日銀引き締め、今後の鍵は「金利引き上げペース」
7月30・31日に開催された日銀金融政策決定会合では、政策金利の無担保コール翌日物の誘導目標を従来の0.00-0.10%レンジから0.25%に引き上げることが決定されました。あわせて国債購入について、これまでの月間6兆円程度から、四半期ごとに4000億円ずつ減額して、2026年1-3月をめどに月間3兆円まで抑える方針としました。
国債購入の減額に関しては今後のペースが示されています。国債購入の減額による引き締めが及ぼす影響を推し量るヒントになるでしょう。
一方で金利引き上げについては、植田日銀総裁は会見で「経済・物価見通しが実現していけば、引き続き政策金利を引き上げる」「金利の到達点について、今回利上げの影響を見つつ、歩きながら考える」と述べていました。今後の「金利引き上げペース」について明言していません。
日銀は、見通しの達成度を点検しつつ柔軟に政策を選択していくということでしょう。金融政策の行方を追って対応していくマーケット参加者にとっては、この「金利引き上げペース」を見定めることが大きな鍵となります。
「金利引き上げペース」ヒントは? 年内追加あるか
ヒントとなる3カ月ごとに公表される「経済・物価情勢の展望(展望リポート)」の今回7月分では、足もとの2024年度の生鮮食品を除く消費者物価(CPI)上昇率の見通しは前年度比2.8%から2.5%へ引き下げられました。政府がエネルギー価格上昇による国民の負担増への対応として電気・ガス代を補助する、いわゆる官製値下げが行われる影響を反映しています。
一方、2025年度分は4月時点の1.9%から、2.1%に引き上げられています。2%を超える物価上昇を安定的に維持するとのシナリオを裏付ける内容と考えることもできます。
さらに24・25年度については、企業の賃金引上げや24年度の官製値下げの反動による影響が物価の上振れリスクにつながる可能性を指摘しています。金融政策声明文では輸入物価が上昇に転じたことによる物価の上振れリスクにも触れていました。
2026年度については1.9%に据え置かれています。安定的な物価上昇を確信するにはややもの足りない水準ですが、時期が近づくにつれて切り上がり、目標値の2%以上を維持する道筋を示す状態になっていくか注視することになるでしょう。
他方で実質国内総生産(GDP)見通しは2024年度が統計改定の影響ではあるものの0.8%から0.6%へ引き下げ、25・26年度は1.0%に据え置かれました。物価は見通し引き下げが混在しつつも高止まりの様相を呈するなか、少なくとも統計上では稼ぐ力が現状以下にとどまりそうとの見方です。
可処分所得が目減りするなか利上げを進めることは最善策ではないのでしょうが、政府の財政出動による余力が限られるとの判断もあるのか、日銀に取りあえず対応できる物価上昇抑制のための利上げを行うよう圧力が掛かったようにも見えます。
政府絡みの材料も絡んでくると予想は難しくなりますが、植田総裁からは緩和的なレベルは維持しつつも金融政策の正常化を図りたい姿勢もうかがわれます。日銀内にも「白川日銀以前と同様の『上げられる時に上げないと、下げたい時に下げられなくなる』といった『のりしろ論』のような考えが復活した印象」(ヘッジファンド系ストラテジスト)との声も聞かれました。
「3月と今回7月に加えて、10月の利上げ」(前述のヘッジファンド系ストラテジスト)との見方があるなか、物価動向を中心に経済指標をにらみつつ、債券・株式・為替といった金融マーケットは「金利引き上げペース」や関連した思惑を反映して推移する状態が続きそうです。植田総裁は前回2006年から2007年の利上げ局面で天井となった0.50%が壁になることを会見で否定していましたが、まずはその0.50%をめどに利上げの流れを追っていくことになるでしょうか。