足もとでは米金利が急上昇してもドル相場が下押す場面があり、「ドル離れ」の兆候が目立ち始めてきました。相互関税などトランプ政権の政策の影響で米経済が対応しきれないペースでインフレが進み、インフレと景気後退が同時進行するスタグフレーションのリスクが懸念されます。米金利が上昇しても米債売りにともないアメリカ資産が売られてドル安を招く事態に陥りつつあるようです。
トランプトレードにともない当初はドル買い先行
米トランプ政権による関税賦課が、各国株価の急落など金融マーケットに打撃を与えています。こうしたなか為替市場は「ドル離れ」の様相を呈しています。
トランプ政権発足当初は、経済浮揚策への期待などから米株価が上昇。いわゆるトランプトレードとされる動きを受け、為替も米国を中心とした株式市場への資金流入などを見越してドル買いが先行しました。
ドルの総合的な実力を示すドルインデックスは100ポイント付近から、トランプ大統領が就任する1月に向けて上昇基調をたどります。一時110ポイントを超えるドル高となりました(図表1)。
景気対策実行の財源を確保するための米国債発行による債券需給の緩みを見越した米債券売り・金利上昇も、この時点ではドル相場の押し上げに効いていました。しかし、その流れが次第に転換していくことになります。
足もとでは米債売り≒アメリカ売りでドル安も
1月の大統領就任式の際は、噂されていた広範にわたる一律の輸入関税導入の大統領令発令は見送られました。安心感を誘いましたが、2月にはカナダとメキシコからの輸入品に25%、中国からの輸入品に10%の追加関税を課す大統領令が発せられたことを受け、米インフレ再燃リスクへの意識がドル買いにつながる場面もありした。
ドルインデックスは109.88ポイントと、1月につけた110ポイント台の高値に再び迫る動きとなりました。ただ、この辺りから関税などトランプ政権による経済政策が貿易障壁を高め、移民政策も雇用ひっ迫を誘い、これらが景気に悪影響を及ぼすとの見方へだんだん転換していきます。
この時点の米金利は景気後退リスクを織り込み始め、低下で反応していました。米長期金利の代表的な指標とされる10年債の利回りは4.6%付近で戻りを試していた状態から徐々に低下傾向を強めていきます(図表2)。
しかし、あらゆる国を対象とするとした相互関税や、中国への合計108%に上る関税など、直近の動きを受け、異なった反応が目立ってきました。経済が対応しきれないペースでインフレが進むとの見方を一因とした金利上昇に加えて、米中の対立激化を背景に中国が米債を売り始めたとの観測や思惑から、足もとの米長期金利は9日の東京タイム時点で4.4%付近へ跳ね上がっています。
一方でドル相場は対ユーロで1.1ドル台を回復し、ドル円は144円付近へ下振れるなど、ドル売り・他通貨買いの動きに。インフレと景気後退が同時に進むスタグフレーションを嫌気して、米金利が上昇しても悪い金利上昇と受け止められ、米債売りとともにドル売りが進む事態に見舞われています。米債売りにともなう米資産売りすなわちアメリカ売りによりドル相場が圧迫される状況「ドル離れ」に悩まされることになりそうです。
ただ、不透明感で売買が手掛けづらく流動性が乏しいなか、思わぬ揺り戻しが入って荒っぽく振れるリスクも高いといえます。トランプ氏は、気に掛けている米株の動向を考慮してか、トーンダウンしてきたとの声も聞かれ、発言次第で直前の動きが急速に巻き戻されるリスクも念頭に置いて臨む必要があります。