初の女性大統領、財政政策に不安
「メキシコ初の女性大統領」誕生で改革を期待したいところですが、ロペスオブラドール現大統領領の腹心とされるシェインバウム次期大統領は現行の政策路線を踏襲するとされています。物価水準が切り上がり、景気に頭打ち感のあるなかでは、財政状況や金融マーケットへネガティブに作用しそうです。
大統領選挙後に売られた為替を含むメキシコペソ資産に揺り戻しの反発が入る可能性もありますが、不安定な変動に見舞われやすいでしょう。まずは今週末7日の5月メキシコ消費者物価指数(CPI)への反応を確かめることになります。
6月2日に実施されたメキシコ大統領選挙では「メキシコ合衆国200年の歴史で初の女性大統領」となるシェインバウム氏が勝利しました。改革のイメージを高めることも多々ある女性の首長就任ですが、圧勝したシェインバウム氏が所属する左派与党・国家再生運動(MORENA)と連立会派による新政権は、ロペスオブラドール現政権のバラ撒き的なインフラ整備や国有企業優遇する体制を引き継ぎ、財政を圧迫するとの懸念を高めています。
財政悪化や国有企業優遇といったマーケットが嫌気する材料を意識し、メキシコの金融マーケットは株安・債券安・通貨ペソ安のトリプル安で反応。メキシコペソは週明け3日、対ドルで一時17.7ペソ台まで急落。翌4日には昨年10月以来の水準18.2ペソ台までペソ売りを強めました(図表参照)。
今回の選挙を約2か月後に控えていた4月初旬に2015年8月以来、9年ぶり近い水準まで為替をペソ高にしていた前政権の経済政策を引き継ぐとはいえ、インフレ水準が切り上がり、景気に頭打ち感が生じているなかでは、好況を反映したペソ高に象徴されるような、メキシコマーケットの好調は維持しにくいでしょう。
シェインバウム政権の先行きを懸念してペソ安などメキシコ資産を売る動きは、前政権でマーケットを押し上げたラミレス財務・公債相が留任するとのニュースを受けていったん落ち着きかけています。しかし、景況の雲行きが怪しくなり始めているなか、メキシコ中銀はこれまでのようなタカ派(金融引き締め派)姿勢を維持できないとみられます。
中銀のタカ派姿勢が緩むのなら、通貨ペソは弱含みやすいでしょう。政権の政策姿勢を反映した財政不安といったメキシコのファンダメンタルズ悪化も、ペソ建て資産への投資をためらわせそうです。
経済指標にも注目、週末にCPI発表
ペソは直近の安値水準からやや揺り戻されていますが、依然として選挙前の17ペソちょうど前後より安い17ペソ後半で推移しています。この流れを転換させることができるか否か、今後のメキシコ経済指標を追いつつ判断していくことになります。
直近の注目指標は週末7日発表の5月CPIで、市場は前年比+4.83%程度と、前回4月の+4.65%よりも伸びが大きくなると見込んでいます。インフレ指標が再び強まるさまを眺め、27日の中銀金融政策決定会合における追加利下げの見通しに見直しが入る可能性もあります。新政権の政策に対する不安感で売りを強めたメキシコペソに、一時的にせよ買い戻しが入ることも想定しておいてよいかもしれません。
インフレ指標など経済データと、「メキシコ初の女性大統領」政権下の政策運営、両にらみでメキシコマーケットの行方を追っていくことになります。また、地理的に有利な対米輸出で景気を浮揚させた面が強いメキシコ経済にとって、トランプ前大統領が当選する可能性も高い米大統領選の行方も大きく影響しそうです。ペソ相場を含むメキシコマーケットの変動が高まる展開を視野に入れて臨むべきでしょう。