「制約的スタンス」確信できないFRB
米経済指標や米連邦準備理事会(FRB)高官発言に米金利・ドル相場が振らされています。鍵は「制約的スタンス」達成の可否、それに関連した思惑の転換点を読み解くことでしょう。
11月1日結果発表の米連邦公開市場委員会(FOMC)では予想通り政策金利であるフェデラル・ファンド・レート(FF金利)の誘導目標レンジが5.25-5.50%に据え置かれました。2会合連続の金利据え置きです。
FOMC後の会見でパウエルFRB議長は「次回会合の行動についてまだ決定していない」としつつも、「(利上げ)サイクルの終わりに近づいている」と発言。年内最終となる12月12-13日の会合でも金利が据え置かれるとの見方を強めました。
米10年債利回りは4.9%台で戻りを試していたところから失速。その後も低下が続き、8日NYタイム終盤に4.4%台まで水準を下げています(図表参照)。
しかし9日、パウエル議長が講演で「さらなる引き締めが適切になれば躊躇(ちゅちょ)しない」と述べたことで様相は変化。米長期金利は上昇して、今週13日には4.7%回復目前まで戻しました。
引き続き「慎重に行動し、会合ごとに決定」との姿勢は維持していますが、インフレ率を目標水準2%へ低下させるために必要な「制約的スタンス」を達成できたと確信していないとして、まだ物価安定へ向けた道半ばであること示唆しました。
引き締めへの警戒をいったん緩めていたマーケットは巻き戻しを余儀なくされました。米10年債利回りの戻りに加えて、日銀が金融緩和の解除へさほど前向きではないとの思惑もあってドル円は年初来高値151.91円をつけにいく動きを見せました。
「制約的スタンス」の思惑を読み解くことがポイント
その後、14日に米消費者物価指数(CPI)が弱い結果となったこともあり、米金利水準の戻りやドル高・円安の動きは失速しています。ただ、パウエルFRB議長が9日の講演で言及した「制約的スタンス」を達成できているかどうかは、今後も米金融政策の課題として度々浮上してきそうです。
米10年債利回りが5%絡みの動きになるなど高水準の金利推移も一助となり、マーケット参加者や一部FRB高官による「追加利上げをしなくても金融が引き締まっている『制約的スタンス』が実現できている」との受け止めにつながっていました。しかし足もとの米長期金利の大幅な低下により、2%目標を達成するような「制約的スタンス」が達成できているかどうか不透明感が高まっています。
金利低下が個人消費を刺激することなどが、インフレ2%達成への懐疑的な見方を強めそうです。そうなると「弱い米CPIなどもあって年内の政策金利引き上げはなくこのまま利上げ打ち止めになり、来年は利下げへ向かう」とのマーケット参加者の楽観的な見方が修正を迫られるでしょう。
米経済指標やFRB高官の発言をにらみ、「制約的スタンス」達成の有無を判断しつつマーケットは荒っぽく振れそうです。米長期金利は「利上げなしを織り込んでいったん4%付近へ低下しそうだが、インフレ2%になかなか近づけないなかで5%方向へ回帰するリスクを念頭に置いて臨むべき」(ヘッジファンド・ストラテジスト)との声も聞かれます。
米金利の上下にともない、「ドル円はいったん150円割れとなるような場面があっても、150円台を回復してくるような動きが想定できる」(同)ともいわれています。「制約的スタンス」達成の可否に関するマーケットの思惑の転換点を読み解くことが重要なポイントです。