令和臨調「政府・日銀の共同声明」見直し提言
1月30日、財界人や学者などからなる有識者会議「令和国民会議」(令和臨調)は、2013年にデフレ脱却と持続的な経済成長の実現のためにまとめられた「政府・日銀の共同声明」の見直しを提言しました。日銀の緩和政策修正の思惑を後押しする材料となり、ドル円は130円台から一時129円前半へ下振れました(図表参照)。
その後は現地2月1日に結果公表の米連邦公開市場委員会(FOMC)を前にした思惑や警戒感から、いったん130円台を回復。しかし再び129円前半へ押し戻される場面もあり、円高傾向を脱しきれていません。
令和臨調は民間有志による政策提言の組織です。政府主催による諮問会議のようなイメージを抱く向きもあるでしょうが異なります。昨年夏頃には、同会議の熱意低下も指摘されていました。
同組織による「共同声明の見直し」提言とのニュースヘッドラインは、日銀のハト派姿勢後退に神経質な金融マーケット全般を刺激する要因となりました。しかし、実際にどれだけ影響力があるのか不透明といえます。
物価押し上げ先行策の見直しあっても、早々の引き締めは難しい
日銀の金融政策に関わる部分として注目を集めたのは、「物価2%目標の早期達成」にこだわっていた部分を、新たに「長期的な目標」との位置づけに修正すると求めた点です。2013年の共同宣言では「3本の矢」として、2%目標早期達成のための①「大胆な金融政策」とともに、持続性ある②「機動的な財政政策」、③「民間投資を喚起する成長戦略」実施を提唱していました。
しかし、現状は「物価2%目標達成」手段の①「大胆な金融政策」の一環である日銀の国債大量購入が、②「財政」の規律を大きく乱しています。異次元緩和の実施・継続にもかかわらず、③「成長」はぜい弱なままです。
業を煮やした令和臨調が、ようやく初めての政策提言をまとめたといったところでしょう。一方で翌1月31日、鈴木財務相から「政府・日銀共同声明の見直しの是非言及は時期尚早」と述べ、「共同声明」を出す際、日銀に語りかけた政府サイドから否定的な見解も寄せられています。
とはいえ、日銀の緩和後退へのマーケットの思惑は簡単に後退しないでしょう。次期日銀の有力候補・雨宮現副総裁が新総裁となった場合、政策修正期待からドル円が1円ほど円高になるとの試算もあります。
ただ、思惑が交錯して焦点がぼけている感があります。日銀総裁交代を控えた時期でもあることの連想で、「政府・日銀の共同声明」見直しが緩和後退につながると短絡的に捉えるのが正解ともいえません。
令和臨調の提言は、これまで「政府・日銀の共同声明」のもとで進めていた
①「大胆な金融政策」→②持続性ある「財政政策」→③「民間投資を喚起する成長戦略」
といった①(②をともなう)で物価をうまく上げれば、③の成長も促すとしていた流れが機能しなかった政策の改善点の指摘と受け止めることができます。
そこで、これまで物価押し上げをリード役として優先することで歪みが生じていた政策の優先順位を
①「生産性向上」→②「賃金上昇」→③「安定的物価上昇」
と見直すことを提言したといったところでしょう。
物価上昇のためなら何でもやる異次元緩和の終了が意識されるでしょう。成長努力を妨げる甘えを生むような行き過ぎた緩和は終了するかもしれません。ただ、①「生産性向上」にともなう②「賃金上昇」を支援するためには、引締めに転じるような政策転換を早々に進めるのは難しいでしょう。
過度な緩和政策が一部修正されたとしても、依然として欧米など他の中央銀行の緩和修正速度と格差がある金融政策の状況を再認識する局面がくると想定できます。その際、もし本邦金融マーケットが癇癪(かんしゃく)を起こしたように緩和後退や引き締め・利上げを織り込んでいるようであれば、大きな巻き戻しが入ると考えられます。