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第43回 原油相場と為替

原油相場の動向要因

原油価格もあらゆる商品価格の変動と同じく、基本的には需給で決まります。景気が良ければ需要が増えるし、原油価格も上昇します。当然ながら世界1経済大国である米経済動向が大きな要因となりますが、近年は中国の経済状況の注目度が増しています。中国の原油輸入は世界1で、輸入額は2位の米国のほぼ2倍近く、中国の需要変化は産油国の輸出や原油価格に大きな影響を与えます。

 

また、原油の供給に大きく影響を与えるのは石油輸出国機構(OPEC)の決定です。

 

OPEC、OPECプラス

OPECは国際石油資本などから石油産出国の利益を守るために1960年に設立され、当初のイラン、イラク、クウェート、サウジアラビア、ベネズエラの5カ国から現在は14カ国に拡大しています。1970年代に石油の価格決定権を国際石油資本から奪い、2度のオイルショックを引き起こしました。1980年代半ばに価格決定権は自由市場に移りましたが、生産調整などにより原油価格に大きな影響を及ぼす存在となっています。もっとも、近年では米国のシェールオイル開発などにより、OPECの価格決定力は相対的に低下しつつあるとの見方もあります。

 

現在、OPEC原油のシェアは約30%台に低迷し、OPECに属さないロシアやメキシコなど10カ国の生産量は合計で世界の20%前後あるため、OPECと非OPEC産油国は産油国共通の利益を追求するために協調して需給調整を行う「OPECプラス」という枠組みを2016年に設定して、石油価格への産油国の影響力の維持を図っています。

 

世界原油取引の代表的指標

日本は輸入先の多くが中東(サウジアラビア、UAEなど)のため、ドバイ原油の価格が指標として多く使われます。そのほかに、

ブレント原油:欧州市場の指標価格。北海油田から生産される原油で硫黄分が少なく軽質油であることが特徴。

WTI原油:米国市場の指標価格。テキサス州とニューメキシコ州を中心に産出される原油の総称。ブレント原油と同様に硫黄分が少なく、ガソリンや軽油などが多く採れる高品質油であることが特徴。

 

原油価格とドルの相関

原油取引は主にドル建てでの取引となっており、ドル高となれば原油価格に割高感が生じることで売り圧力が強まります。逆にドル安となれば、割安感から買いが入り原油価格は上昇しやすいです。ただ、原油価格と為替相場の相関が強い時もあれば、関係性が薄く感じる時もあります。これはその時の市場参加者の構成変化、ファンダメンタルズに基づく将来価格見通しに関する市場の確信度合い、市場のモメンタムやセンチメントなどが背景として考えられます。

 

原油価格の変動は物価に大きな影響を与えます。原油価格の上昇・下落がインフレ・デフレーション、米連邦準備理事会(FRB)の金融政策決定にも影響を与え、FRBの政策決定がドル相場の変動につながる時もあります。

 

また、投資家のリスクオフ志向が強まると、為替市場では円やスイスフラン(CHF)、ドルが買われやすく、他の金融市場では安全資産とされる金や国債に買いが入る一方で、リスク資産とされる株や原油などに売り圧力が強まります。逆に投資家のリスク選好志向が高まると、円やスイスフラン(CHF)、ドルに売りが入りやすく、金や国債に売り圧力が強まる一方で、株や原油が買われやすい傾向となります。

 

原油と産油国通貨

産油国にとって原油は重要な外貨獲得商品です。高く売れればより大きな利益を手にすることができます。世界の原油輸出国1位はサウジアラビア、2位ロシア、3位イラクと日本から投資しにくい国が並んでいますが、4位が米国、5位にカナダと続きます。


FX取引で原油相場の変動に反応が目立つのが加ドルです。カナダは産油国であり原油の輸出量も大きい国です。カナダの全輸出品の中で原油等鉱物製品が占める割合は3割弱を占めています。つまり原油が高くなればカナダの貿易収支における黒字が増え、結果加ドルが強くなる可能性を想定することができる、というわけです。原油相場の変動は加ドルなど産油国通貨だけではなく、豪ドルや南アフリカ・ランド、メキシコペソなど資源国通貨の動きにも影響を与えます。

この連載の一覧
第93回 本間宗久が残した相場の極意
第92回 基軸通貨のドル、強い
第91回 外国為替相場制度
第90回 米長期金利とドル円
第89回 RBNZ政策金利とNZドル円
第88回 日銀、利上げに踏み切るも円安
第87回 日本、「金利のある世界」に向かう
第86回 豪中銀と政策金利
第85回 トランプ氏の再選リスク
第84回 加中銀とその金融政策
第83回 英中銀とMPC
第82回 ECBと理事会
第81回 FRB 、FOMC
第80回 人民元の基準値
第79回 円キャリートレード
第78回 日銀、1月会合でマイナス金利解除を見送るか
第77回 ドル円 ゆく年くる年(2)
第76回 ドル円 ゆく年くる年(1)
第75回 ポジションの偏り
第74回 ユーロ圏、厳しい財政ルール
第73回 米国の双子の赤字、ドル相場への影響は?
第72回 日本の貿易収支
第71回 国際収支と為替(2)
第70回 国際収支と為替(1)
第69回 円買い介入警戒感が続く
第68回 FXにも山・谷がある
第67回 FX、時間軸視点も大切
第66回 PPPよりかなりの円安
第65回 購買力平価説
第64回 米大統領選とドル相場
第63回 円の実質実効為替レート、50年ぶりの低水準
第62回 実質実効為替レート、通貨の強弱が分かる
第61回 FX取引には時間・季節も影響
第60回 プロと素人
第59回 相場に入る・離れるタイミング
第58回 FX、成功する人・失敗する人
第57回 外貨預金にも使えるFX取引
第56回 FXトレードスタイル(3)
第55回 FXトレードスタイル(2)
第54回 FXトレードスタイル(1)
第53回 近年の相場の軸足
第52回 FX相場の軸足
【第51回 ドル・ユーロ・円、3大通貨に注目】
【第50回 FX、取り組みのタイミング】
【第49回 大局観下でのアプローチ】
【第48回】大局観、身につけよう
【第47回】FX取引の投資資金
第46回 相場と真摯に付き合う
第45回 金相場と為替
第44回 うわさで買って、事実で売る
第43回 原油相場と為替
第42回 金利差拡大ならお金は金利の高い国へ
第41回 貿易収支と為替相場
第40回 米国、なぜドル高にこだわるのか?
第39回 景気と為替相場
第38回 先物市場で投機筋の動きを把握
第37回 米SVB経営破綻の為替相場への影響
第36回 インフレと為替
第35回 FX、最強の参加者は?
第34回 為替レートの安定は為替ディーラーに不利なのか?
第33回 FXの自動売買取引
第32回 注目度の高い米雇用統計
第31回 リスクオン・リスクオフ取引
第30回 注目度の高い経済指標
第29回 アフリカの人気通貨 南アフリカ・ランド
第28回 安全資産・逃避通貨のCHF
第27回 2023年の為替相場
【FX、やるならお得に】第26回 年末年始の取引に注意
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【FX、やるならお得に】第19回 取引量第3位(円)
【FX、やるならお得に】第18回 取引量が第2位の通貨(ユーロ)
【FX、やるならお得に】第17回 取引量が最も多い通貨(ドル)
【FX、やるならお得に】第16回 ファンダメンタルズ
【FX、やるならお得に】第15回 順張り・逆張り
【FX、やるならお得に】第14回 為替レートはテーマで動く
【FX、やるならお得に】第13回 為替の変動要因
【FX、やるならお得に】第12回 FXはゼロサムゲーム?
【FX、やるならお得に】第11回 FX取引の注文方法
【FX、やるならお得に】第10回 外国為替取引の中心はドル
【FX、やるならお得に】第9回 外国為替市場と為替レート
【FX、やるならお得に】第8回 FX取引で大事なこと
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【FX、やるならお得に】第3回 まず「FX」のこと、ちゃんと理解しましょう
【FX、やるならお得に】第2回 そもそも為替って何?
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為替情報部 アナリスト

金 星

中国出身。横浜国立大学大学院卒業後、国内商品先物会社に入社。 外国為替証拠金取引会社へ出向し、カバーディール業務に携わりながら市況サービスも担当。 2013年にDZHフィナンシャルリサーチに入社。

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