為替レートは1ドル=100円が妥当だという考え方です。しかし、この説が成立するにはすべての財やサービスが自由に貿易されなければなりませんから、厳密には成り立たないことになります。
購買力平価=(1海外通貨単位[基軸通貨であるドルが使われることが多い]あたりの円貨額[やその他の海外通貨]で表示した)均衡為替相場=日本での価格(円)÷日本国外(米国)での価格(現地通貨)
これが厳密に成立するにはすべての財やサービスが自由に貿易されねばなりません。
実際には、為替相場が厳密に購買力平価の状態になっていて、かつ2つの貨幣による経済のインフレーション、デフレーションなどがそのまま為替相場に反映され購買力平価の状態が保たれるということはないと考えられています。為替相場は購買力の他にも様々な要因によって影響されるためであります。但し、購買力平価から大きく乖離した状態が長期的に続くことは難しいと考えられます。
相対的購買力平価説
相対的購買力平価説は、為替レートは2国間の物価上昇率の比で決定されるという説です。具体的には、ある国の物価上昇率が他の国より相対的に高い場合、その国の通貨価値は減価するため、為替レートは下落するという考え方です。しかしながら、この説もすべての財やサービスが同じ割合で変動することを前提としているため、厳密には成り立たないことになります。
S国の相対的購買力平価=基準時点の為替相場×S国の物価指数÷S国国外の物価指数
基準時点については、(日米間の場合)日米ともに経常収支が均衡し、政治的圧力も無く自然に為替取引が行われていた1973年(特に4-6月期の平均=1ドル265円)が選ばれています。
これが厳密に成立するには全ての財・サービスが同じ割合で変動しなければなりません。
購買力平価のパズル
購買力平価のパズルとは、購買力平価から示唆される実質為替レートと実際の為替レートの間の乖離が長期間にわたって継続することを指し、これに対して様々な説明が与えられています。
購買力平価のパズルは、相対的購買力平価説は「長期でしか」成立しないと力説しています。経済学者のケネス・ロゴフは、価格水準の比として計算された実質為替レートが実際に為替レートに反映されるのに3-4年を要していることを発見し、価格水準の硬直性を加味しても調整期間が長すぎることを指摘しました。
OECD統計の相対的物価水準
※2022年9月時点で日本を100として換算したものです。
絶対的購買力平価説も相対的購買力平価説も現実の市場では厳密には成り立たないことになりますが、為替レートの決定理論としては優れた説で、昔から研究が続いています。