言葉からひも解くマーケット

【言葉からひも解くマーケット】第16回「覆面介入」してる?

米CPI後の振れ、「覆面介入」か

 

本邦政府・日銀は、第一弾の円買い介入以降も「覆面介入」を行っているかもしれません。アメリカも「覆面介入」なら容認することは考えられます。円安阻止は難しそうにみえますが、ドル円が32年ぶりの149円乗せとなった現状において、逐次「覆面介入」が実施される可能性を視野に入れて臨んでおいたほうがよいでしょう。

 

9月22日に政府・日銀の円買い介入で、ドル円は145.90円から140.36円まで急落しました(図表1)。しかし、円安阻止の効果は限定的でした。先週10月13日には、予想を上回る米9月消費者物価指数(CPI)を受け、米金融引き締めが続くとの見方から米金利上昇・ドル高が強まり、ドル円は147.67円まで上伸。直後に145.60円へ押し戻され、「再び介入か!」との観測も浮上しましたが、やはりドル高・円安の流れは止まりませんでした。週明け17日以降は押し戻される場面を挟みつつも32年ぶりのドル高・円安水準149円台で上値を伸ばす動きが続いています。

 

 

 

この局面で最初の介入となった9月22日については、実施後の同日夕刻に鈴木財務相と神田財務官が会見を行い「投機による過度な変動を見過ごすことはできない」、「断固たる措置をとる必要性を共有」として、過去最大規模とされる円買い介入を行ったと表明しています。

 

一方、先週13日の米CPI後に高値から下方向(円高)へ振れた動きについて介入の有無を問われた際は、実際に行ったかについて「言うときもあれば、言わないときもある」としていました。ただ、14日発表の日銀当座預金残高の17日時点の見通し額が1兆円ほど減少するとの見方を示したため、マーケットは13日も介入を行っていたとみているようです。

 

 

為替手当ての猶予を設ける「覆面介入」

 

当初の介入後の会見で、「断固たる措置をとる必要性を共有」と述べ、米CPI発表後の高値から円高へ振れる前にも、鈴木財務相の「急激な変動があれば断固たる対応」との発言が改めて伝わっていました。「断固たる」との文言は、介入実施や「覆面介入」と疑われる行動に関連するキーワードと捉えることもできます。


直近でドル円が149円乗せ絡みの動きとなるなかでも、財務相は「断固たる措置を取る考えに変わりない」、岸田首相も「過度な変動には断固として必要な対応を取りたい」と述べており、当局のさらなる行動を警戒すべきかもしれません。

 

岸田首相の訪米に際し、アメリカの財務省は日本の円買い介入に関して「このところ高まっている円のボラティリティーを下げることを目的とした行動と理解」と、一定の容認姿勢を示しています。協調行動の裏付けこそありませんが、あからさまな為替操作をせず、目立たないように「覆面介入」する余地は与えられたかもしれないと、マーケットが疑ってもおかしくないでしょう。本邦当局が、実施の有無を明言しない「覆面介入」も交えて円安進行に歯止めを掛けようとしているとの疑心暗鬼を強めています。

 

ただ、目立たないように行う「覆面介入」だとしても、円安進行を完全に阻止するような行動までアメリカが許すとは考えにくいでしょう。日本が通貨安に悩んでいるとはいえ、より高水準なインフレを強いられているアメリカの通貨ドルのトレンドを急転させるほどのドル売り・円買い介入が受け入れられことにはならないと思います。

 

おそらく、急激に進む円安でドルなど外貨の手当てが間に合わない日本の輸入企業への配慮として、円安進行のペースを調整する範囲にとどまるでしょう。「145.90円まで急速に進んだ円安で機会を逸したが、140.36円まで急落する間にドルを買う猶予を与えた」「米CPI後に再び147.67円まで担ぎ上げられたものの、直後に145.60円まで下振れる局面でドルが買えるようにした」といった具合に、高インフレへつながる輸入物価の急上昇回避に配慮した格好です。

 

ドル円が32年ぶりの149円台となっていることを受け、政府・日銀が再び介入で為替を手当てする猶予を設けるような展開はあるのでしょうか。「断固たる」との文言がちらほら聞かれ始めるなか、ドル高・円安基調が変わるほどではないにしても、アメリカの顔色をうかがいながら「覆面介入」を行う可能性は想定しておくべきかもしれません。

この連載の一覧
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第91回「なんちゃって介入」挟みつつドル高・円安の流れ追う展開
第90回「RBNZ vs マーケット」利下げ時期を探るNZドル
第89回「粘着性」しつこいインフレ、底堅い他指標の合わせ技でドル堅調か
第88回「為替介入実績」区切りの28日以降の動き注視
第87回「噂で買って事実で売る」 地で行った円相場  日銀 異次元緩和の転換局面
第85回「もしトラ」から「ほぼトラ」「確トラ」へ  トランプ氏スーパーチューズデー圧勝
第84回「日経平均株価が最高値更新」も、ドル円の上攻めもう一押し支援必要か
第83回「テクニカルリセッション」も円買い介入のため異次元緩和解除へ
第82回「日米労働市況格差」が示す円安・ドル高
第81回「FOMC投票権」メンバーのタカ・ハト変遷注視
第80回「IMF世界経済見通し」ドル>ユーロ>円 示唆か
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第78回「Xリスク」トランプ復活が歪なマーケット急襲
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第76回「利下げ議論」したFRB/しないECB差異でドル・ユーロに明暗
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第72回「コスト構造の変化」ユーロ圏経済を圧迫
第71回「引き締め効果」金利低下で後退、米政策金利は高止まりか
第70回「制約的スタンス」達成可否に注目
第69回「原油安」豪ドルなど資源国通貨は重い動きに
第68回「第1の力」→「第2の力」バトンタッチ確認できない日銀、円安も止まらず
第67回「悪い金利上昇」米長期金利5%、高位も安定欠きドル円は重いまま
第66回「リスクセンチメント悪化」NZドル圧迫、政権交代後への期待も支えとならず
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第64回「JOLTS好結果」→「米金利上昇/ドル高・円安」vs『覆面介入?』に続く、三つ巴「米雇用統計」×「米金利・為替動向」×『介入有無』注視
第63回「原油高」1.5倍のドル買い・円売りインパクト
第62回「BOE利上げ打ち止め観測」→ECBの動向も影響
第61回「RBA(豪準備銀行)悪手」打つリスク
第60回「ファンダメンタルズから乖離」と主張しにくい円安
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第58回「前年度効果」はく落の影響が不透明、ジャクソンホールのインフレ終息宣言は難しいか
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為替情報部 アナリスト

関口 宗己

1987年商品取引会社に入社、市場業務を担当。1996年、シカゴにて商品投資顧問(CTA)のライセンスを取得。 市況サービス担当を経て、1999年より外国為替証拠金取引に携わり、為替ブローキングやIMM(国際通貨先物)市場での取引を経験した。 その後、外国為替証拠金取引会社で市況サービスを担当した後、2006年2月にマネーアンドマネー(現・DZHフィナンシャルリサーチ)記者となる。日本テクニカルアナリスト協会検定会員(CTMA2)。日本ファイナンシャルプランナー協会AFP。 その他、社会科教員免許、特許管理士、ボイラー技師、宅地建物取引主任試験合格証などを所持。趣味では2級小型船舶免許、オープンウォーター・スキューバダイビング免許を取得している。

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