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第113回 景気回復が鈍いままの中国経済

8月の中国経済データ

●8月PMI

中国統計局が発表した8月製造業PMIは予想や前月を下回る49.1と4カ月連続で景気判断の分岐点50を割り込みました。一方、サービス業と建設業を含む非製造業PMIは50.3となり、前月の50.2から小幅上昇しました。

また、8月Caixin製造業購買担当者景気指数は50.4と予想や前月を上回った一方で、同Caixinサービス部門PMIは51.6と予想や前月を下回る結果となりました。

全体的に景気回復期待を強める結果にはなりませんでした。

●8月輸出入

中国税関総署が発表した8月の貿易統計によると、輸出は前年同月比8.7%増で5カ月連続のプラスとなりましたが、輸入は0.5%増にとどまりました。輸入が軟調であったことは中国の内需の低迷を裏付けています。一方で輸出は堅調で、幅広い国や地域で中国製品への需要が高かったことがうかがえます。但し、欧米の景況感指数に景気減速の兆しもあり、輸出の今後の動向には注意が必要です。

●8月CPI・PPI

8月消費者物価指数(CPI)は前年比+0.6%と前月の+0.5%から上昇するも予想に届きませんでした。また、8月生産者物価指数(PPI)は-1.8%と前月から予想以上に鈍化しました。8月のCPIの上昇は内需拡大ではなく、異常気象による食品価格の上昇が要因であり、デフレ懸念は払しょくされていません。

●8月鉱工業生産・小売売上高

8月鉱工業生産は前年比4.5%増加。伸び率は7月の5.1%から鈍化し3月以来の低水準となりました。また、小売売上高は夏の旅行シーズンのピークにもかかわらず2.1%増と7月の2.7%増から減速しました。

 

住宅センターの不調が中国経済の足かせ

引き続き住宅センター不調の長期化が中国経済の足かせとなっています。中国国家統計局が発表した全国70都市の8月の新築住宅(低・中所得者向け住宅「保障性住宅」を除く販売用住宅)価格は67都市が前月比で下落しました。住宅購入を促す支援策が各地で打ち出されるなかでも、価格の上向きは依然見られていません。


中国政府が住宅購入規制の一段の緩和を検討しているようです。当局は北京や上海などの「1線都市」について、戸籍による購入規制を緩和する方針で、1軒目と2軒目の購入に関する区別も撤廃する見通し。実現すれば、北京や上海の戸籍を持たない住民による住宅購入で不動産市場が回復に向かうと期待されます。また、2軒目の住宅購入者も1軒目と同様に、低い頭金比率や住宅ローン金利が適用されることになります。

 

大型の景気支援策に踏み切る可能性は低い

中国景気回復の鈍い状況が続いており、市場では中国の成長見通しを下方修正する動きが強まっています。米ゴールドマン・サックスとシティグループは2024年の中国の成長率予想を、政府の目標を下回る4.7%に引き下げました。ゴールドマンは中国当局が通年の経済成長目標(5%前後)を達成するのは難しく、緩和策の緊急性が高ったとし、シティは内需を刺激する大きな原動力がないと指摘しています。


市場では中国経済が8月も減速しており、さらなる景気刺激策への期待が高まっています。しかし、インフラ支出によって成長を押し上げようとすれば債務リスクを悪化させ、需要が低迷するなかでの過剰な国内投資はデフレ圧力を助長することになりますので、当局が大型の景気支援策に踏み切る可能性は低いと見られます。


中国人民銀行(中央銀行)の金融政策

中国人民銀行(中央銀行)は景気支援のために、7月に最優遇貸出金利の指標であるローンプライムレート(以下、LPR)の5年物を3.95%から3.85%に、1年物を3.45%から3.35%にそれぞれ0.10ポイント引き下げました。5年物は5カ月ぶり、1年は23年8月以来の11カ月ぶりとなります。

 

今週、米連邦準備理事会(FRB)が大幅利下げを決定したことを受けて、市場では人民銀が追加利下げに踏み切るとの見方が強まったが、据え置きを決定しました。ただ、市場は人民銀が近く利下げし、市中銀行が最優遇貸出金利を引き下げる可能性が高いと予想しています。

この連載の一覧
第113回 景気回復が鈍いままの中国経済
第112回 最近の円相場、スキャルピング手法が有利か
第111回 最近主要国の金融政策(4)
第110回 最近主要国の金融政策(3)
第109回 最近主要国の金融政策(2)
第108回 最近主要国の金融政策(1)
第107回 投機筋、2週間以内での勝負多い
第106回 トランプVSハリス
第105回 来週の日銀会合、利上げは?
第104回 イベント・材料の認識から消化まで
第103回 経済指標の基本知識
第102回 勝つために情報本質の見極めは大事
第101回 押し目買いの罠
第100回 円安・円高の影響
第99回 円キャリートレードは正念場
第98回 ドル・ブル=ドル買いではない
第97回 ドル円 200円になったら
第96回 デイトレードの基本は順張り
第95回 ドル円、どこに向かうのか
第94回 FX、初心者に多い失敗例
第93回 本間宗久が残した相場の極意
第92回 基軸通貨のドル、強い
第91回 外国為替相場制度
第90回 米長期金利とドル円
第89回 RBNZ政策金利とNZドル円
第88回 日銀、利上げに踏み切るも円安
第87回 日本、「金利のある世界」に向かう
第86回 豪中銀と政策金利
第85回 トランプ氏の再選リスク
第84回 加中銀とその金融政策
第83回 英中銀とMPC
第82回 ECBと理事会
第81回 FRB 、FOMC
第80回 人民元の基準値
第79回 円キャリートレード
第78回 日銀、1月会合でマイナス金利解除を見送るか
第77回 ドル円 ゆく年くる年(2)
第76回 ドル円 ゆく年くる年(1)
第75回 ポジションの偏り
第74回 ユーロ圏、厳しい財政ルール
第73回 米国の双子の赤字、ドル相場への影響は?
第72回 日本の貿易収支
第71回 国際収支と為替(2)
第70回 国際収支と為替(1)
第69回 円買い介入警戒感が続く
第68回 FXにも山・谷がある
第67回 FX、時間軸視点も大切
第66回 PPPよりかなりの円安
第65回 購買力平価説
第64回 米大統領選とドル相場
第63回 円の実質実効為替レート、50年ぶりの低水準
第62回 実質実効為替レート、通貨の強弱が分かる
第61回 FX取引には時間・季節も影響
第60回 プロと素人
第59回 相場に入る・離れるタイミング
第58回 FX、成功する人・失敗する人
第57回 外貨預金にも使えるFX取引
第56回 FXトレードスタイル(3)
第55回 FXトレードスタイル(2)
第54回 FXトレードスタイル(1)
第53回 近年の相場の軸足
第52回 FX相場の軸足
【第51回 ドル・ユーロ・円、3大通貨に注目】
【第50回 FX、取り組みのタイミング】
【第49回 大局観下でのアプローチ】
【第48回】大局観、身につけよう
【第47回】FX取引の投資資金
第46回 相場と真摯に付き合う
第45回 金相場と為替
第44回 うわさで買って、事実で売る
第43回 原油相場と為替
第42回 金利差拡大ならお金は金利の高い国へ
第41回 貿易収支と為替相場
第40回 米国、なぜドル高にこだわるのか?
第39回 景気と為替相場
第38回 先物市場で投機筋の動きを把握
第37回 米SVB経営破綻の為替相場への影響
第36回 インフレと為替
第35回 FX、最強の参加者は?
第34回 為替レートの安定は為替ディーラーに不利なのか?
第33回 FXの自動売買取引
第32回 注目度の高い米雇用統計
第31回 リスクオン・リスクオフ取引
第30回 注目度の高い経済指標
第29回 アフリカの人気通貨 南アフリカ・ランド
第28回 安全資産・逃避通貨のCHF
第27回 2023年の為替相場
【FX、やるならお得に】第26回 年末年始の取引に注意
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為替情報部 アナリスト

金 星

中国出身。横浜国立大学大学院卒業後、国内商品先物会社に入社。 外国為替証拠金取引会社へ出向し、カバーディール業務に携わりながら市況サービスも担当。 2013年にDZHフィナンシャルリサーチに入社。

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