米金利の上昇どこまで続くか、「中立金利」水準がポイント
米金利の先高観、日米金融政策の方向性の相違がドル円の円安基調を支援しています。円安が輸入物価を押し上げるなかでも、日銀は回復が鈍い景気への配慮から政策金利を引き上げられません。日銀の財務悪化を回避するためではないかとの考察も聞かれます。一方、インフレ加速への対応として、米連邦準備理事会(FRB)は利上げを開始しました。金利引き上げがどこまで進むのか、重要なポイントとなるのが「中立金利」の水準とされています。
インフレ対応で米利上げ加速
米連邦準備理事会(FRB)は、新型コロナウイルスの感染拡大が経済に与えた大きな打撃への対処として強化していた金融緩和の解除に動いています。昨年11月、大規模に実施してきた資産買い入れ(量的緩和策)の段階的な規模縮小(テーパリング)に着手。続いて、テーパリング開始時は「一過性」と判断していたインフレが、看過できない加速を伴ってきたことを考慮し、政策金利であるフェデラル・ファンド・レート(FF金利)の誘導目標レンジの引き上げが始まりました。
まずは米現地3月15-16日の金融政策決定会合の連邦公開市場委員会(FOMC)で、実質ゼロ金利の水準とされる0.00-0.25%から25bp(ベーシス・ポイント、1bp=0.01%)の利上げが実施され、誘導目標レンジは0.25-0.50%になりました。続く5月3-4日会合では50bp(0.75-1.00%)へ利上げ幅を拡大しましたが、インフレ率の上昇や高止まり、期待インフレ率の上昇が続き、利上げペースは加速。6月14-15日の会合では、75bpの利上げ(1.50-1.75%)が断行されました。足もとの注目点は、次回7月26-27日会合で、インフレ対応のための追加利上げ幅が50bpへ多少なりとも落ち着くか、75bpの大幅利上げが続くかという点です。
利上げ終着点の見定め、中立金利に到達時点のインフレ動向
そしてさらにその先、利上げの終着点が大きな流れを見定めるポイントになります。そのために重要なのが米国の「中立金利」水準の判断です。「中立金利」とは「自然利子率に長期的なインフレ率あるいは目標値を加えたもの」などと難しく定義されますが、これでは一般的な投資家はアレルギー反応を起こしてしまいそうですね。「景気を過熱も後退もさせない金利水準」と、平たく受け止めておけばよいでしょう。
各地区連銀総裁ほかFRB当局者が考える「中立金利」の水準は、2%付近から上限は2.5%付近に分布しています。「おおむね2.4%付近に位置する」とされているようです。今後、誘導目標の引き上げに沿ってFF金利が上昇し、中立水準に達した時点でのインフレの動向をさらに見定める必要もあります。そこでインフレ率がFRBの目標2%に向けて向かう状況になっているのかが、その局面の注目点となります。
もし、インフレが落ち着く状況になければ、市場は「FRBがインフレを十分にコントロールしきれていない」として、物価抑制のための利上げ継続や強化を行うとみるかもしれません。あるいは「景気後退の可能性を高めてまで物価を強く抑え込もうとしていない」との判断につながることも考えられます。いずれにしろ、ドルを押し上げていく可能性がある米利上げが続くかどうかは、「中立金利」水準へ到達した時点におけるインフレ状況の見定めが大切です。そのためにも、「中立金利」を意識して市場を見守る必要があります。