日銀 ハト派からタカ派方向へのシフト示唆
これまでの緩和的な日銀金融政策に関して、内田副総裁が「終焉は視野」と述べたことが金利上昇を促す材料となっています。まだ為替の円安地合いに目立った変化はありませんが、マーケットが円安一服にもつながりそうな引き締めへの意識を強めていきそうな様相にあります。
5月27日、日本銀行の内田副総裁が日銀金融研究所主催2024年国際コンファランスの基調講演で「デフレとゼロ金利制約との闘いの『終焉は視野』に入った」と述べたことが注目を集めました。10年物国債利回りは同日1.025%と、約12年ぶりの高水準をつけています(図表参照)。
人手不足の深刻化など労働市場の変化や、デフレ状態を脱したと思われる物価上昇を踏まえ、今年3月に量的・質的金融緩和(QQE)やイールド・カーブ・コントロール(YCC)といった非伝統的な金融政策手段が役割を果たしたとしてマイナス金利解除に踏み切っていましたが、短期政策金利の操作を通じて2%の物価安定の目標を目指す伝統的な金融政策の枠組みをさらに進める姿勢を示したとマーケットは受け止めています。
内田副総裁は以前2月8日の金融懇談会で、「どんどん利上げをしていくようなパスは考えにくく、緩和的な金融環境を維持していく」と述べ、その後3月のマイナス金利解除を見越して高まっていたタカ派(金融引き締め派)的な思惑を大きく後退させた経緯があります。その内田副総裁が「終焉は視野」と述べ、ハト派(金融緩和派)寄りの姿勢を変化させたことが金利上昇を支援しました。
5月27日、植田日銀総裁も「これまでのところインフレ予想をゼロ%から押し上げることには成功したように思う」として、内田副総裁も触れていた「ゼロ金利制約の克服」を示唆していました。6月13・14日開催の次回の日銀金融政策決定会合における金利引き上げや長期国債買入れの減額・撤廃といった政策変更へとの見方を高めています。
「今回こそはこれまでと違う」緩和解除への姿勢
国債買い入れに関してはすでに5月13日、償還期間5年超10年以下のオペ買い入れ額を前回より500億円減額し、約4250億円とするなどの動きも出ていました。国債買い入れ方針の本格的な枠組み変更へ向けた地ならしと捉え、長期金利が1%台へ戻していく一助となりました。
もっとも、その後23日の国債買い入れオペで買い入れのオファー額は前回並みの4250億円に据え置かれ、一部にあった減額継続の思惑が肩透かしを食った感もあります。日銀がタカ派姿勢を明確にするか、そして効果がどの程度か不確かな部分もあり、為替相場は日米金融政策の温度差もあってのことですが、円安地合いに大きな変化は生じていません。
とはいえ、内田副総裁が前述した5月27日の講演の最後に「この言葉で締め括りたいと思います。『今回こそはこれまでと違う(This time is different)』」と強調して述べたように、金利水準については上昇を強めそうな流れになりつつあります。長期金利がようやく1%に乗せただけでなく、2%物価目標に見合うような水準を回復していくのであれば、為替の円安にも一服感が出てくるでしょう。
植田総裁も前回4月の日銀会合時点では失言ともとれる「基調的な物価上昇率に、円安が今のところ大きな影響を与えていない」との見解を述べ、為替の一層の円安を後押ししてしまいましたが、5月7日の岸田首相との意見交換後に「円安について十分注視していくことを確認」、8日の衆院財務金融委員会では「過去の局面と比べて為替の変動が物価に影響を及ぼしやすくなっている」と述べ、為替も意識した引き締め方向へ舵を切る姿勢を示し始めています。