言葉からひも解くマーケット

第96回「終幕は視野」日銀デフレ・ゼロ金利との闘い

日銀 ハト派からタカ派方向へのシフト示唆

 

これまでの緩和的な日銀金融政策に関して、内田副総裁が「終焉は視野」と述べたことが金利上昇を促す材料となっています。まだ為替の円安地合いに目立った変化はありませんが、マーケットが円安一服にもつながりそうな引き締めへの意識を強めていきそうな様相にあります。

 

5月27日、日本銀行の内田副総裁が日銀金融研究所主催2024年国際コンファランスの基調講演で「デフレとゼロ金利制約との闘いの『終焉は視野』に入った」と述べたことが注目を集めました。10年物国債利回りは同日1.025%と、約12年ぶりの高水準をつけています(図表参照)。

 

 

 

人手不足の深刻化など労働市場の変化や、デフレ状態を脱したと思われる物価上昇を踏まえ、今年3月に量的・質的金融緩和(QQE)やイールド・カーブ・コントロール(YCC)といった非伝統的な金融政策手段が役割を果たしたとしてマイナス金利解除に踏み切っていましたが、短期政策金利の操作を通じて2%の物価安定の目標を目指す伝統的な金融政策の枠組みをさらに進める姿勢を示したとマーケットは受け止めています。

 

内田副総裁は以前2月8日の金融懇談会で、「どんどん利上げをしていくようなパスは考えにくく、緩和的な金融環境を維持していく」と述べ、その後3月のマイナス金利解除を見越して高まっていたタカ派(金融引き締め派)的な思惑を大きく後退させた経緯があります。その内田副総裁が「終焉は視野」と述べ、ハト派(金融緩和派)寄りの姿勢を変化させたことが金利上昇を支援しました。

 

5月27日、植田日銀総裁も「これまでのところインフレ予想をゼロ%から押し上げることには成功したように思う」として、内田副総裁も触れていた「ゼロ金利制約の克服」を示唆していました。6月13・14日開催の次回の日銀金融政策決定会合における金利引き上げや長期国債買入れの減額・撤廃といった政策変更へとの見方を高めています。

 

 

「今回こそはこれまでと違う」緩和解除への姿勢

 

国債買い入れに関してはすでに5月13日、償還期間5年超10年以下のオペ買い入れ額を前回より500億円減額し、約4250億円とするなどの動きも出ていました。国債買い入れ方針の本格的な枠組み変更へ向けた地ならしと捉え、長期金利が1%台へ戻していく一助となりました。

 

もっとも、その後23日の国債買い入れオペで買い入れのオファー額は前回並みの4250億円に据え置かれ、一部にあった減額継続の思惑が肩透かしを食った感もあります。日銀がタカ派姿勢を明確にするか、そして効果がどの程度か不確かな部分もあり、為替相場は日米金融政策の温度差もあってのことですが、円安地合いに大きな変化は生じていません。

 

とはいえ、内田副総裁が前述した5月27日の講演の最後に「この言葉で締め括りたいと思います。『今回こそはこれまでと違う(This time is different)』」と強調して述べたように、金利水準については上昇を強めそうな流れになりつつあります。長期金利がようやく1%に乗せただけでなく、2%物価目標に見合うような水準を回復していくのであれば、為替の円安にも一服感が出てくるでしょう。

 

植田総裁も前回4月の日銀会合時点では失言ともとれる「基調的な物価上昇率に、円安が今のところ大きな影響を与えていない」との見解を述べ、為替の一層の円安を後押ししてしまいましたが、5月7日の岸田首相との意見交換後に「円安について十分注視していくことを確認」、8日の衆院財務金融委員会では「過去の局面と比べて為替の変動が物価に影響を及ぼしやすくなっている」と述べ、為替も意識した引き締め方向へ舵を切る姿勢を示し始めています。

この連載の一覧
第98回「欧州政局不安」極右台頭がユーロを不安定に
第97回「メキシコ初の女性大統領」新政権下のマーケット・為替は不安定か
第96回「終幕は視野」日銀デフレ・ゼロ金利との闘い
第95回「2%到達の確信」有無が米金利・ドルの行方左右
第94回「イエレン発言」で釘刺され円買い介入しづらい
第93回「介入余力」残り7-8回分、介入以外の円安抑制措置が必要
第92回「日米韓共同声明」為替介入の可能性は?
第91回「なんちゃって介入」挟みつつドル高・円安の流れ追う展開
第90回「RBNZ vs マーケット」利下げ時期を探るNZドル
第89回「粘着性」しつこいインフレ、底堅い他指標の合わせ技でドル堅調か
第88回「為替介入実績」区切りの28日以降の動き注視
第87回「噂で買って事実で売る」 地で行った円相場  日銀 異次元緩和の転換局面
第85回「もしトラ」から「ほぼトラ」「確トラ」へ  トランプ氏スーパーチューズデー圧勝
第84回「日経平均株価が最高値更新」も、ドル円の上攻めもう一押し支援必要か
第83回「テクニカルリセッション」も円買い介入のため異次元緩和解除へ
第82回「日米労働市況格差」が示す円安・ドル高
第81回「FOMC投票権」メンバーのタカ・ハト変遷注視
第80回「IMF世界経済見通し」ドル>ユーロ>円 示唆か
第79回「フィボナッチ61.8%水準」で底堅さ示すドル円
第78回「Xリスク」トランプ復活が歪なマーケット急襲
第77回「地震の影響」「『異次元』解除」見極めつつ、足もとの「米CPI・PPI」も注目
第76回「利下げ議論」したFRB/しないECB差異でドル・ユーロに明暗
第75回「チャレンジングな状況」肩透かし、日銀マイナス金利解除を急がず?
第74回「チャレンジングな状況」日銀マイナス金利解除を後押しか
第73回「HICP」鈍化、ECB目標達成の前倒しも
第72回「コスト構造の変化」ユーロ圏経済を圧迫
第71回「引き締め効果」金利低下で後退、米政策金利は高止まりか
第70回「制約的スタンス」達成可否に注目
第69回「原油安」豪ドルなど資源国通貨は重い動きに
第68回「第1の力」→「第2の力」バトンタッチ確認できない日銀、円安も止まらず
第67回「悪い金利上昇」米長期金利5%、高位も安定欠きドル円は重いまま
第66回「リスクセンチメント悪化」NZドル圧迫、政権交代後への期待も支えとならず
第65回「中東リスク」日米休場マーケット急襲、複雑で問題長期化へ
第64回「JOLTS好結果」→「米金利上昇/ドル高・円安」vs『覆面介入?』に続く、三つ巴「米雇用統計」×「米金利・為替動向」×『介入有無』注視
第63回「原油高」1.5倍のドル買い・円売りインパクト
第62回「BOE利上げ打ち止め観測」→ECBの動向も影響
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第60回「ファンダメンタルズから乖離」と主張しにくい円安
第59回「ジャクソンホール・キーワード」日米金融政策格差
第58回「前年度効果」はく落の影響が不透明、ジャクソンホールのインフレ終息宣言は難しいか
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第56回「フィッチ・ショック」はショック?
第55回「サプライズ必至」だった日銀YCC修正を7月会合で決定も為替は円安、日銀緩和継続観測による円安続くか
第54回「サプライズ必至」の日銀YCC修正、7月は回避?
第53回「7月FOMC以降の追加利上げ」の有無を見据えて動き出すマーケット
第52回「米利上げ軌道維持」も単月の景気・インフレ指標に振らされマーケット不安定
第51回「元安」当局下支えも下落リスク継続 連れて円安加速も
第50回「行き過ぎた動きには適切に対応」円安への対処 口先から実弾へ移行するか
第49回「FEDピボット」と個別要因の複合判断が必須
第48回「3者会合ライン」140.93円 仕掛けたい投機筋
第47回「インフレ期待低下」ECB政策・ユーロ相場は神経質な局面
第46回「米利上げスキップ」の有無
第45回「フリーダム・コーカス」共和党強硬派が米債務上限交渉をかく乱
第44回「Xデー」前に米与野党にらみ合い
第43回「KBW地方銀行株指数」が鳴らす警鐘
第42回「新日銀総裁・初会合」改めて緩和継続を示唆し株高・円安か
第41回「米景気先行指数」で米株高なら日本株に好影響
第40回「YCC・マイナス金利継続」日銀・出口まだ、為替は米金融政策との兼ね合いもありCPIに注意
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第37回「欧・米金融政策格差」ユーロ底堅いか
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為替情報部 アナリスト

関口 宗己

1987年商品取引会社に入社、市場業務を担当。1996年、シカゴにて商品投資顧問(CTA)のライセンスを取得。 市況サービス担当を経て、1999年より外国為替証拠金取引に携わり、為替ブローキングやIMM(国際通貨先物)市場での取引を経験した。 その後、外国為替証拠金取引会社で市況サービスを担当した後、2006年2月にマネーアンドマネー(現・DZHフィナンシャルリサーチ)記者となる。日本テクニカルアナリスト協会検定会員(CTMA2)。日本ファイナンシャルプランナー協会AFP。 その他、社会科教員免許、特許管理士、ボイラー技師、宅地建物取引主任試験合格証などを所持。趣味では2級小型船舶免許、オープンウォーター・スキューバダイビング免許を取得している。

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