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第99回 円キャリートレードは正念場

円キャリートレード

円キャリー取引は「円借り取引」とも呼ばれ、円資金を借入れて相場商品や証券など一般には金融資産を保有し、一定期間後に資産を売却しその売却対価によって、資金を付利して返済し、差額により利益を得ようとすることであります。FXでは金利の高い通貨の買い・円売りでスワップポイントを狙う取引です。

円キャリートレードは依然活発


メキシコの選挙など新興国政治リスクで円キャリートレードの逆流が杞憂されたが、依然として円キャリートレードは人気です。今年に日銀の金融政策正常化が進むということで、円キャリートレードの巻き戻しを警戒する声も少なくなかったが、日本と海外との金利差は依然として大きく、外国為替市場で存在感が高い日本の個人投資家は円売りポジションを堅持しています。

 

日本の個人投資家は世界のFX取引のおよそ3割を占めるといわれています。円安・ドル高によってキャリートレードの魅力は増しており、過去1年間のトータルリターンは18%に達しています。当面は円キャリートレーダーと行き過ぎに見える円安進行に歯止めをかけようと躍起になっているとみられる日本当局との激しい攻防が続く可能性があります。

 

円キャリートレードは正念場

今週、米連邦公開市場委員会(FOMC)では年内の利下げ予想を3回から1回に修正され、日銀金融政策決定会合では政策金利を据え置きと国債購入の減額方針を決定しました。また、植田日銀総裁はデータ次第ではあるものの、「7月会合での利上げの可能性」を示唆しました。

 

米連邦準備制度理事会(FRB)の利下げと日銀の追加利上げが今後のメインシナリオではあるが、どちらも不確実性が強いです。FRBの高い金利水準の長期化と日銀の追加利上げへの慎重さへの警戒感が根強く、円キャリートレードの活発化が続く可能性があります。ただ、FRBの利下げと日銀の追加利上げ観測が強まれば、円売りの勢いは鈍り、円キャリートレードの逆流が杞憂されます。円の先安観は根強いものの、円を取り巻く環境は不安定である点は意識しておきたいです。

 

金利差だけを目当てにすると大変

6月7日時点でFX業者が公表した、トルコリラ円の5月の1日当たりの平均スワップポイント(1万トルコリラの買い持ち)は3円-38円超と大きく差がついています。これはスワップポイントを売りにしている業者の戦略やトルコの不安定な金融環境などが背景にあります。

 

現時点でトルコの政策金利は50.0%であり、円との金利差は49.9%でもあり、トルコリラを買い持ちする場合、高い金利差を受け取れるわけです。この高いスワップポイントを売りに口座開設を歌うFX業者も少なくありませんが、政治・金融に不安定な新興国通貨の取引に安易に手を出すと大変なことになる可能性があります。


トルコリラ円は2015年1月に50円台だったのに今は4円台での取引になっており、10年弱でトルコリラの価値は10分の1以下に低下しています。つまり、2015年1月に1万トルコリラ円を買い持ち(トルコリラ買い・円売り)して現在に至ると、45万円以上の含み損が出るわけです。いくらスワップポイントが高いとはいえ、この含み損をカバーするには大きく及びません。高い金利だけを目当てに取引をすると大変なことになります。

この連載の一覧
第100回 円安・円高の影響
第99回 円キャリートレードは正念場
第98回 ドル・ブル=ドル買いではない
第97回 ドル円 200円になったら
第96回 デイトレードの基本は順張り
第95回 ドル円、どこに向かうのか
第94回 FX、初心者に多い失敗例
第93回 本間宗久が残した相場の極意
第92回 基軸通貨のドル、強い
第91回 外国為替相場制度
第90回 米長期金利とドル円
第89回 RBNZ政策金利とNZドル円
第88回 日銀、利上げに踏み切るも円安
第87回 日本、「金利のある世界」に向かう
第86回 豪中銀と政策金利
第85回 トランプ氏の再選リスク
第84回 加中銀とその金融政策
第83回 英中銀とMPC
第82回 ECBと理事会
第81回 FRB 、FOMC
第80回 人民元の基準値
第79回 円キャリートレード
第78回 日銀、1月会合でマイナス金利解除を見送るか
第77回 ドル円 ゆく年くる年(2)
第76回 ドル円 ゆく年くる年(1)
第75回 ポジションの偏り
第74回 ユーロ圏、厳しい財政ルール
第73回 米国の双子の赤字、ドル相場への影響は?
第72回 日本の貿易収支
第71回 国際収支と為替(2)
第70回 国際収支と為替(1)
第69回 円買い介入警戒感が続く
第68回 FXにも山・谷がある
第67回 FX、時間軸視点も大切
第66回 PPPよりかなりの円安
第65回 購買力平価説
第64回 米大統領選とドル相場
第63回 円の実質実効為替レート、50年ぶりの低水準
第62回 実質実効為替レート、通貨の強弱が分かる
第61回 FX取引には時間・季節も影響
第60回 プロと素人
第59回 相場に入る・離れるタイミング
第58回 FX、成功する人・失敗する人
第57回 外貨預金にも使えるFX取引
第56回 FXトレードスタイル(3)
第55回 FXトレードスタイル(2)
第54回 FXトレードスタイル(1)
第53回 近年の相場の軸足
第52回 FX相場の軸足
【第51回 ドル・ユーロ・円、3大通貨に注目】
【第50回 FX、取り組みのタイミング】
【第49回 大局観下でのアプローチ】
【第48回】大局観、身につけよう
【第47回】FX取引の投資資金
第46回 相場と真摯に付き合う
第45回 金相場と為替
第44回 うわさで買って、事実で売る
第43回 原油相場と為替
第42回 金利差拡大ならお金は金利の高い国へ
第41回 貿易収支と為替相場
第40回 米国、なぜドル高にこだわるのか?
第39回 景気と為替相場
第38回 先物市場で投機筋の動きを把握
第37回 米SVB経営破綻の為替相場への影響
第36回 インフレと為替
第35回 FX、最強の参加者は?
第34回 為替レートの安定は為替ディーラーに不利なのか?
第33回 FXの自動売買取引
第32回 注目度の高い米雇用統計
第31回 リスクオン・リスクオフ取引
第30回 注目度の高い経済指標
第29回 アフリカの人気通貨 南アフリカ・ランド
第28回 安全資産・逃避通貨のCHF
第27回 2023年の為替相場
【FX、やるならお得に】第26回 年末年始の取引に注意
【FX、やるならお得に】第25回 急落で魅力低下の高金利通貨(トルコリラ)
【FX、やるならお得に】第24回 多難も地位が上がりつつある通貨(人民元)
【FX、やるならお得に】第23回 NZドル、豪ドルに似た動き
【FX、やるならお得に】第22回 米国と結びつきが深い通貨(加ドル)
【FX、やるならお得に】第21回 資源国通貨(豪ドル)
【FX、やるならお得に】第20回 変動幅が大きい通貨(ポンド)
【FX、やるならお得に】第19回 取引量第3位(円)
【FX、やるならお得に】第18回 取引量が第2位の通貨(ユーロ)
【FX、やるならお得に】第17回 取引量が最も多い通貨(ドル)
【FX、やるならお得に】第16回 ファンダメンタルズ
【FX、やるならお得に】第15回 順張り・逆張り
【FX、やるならお得に】第14回 為替レートはテーマで動く
【FX、やるならお得に】第13回 為替の変動要因
【FX、やるならお得に】第12回 FXはゼロサムゲーム?
【FX、やるならお得に】第11回 FX取引の注文方法
【FX、やるならお得に】第10回 外国為替取引の中心はドル
【FX、やるならお得に】第9回 外国為替市場と為替レート
【FX、やるならお得に】第8回 FX取引で大事なこと
【FX、やるならお得に】第7回 スワップポイント
【FX、やるならお得に】第6回 FX、利益を得る仕組み
【FX、やるならお得に】第5回 買値、売値とスプレッド
【FX、やるならお得に】第4回 FXの「レバレッジ」
【FX、やるならお得に】第3回 まず「FX」のこと、ちゃんと理解しましょう
【FX、やるならお得に】第2回 そもそも為替って何?
【FX、やるならお得に】第1回 敵知らずして勝利なし!

為替情報部 アナリスト

金 星

中国出身。横浜国立大学大学院卒業後、国内商品先物会社に入社。 外国為替証拠金取引会社へ出向し、カバーディール業務に携わりながら市況サービスも担当。 2013年にDZHフィナンシャルリサーチに入社。

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