美人投票
為替市場の1日取引量は何兆円と非常に大きく、政府や中銀でも思うように為替レートを動かすことはできません。
前回、為替需要について説明しましたが、その為替需要や為替レートを決めるのは結局、市場参加者の多くの一致した意見や総意であります。つまり、ケインズの「美人投票」理論が為替相場の変動にも当てはまるということです。
「美時投票」とは、英国の有名な経済学者が玄人筋の行う投資は「100枚の写真の中から最も美人だと思う人に投票してもらい、最も投票が多かった人に投票した人達に賞品を与える新聞投票」に見立てることができるとし、この場合「投票者は自分自身が美人だと思う人へ投票するのではなく、平均的に美人だと思われる人へ投票するようになる」としたことです。
これを金融市場に当てはめると、基本的にはファンダメンタルズが反映され適正な値段として反映されるはずだが、その時々の投資対象に対する風評や先行きの期待感・失望感、あるいは需給関係などによって動く要素が多いです。すなわち、自分以外の多くの人々の人気投票の結果が価格であるという意味であります。
為替取引では、為替レートの先行きを当てるという賞品を得るためには、自分の考えを押し通すのではなく、ほかの多くの参加者(大勢力)がどのように考え、どのように行動するかを推測することが大事であることを意味します。
多くの参加者の動きが重要で、その参加者達が注目する内容や情報が非常に大きなポイントとなり、為替レートの「テーマ」であります。
テーマは時代とともに変わる
テーマはその時と場合によって大きく異なります。
●1970年代後半は米国の貿易収支が最大のテーマ
米国の貿易赤字拡大がドル安につながるとの見方が強かったです。それで、カーター米大統領は政策金利の引き上げや協調介入の強化などのドル防衛策を発表し、ドルが大きく買い戻されました。
●1980年代は米国の貿易赤字と財政赤字という「双子の赤字」がテーマ
1985年に先進5カ国 (G5) 蔵相・中央銀行総裁による為替レートの安定化を図る「プラザ合意」が行われました。主な合意内容は、各国の外国為替市場の協調介入によりドル高を是正し米国の貿易赤字を削減することで、米国の輸出競争力を高める狙いもありました。ドル円は230円台から「プラザ合意」1年後には150円台まで下落しました。
●1990年代は欧州、中南米、アジア、ロシアなどで通貨危機
1997年のアジア通貨危機は、タイの銀行破綻をきっかけに東南アジアや韓国の自国通貨が暴落しました。介入で外貨準備が底をつき、国際通貨基金(IMF)から資金の援助を受けました。
●2000年代に入り、各国の金融政策がテーマに
2008年リーマンショック後、米国が日本に先んじて量的金融緩和を積極化させ、2011年10月にドル円は過去最安値となる75.32円まで下落し増しました。
今年に入っては米国を筆頭に世界各国が金融引き締めを強める中、日銀は金融緩和策を維持し、ドル円は24年ぶりの高値となる145円手前まで上昇しています。
※同じテーマが半年-1年ぐらい続くと、市場参加者は別のテーマを探し出そうとします。別のテーマとして何が有力候補になるかを考えるのは為替レートの先行きを考える上で重要です。