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第66回 PPPよりかなりの円安

ドル円はPPPより3割強の円安

為替レートは金利差、貿易・経常収支、潜在的な経済力などの多様な要因によって変動します。最近のドル円は150円台まで上昇するなど、日米金利差の拡大を背景にドル高・円安が進んでいます。

 

最近では円の価値がかなり安くなっていると実感する人が多いでしょう。それもそのはずで、OECDが算出する購買力平価(PPP)よりドル円は3割強円安方向で推移しているからです。

 

長期的な為替レートの水準を考える際にはPPPを参照することが一般的であり、PPPは「為替レートは異なる通貨の購買力が等しくなるように決定される」とし、「一物一価」が成り立つことを前提にしています。

 

主要先進国通貨における市場実勢レートとPPPの大幅な乖離は2-3年しか持続しない傾向にあります。先進国通貨としての日本円のポジションが不変である場合、ドル円レートは2024-2025年にかけて120円近辺まで円高が進行する可能性があります。ただ、日本円が先進国通貨としての位置づけを保てない場合、足下のドル円水準が中長期的にも維持されるリスクもあります。

 

PPPと実勢レートの乖離要因

●貿易・輸送コストの存在

●貿易が生じないサービス消費の存在

●各国間の消費バスケットの違いなど。

基本的に先進国の製造業の生産性が新興国を上回るため、先進国の物価水準が相対的に高くなり、結果的に先進国通貨の実勢レートはPPPよりも通貨高、新興国通貨の実勢レートはPPPよりも通貨安の傾向があります。

 

円安でも日本の輸出は増えていない

円安になると、ドル建ての労働コストが割安になります。労働コストが下がると、労働集約的な商品が割安になって輸出が増えるはずですが、日本経済は円安局面になっても輸出は拡大していません。労働コストが安くなっても、貿易収支が改善しないことは、輸出産業の足腰が弱体化していることが示されています。

 

日本の実質賃金は2000年から低下が進んでいます。物価以上に賃金水準が切り下がっており、為替レートの影響も加算するとドル建ての日本人の賃金は最近かなり低下しています。

 

これまで対ドルレートがPPPより2割強下落した主要通貨

1973-77年のポンドを除けば、これまでPPPと実勢レートの乖離は長くても2-3年しか持続せず、実勢レートがPPPに回帰しています。

 

これからの円は?

これまでの先進国通貨の動きをみると、2024-25年にかけてドル円のレートは円高への方向に動くことが期待できます。この動きになるには、FRBの金融引き締め長期化懸念の後退や日本の金融政策正常化による日米金利差の縮小が大きなカギになるのは間違いありません。また、エネルギー価格の下落やインバウンド消費拡大による貿易・サービス収支の改善などの影響もあるでしょう。

この連載の一覧
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第92回 基軸通貨のドル、強い
第91回 外国為替相場制度
第90回 米長期金利とドル円
第89回 RBNZ政策金利とNZドル円
第88回 日銀、利上げに踏み切るも円安
第87回 日本、「金利のある世界」に向かう
第86回 豪中銀と政策金利
第85回 トランプ氏の再選リスク
第84回 加中銀とその金融政策
第83回 英中銀とMPC
第82回 ECBと理事会
第81回 FRB 、FOMC
第80回 人民元の基準値
第79回 円キャリートレード
第78回 日銀、1月会合でマイナス金利解除を見送るか
第77回 ドル円 ゆく年くる年(2)
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第75回 ポジションの偏り
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第73回 米国の双子の赤字、ドル相場への影響は?
第72回 日本の貿易収支
第71回 国際収支と為替(2)
第70回 国際収支と為替(1)
第69回 円買い介入警戒感が続く
第68回 FXにも山・谷がある
第67回 FX、時間軸視点も大切
第66回 PPPよりかなりの円安
第65回 購買力平価説
第64回 米大統領選とドル相場
第63回 円の実質実効為替レート、50年ぶりの低水準
第62回 実質実効為替レート、通貨の強弱が分かる
第61回 FX取引には時間・季節も影響
第60回 プロと素人
第59回 相場に入る・離れるタイミング
第58回 FX、成功する人・失敗する人
第57回 外貨預金にも使えるFX取引
第56回 FXトレードスタイル(3)
第55回 FXトレードスタイル(2)
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第52回 FX相場の軸足
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為替情報部 アナリスト

金 星

中国出身。横浜国立大学大学院卒業後、国内商品先物会社に入社。 外国為替証拠金取引会社へ出向し、カバーディール業務に携わりながら市況サービスも担当。 2013年にDZHフィナンシャルリサーチに入社。

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